004 : 或る異世界
「先生、暫くお暇致します」
精一杯の寂しげな表情でサヨナラを告げる私に、
先生が瞳から最後の雨を降らせる。
先生、やっぱり中西保志は天才です。
「目薬ぐらい、黙って注させて欲しものだ」
「ですから、暇乞いを」
「いや君、そもそも呼…」
…んでないのだが、と動いた様に見えた
先生の口の動きは多分ツンデレ。
ツンツンしている様で実はデレデレだ、
と言う事を私は知っている。
人は信じたいものを信じる、それで良いと
岡本太郎も言っていた。
「異世界に暫く転生」
「待ちたまえ」
財布から徐に一万円札を取り出す。
「餞別だ。好きに使うといい」
「止めないんですか」
「何故止めると言うのかね…フッ…」
くくく、と押し殺し気味に笑う。
こう言う茶番、嫌いではないよ、と続ける先生に、
私は悲壮な表情で返した。
「異世界逝きは、日野かいすゞで迷ってます」
「そうだな、メルセデスかボルボと言う手もあるが」
「外車がお好きなんですね」
「確実に逝くには、日本車は不確実過ぎる」
安全面でね、と、ほくそ笑む先生は悪魔。
副司令を越えてもはや総帥。
ネオ・アトラン。
「異世界への逃避は時間の先延ばしに過ぎん」
「チートになる可能性があります」
「確率の問題だよ。
成功体験ばかり信じるべきではない」
「確かに。でも先生、私は、
それでも私は(なろう系)を信じたいんですっ!」
「その意気や良し」
などと…私が言う筈がなかろう。愚か者め。
仮面の下でニヒルな笑いを浮かべつつ、
彼は押し殺した声で答えた。
―――かの様な、
後に続く言葉を転生バ…アは聞き逃しても、
私は聞き逃さない。まだ若いので。
とりあえず先生、塩になる時間は近いですよ。
「異世界転生、異世界押活、異世界ちゃんこ」
やれやれ、と首を振りながら、まだ続けるのか先生。
「世界は全て平行なのだよ。
異世界は異世界ではない、その世界が現実だからな。
そして………気をつけたまえ。
世界は君に復讐する。
世界を異世界とする君に、
異世界とされた世界は君を冷酷に制裁するだろうね」
人に指を指してはいけません。
フフッ、と他人の不幸を面白そうに笑う先生は、
どうやら異世界が実は異世界ではなく並行世界の一つ、
私がいる世界が世界であり「異世界」と定義するのは
大きな誤りである、と伝えたいらしい。
何とも回りくどい言い方である。
やたらと異世界事情に詳しい
先生の知識量に敬意を表しつつ、
先生先生ねえ先生哲学的に
異世界転生はどうなんでしょう
馬鹿な夢なんでしょうか
所詮負け犬の見る夢物語なんでしょうか
異世界でないと現実が辛過ぎてもうやってらんないとか
先生そこに救済はあるんでしょうかねえねえと
矢継ぎ早に質問したい所、
いやーな顔をされかねないのでグッと自重。
「やっぱり、いすゞのエルフ…
もとい、ネルフですね」
「涅槃で待ちたまえ君」




