職業【冒険者】は成立するか?
かなり久しぶりのエッセイなので、文章構造が不自然かもしれません。
論理破綻はやわらかく指摘してくださるとありがたいです……。
1,はじめに
最近は異世界恋愛の大旋風が吹いているが男性向けとしては未だに人気を誇るジャンル、『異世界ファンタジー』。主人公が創られた世界でたくましく生き抜いていく、どの時代でも一定のシェアを誇る題材である。現代では、科学技術の発展によって『バーチャルリアリティ(VR)』という異世界体験のできる装置も出てきており、このジャンルの幅はますます広がるばかりだ。
そんな戦闘系ハイファンタジーやVRゲームものにおいて、必須と断言していい要素がある。そう、『冒険者』だ。
名称こそ変更されていても、『冒険者』の役割はしばしば登場する。例えば、召喚された量産型勇者なりギルドに雇われた用心棒なり、肩書が『冒険者』でなくともそれに準ずる立ち回りのキャラは存在することがある。
今後説明するのが面倒くさいので、定義をここに記しておく。冒険者とは『専らモンスター狩りやダンジョン潜り、未開拓地の探索を主とする者』。安易に呼び出される勇者とやらも、それが平原のモンスター狩りや魔王討伐に従事するのであれば該当する。(そもそも『勇者』は結果についてくる称号であり、『勇者』が最初から存在するのはおかしい気がするが……)
さて、この冒険者だが、一般には職業として認識されている。それはそうだ、職業でなければ趣味でモンスター倒しに努める命知らずになってしまう。そのくせ『冒険者』以外に仕事を(基本的には)していないのだから、死に急ぎとしか認識できない。
つまり、そういうことだ。『冒険者』は職業なのである。
『冒険者』は職業なのである。
違和感を覚えないだろうか? モンスターを狩っているだけで、ダンジョンを攻略するだけで職業認定していいのだろうか、と。
現代社会において、ある人が『職業に就いている』とは『その仕事を遂行することによって報酬を得、それによって生計を立てられている』ことを意味する。一つ例を挙げると、小説を垂れ流す人が小説家を名乗るのは勝手だが、それは職業でないということだ。これはアマチュアとプロという対立構造ではなく、小説執筆だけで生きていけるかどうかが境界になっている。
冒険者として生きていくには、野垂れ死なない程度の報酬を受け取る必要がある。報酬が発生するには、
・その仕事に需要・供給があるか
・支払われる報酬が最低限生活を充足するか
の二点のチェックが必要不可欠である。以下では、この二点を順に調べていく。
なお後出しじゃんけんにはなってしまったが、ここでの検証は『異世界ファンタジー』に限定することとする。(VR系は仮想世界であり、実際に世界が存在する『異世界』と比べて厳密性を追い求めなくても良いため)
2,冒険者に需要・供給はあるか?
先に定義したように、冒険者の主な仕事としては
・モンスターを討伐する
・ダンジョンを攻略する
の二つがある。モンスターの討伐は、都市や農村に攻めてきたモンスターの撃退でも構わない。人間以外の敵、エルフやドワーフ等は基本的にモンスターに含めるが、その世界がエルフやドワーフを『人間』扱いしている場合は除外する。それは『人間vsモンスター』ではなく『人間vs人間』になってしまい、冒険者の定義から外れてしまうからだ。
まず、人間の住む地帯に攻めてくるモンスターの撃退。これは明らかに需要が存在する。人里に下りてくるクマを狩る猟師不足が深刻化しているように、撃退する者がいなければ人間のコミュニティは崩壊してしまう。ゴーレムが町中を闊歩していると想像すると……、外出できそうにない。
問題になるのは供給だ。都合よくモンスターが攻めてくればよいが、モンスターは脳がミジンコだと相場は決まっている。自由気ままに移動し、目についた人間を襲う。これでは安定して仕事が発生するわけがない。
モンスターが賢かったとすれば? 『人間の集まる場所』とだけ認識できるモンスターがいれば? そんな奴らは瞬く間に冒険者に倒され、絶滅してしまう。ループは永遠に続かない。
モンスターの撃退は、機会がいつ訪れるか分からない不安定なイベントなのだ。時期が定まっている採点バイトよりタチが悪い。下手をすれば一年中休業になる。そんな仕事を『職業』と呼べるだろうか? 呼べたとしてもそれは副業に過ぎず、大半の小説のようにメインの職にはならない。
更に言えば、需要も怪しいものがある。街を守るのは本来統治する国の責任であり、見ず知らずの武力一本が集まるギルドよりも統制された国軍を出動させる方が自然だ。ギルドに委託されていると考えることもできるが、そのギルドは(よほどの猛者がいない限り)人数は多いはずで、需要を人数で割ると僅かになってしまう。
主人公最強ものは需要が主人公に吸収されるのでいいかもしれないが、それは職業『冒険者』があることの説明にはならない。世界に職業『冒険者』が存在する以上、一般論として成立しなければならないのだ。一人にとったアンケート結果が使いものにならないのと同様である。
次に、より普遍的なモンスター討伐について考える。『居住域を襲撃』は限定されたものであって、よくある設定は荒野や森林でモンスターを捜索し、狩るというものだ。RPGのように金やアイテムはドロップしないので、狩猟そのものに意味を見出さなければならない。
『なぜ自由に生きているモンスターを狩らなければならないのか?』
特に物語では軽視されがちだが、モンスターをむやみやたらに狩る大義名分はどこにもない。現実で害を及ぼすクマやイノシシですら、みだりに駆除しようものなら生態系が崩れる。倫理的な問題にもなるだろう。
理由付けをするならば、開拓のためだろうか。村と村を繋ぐ経路をつくりたいのであれば、その道中に生息するモンスターは討伐しなければならない。新たに都市を建設するのであれば、まずモンスターを駆除しなければならない。確かに『需要』はクリアしていそうだ。人口増加が著しいと仮定すれば、『供給』も継続しそうである。
モンスターの一部分を欲しがる収集家がいる、も要素になるだろう。人類の歴史でもコレクターによって狩猟が活発になった時期があるくらいだ。需要は小さそうだが、供給は継続しそうである。(もっとも、それによって生態系は崩壊しそうだが……)
ダンジョン攻略に……と行きたいが、こちらは設定からして無理があるものが多すぎる。奥のボスを倒すとアイテムが手に入る、ダンジョンに潜ることそのものにボーナスが与えられる等……。
『まだ攻略されていないダンジョンの全貌を解き明かす』目的であれば、辛うじて資金提供されそうか。史実でも、北極や南極探検には国が資金を援助してきた。人という動物は、未知なる場所が好きなのだ。供給は全く期待できないので、職業にするかと問われれば疑問符が付くのは確かである。
結論としては、
・モンスター討伐:仮定付きであれば需要・供給共に安定しそう
・ダンジョン攻略:そもそもダンジョンの定義が不明瞭であり、また供給も限定的
であり、少なくとも仕事としては継続できそうだ。(物語中でそう設定されているかは棚に上げる)
3,冒険者として生活していけるか?
大問題なのはこちらの方である。主人公はたいていチート性能なので金稼ぎに困っていないが、一介の冒険者が生活できる水準で稼げるかは別の話だ。一般人が生きていけないのであれば、それは職業ではないし、冒険者という言葉が存在してもいけない。主人公が転移・転生・成長する前から世界の仕組みは変化していないだろうから。
冒険者は、リスクが高い。モンスターに負ければ待っているのは死であり、また傷ついても働けなくなる。福祉の整っていないナーロッパ世界、それは死に直結する。
史実の中世で先陣を切る兵がいたのは莫大な報酬が待っていたからである。冒険者にそのような大きなリターンがあるかと問われると……、明らかに強い主人公ですら莫大な報酬をもらっていないファンタジー世界には無理な相談だ。
冒険者である以上、何の仕事を生業にするにしても、報酬金を支出するのは『王国』か『ギルド』かだ。王国ならば国の業務委託、ギルドであれば依頼主からの委託として、また仲間内からの私財から、どちらも金銭が支払われる。ほとんどのファンタジーものは冒険者がギルドor王国に属しているため、個人に雇われたパターンは考えない。
ちなみに、ここでいうギルドは冒険者版ハローワークである。仲介手数料で稼ぐシステムなので、冒険者はいくらいても困らない。登録がすんなり済むのもそのおかげだろう。このような設定の作品でもよく『○○ギルドに所属している俺はエリート』のような発言が見受けられるが、(設定された)ギルドの仕組みも分かっていない残念な冒険者である。(ついでに主人公に倒されるのがオチ)
ここに問題が生じている。王国は金銭を無限製造できるとして、依頼主は数も資産も無限ではない。また依頼頻度も不定期である。依頼主が定期的、または頻繁にモンスターに襲われているのなら冒険者を雇うべきであり、襲撃が予知できていながら都度ギルドに依頼をするのは不自然であるからだ。
大半の世界では『冒険者はギルドに所属するもの』であり、『個人契約主』ではない。この設定が職業としての冒険者生活を困難にしている。組合費を払わなくていいだけまだマシ……? それはそれで冒険者の絶対数が増加してじり貧になりそうだ。詰みである。
王国からの支給だとしても、冒険者の未来は暗い。本人は自らの命を賭しているが、王国からすれば使い捨ての駒にすぎないのだ。軍隊にスカウトされない程度の能力であれば、いなくなったところで影響ないと考えても不思議ではないだろう。
仲間組織のギルド(先に述べたハロワ型ではない)に所属し、そのギルドが王国から報酬をもらっているのなら……、まだ救いがありそうだ。それしかない。ことある度に出撃している気がするのは気のせいか否か……。ルーデル(ナチスドイツのヤバい空軍の人)閣下ですかあなたたちは……。
4,結論
リスクとリターンがあまりにも見合っていない。そもそも未来がない。パイの取り合いで稼げない。
ギルドに入るヒマがあるなら王国か地方組織(ハロワ型ギルドではない)に直接仕官するのが良き。
転生・転移したら商工人を目指そう! どこの世界も大金持ちは強いのだから……。
でも現地主人公は冒険者になりたがるんですよね……。
眠気に負けました。




