表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

ラップタイムが乱れる

オールアウトの練習が、本格的に始まっていた。

グラウンドには声が飛び交い、スパイクが砂を蹴っていた。


目の前を、美空みくが100mを走り抜ける。

ゴールラインを越えて、肩で息をしながら、私の方を見てきた。

「……タイム、どう?」

ストップウォッチを見る。


――11.99。


「えっ! 抜かれてる……」

一瞬だけ、迷った。


「……12.99」


「え? ほんとに……?」

美空は、一瞬、不思議そうに眉を寄せたが、すぐに笑顔に変わった。


「あーやっぱり、彩花の推薦タイム12.00には全然だわ」

私は、曖昧にうなずいた。


そのあと、美空のタイムは13秒台に落ちてしまって、

12秒台にも戻ることはなかった。

フォームも崩れていた。

腕ふりに無駄があって、踏み込みも浅い。重心がぶれていた。

でも私は、それを何も指摘しなかった。

「大丈夫。疲れが溜まってるだけだよ」

「すぐ戻るって」

そんなおざなりな言葉を並べてる自分に、気づいていた。


――抜かれなかった安心感。

――嘘がばれていないかと思う不安。

――美空を応援できない自己嫌悪。


いろんな感情が混ざりあった。




***




放課後、部室の前。


ドアノブに手をかけたところで、中から声が聞こえた。

私の代わりにリレーに出ることになった、二年の栗原の声だった。


「……100mは個人だから手を抜いても。でも、リレーは本気で走ってください」


「はっ?」

美空の声。明らかに戸惑ってる。


「彩花先輩のケガのことで、先輩が責任を感じてるって、みんな言ってます。

だから……彩花先輩の推薦タイムを、わざと抜かないようにしてますよね?」

「彩花先輩の推薦が無くならないように」


「……そんなこと」

美空の声がかすかにふるえていた。


「えっ!」

思わず声が漏れた。


美空と栗原が、同時にこちらを振り向いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ