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ディスティニー・アーク

作者: 雪代深波

第一章:転校生と二つの弧


新学期、どこか浮ついた空気が漂う教室に、一人の転校生がやってきた。彼の名は朝比奈あさひな りつ。涼やかな顔立ちと、物憂げな瞳が、否が応でも周囲の視線を集める。学校一のクールなモテ男として知られる白石しらいし しずくは、そんな律に一瞥もくれず、窓の外の景色を眺めていた。彼の完璧なまでにクールな振る舞いは、周囲の憧れであり、その内側には、誰にも明かせない秘密を抱えていた。

雫の「クールさ」は、幼い頃から時折発動する奇妙な能力――空間把握と読心術――を抑え込むための彼なりの防御策だった。不意に聞こえてくる他人の心の声や、世界の微細な歪みを感じ取る感覚は、雫の精神を常にすり減らしていた。だからこそ、彼は感情を表に出さず、周囲との間に見えない壁を築き、自らの能力を「どうしようもない時」以外は決して使わないと心に決めていた。

しかし、律の登場がその平穏を打ち破った。律もまた能力者であり、その力をなんのためらいもなく野心のために使っているのだ。ある日のグループワークで、律がクラスメイトの心の声を読み、その意見を横取りした時、雫は静かに、しかし明確な声で律を呼び止めた。「朝比奈、少し話があるんだけど」。人気のない廊下で、二人は初めて言葉を交わした。

「さっき……人の心を読んだな」

雫の問い詰めに、律はニヤリと笑った。「ほう?君も、なかなか鋭いね」彼は隠すことをやめ、挑戦的な目を雫に向けた。「力があるなら使うのが当然だろ?お前みたいに、力を持て余している方がどうかしてるぜ」。

この出会いをきっかけに、二人の間には、能力に対する価値観の衝突が生まれた。律は、能力を使いこなし、社会での地位を確立しようと野心を燃やす。一方、雫は、その力の危険性を誰よりも知っているからこそ、能力を封じ込めて生きていくことを選んでいた。互いに反発し合うばかりで、二人の間には溝が深まっていく。

しかし、そんな二人の関係に変化が訪れる。学校内で奇妙な事件が起こり始めたのだ。生徒たちの持ち物が次々と消え始め、校内には不穏な噂が広がり、疑心暗鬼が渦巻く。普段はクールな雫も、親しい友人の大切なものがなくなったことで、焦りを隠せない。これは、自分の能力を使うべき「どうしようもない時」なのかもしれない。

ある日の夕方、雫は校舎の裏で、事件の犯人と思われる生徒が、盗んだ物を持ち出そうとしている場面に遭遇した。犯人は逃げようとするが、転んで足をくじいてしまう。彼は必死に雫に助けを求める。しかし、雫は迷っていた。この状況で能力を使えば、すべてが明るみに出てしまう。その刹那、犯人の足元で地面が崩れ、彼はさらに深い穴へと落ちていく。

「くっ……!」

雫は意を決した。心の奥底で、彼は呪文を唱える。「ヒカリトホシノアリカ」。

彼の足元に、淡く光る半円の紋様が浮かび上がる。そして、そこから現れた制御用の槍を地面に突き刺すと、彼の両方の瞳が、水色と赤色の二色に分かれて輝いた。雫は空間の歪みを一瞬で把握し、犯人の足元に落ちた鞄を引き上げ、意識を失いかけている犯人の隠された居場所を探し当て、救助を呼んだ。

しかし、その一部始終を、たまたま校庭のベンチに座っていた複数の生徒たちに目撃されてしまう。翌日、学校は騒然となった。「白石くん、すごい能力だって!」「まるでヒーローだ!」と憧れの眼差しが向けられる一方で、「人の心を読めるなんて……怖い」「あいつ、何考えてるか分かんない」と危険視する声も上がり、雫は孤立を深めていく。



第二章:交わる運命の座標


ヒーロー扱いされる一方で、孤立を深めていく雫。そんな彼を、律は冷めた目で見ていた。「ほら見ろ。力を使えばこうなる。お前が力をひた隠しにしてきた理由がそれだろう?」しかし、事件はまだ終わっておらず、盗難の被害は続き、学校はパニック状態に陥っていく。律は事件の真相に近づくために、積極的に能力を使い、証拠を探し始める。だが、彼の力は、どうしても犯人の隠された動機や、事件の裏にある「空間の歪み」を捉えきることができなかった。

一方、孤立した雫は、一人で事件を追い続けていた。彼が持つ、繊細な空間把握と読心術がなければ、事件は解決しない。二人は偶然にも同じ場所で、事件の鍵となる「ある物」を探しているところで鉢合わせる。律は、雫の力が必要だと認めざるを得なかった。

「この事件は、僕の力と、君の力がなければ解決できない」

律は、一瞬驚いた顔を見せたが、すぐにフッと笑った。「面白ぇな。いいだろう。最強の力を証明するために、この事件、俺が解決してやる」。敵対していた二人の間には、いつしか奇妙な友情が芽生え始めていた。

二人の協力は、互いの能力に対する深い理解から始まった。律は、雫の能力を「慎重で繊細すぎる」と嘲笑しつつも、その正確な洞察力に驚嘆するようになっていた。一方、雫は、律の強引で大胆な能力の使い方に、自分にはない強さを感じ始めていた。

ある日の放課後、二人は事件の被害者たちの証言を元に、校内の「空間の歪み」を辿っていた。雫が指差した場所は、美術室の裏にある小さな物置だった。中には埃をかぶった古ぼけた絵画と、ガラクタの山。律の目は、すぐに絵画に描かれた奇妙な紋様に留まった。それは、半円の紋様に酷似していた。

「なんだ、これ……」

律が絵画に触れた瞬間、彼の周りの空間が激しく歪み始める。彼は能力の暴走を抑えきれず、苦しそうにうめいた。その時、彼の頭の中に、耳をつんざくようなノイズと、誰かの悲鳴が響き渡る。

「くそっ、うるせぇ……!」

雫は、その悲鳴が過去の記憶の断片であることを、直感的に理解した。「律! その絵から離れろ!」

しかし、律の力は制御不能になっていた。彼は力を使いすぎていたのだ。このままでは、彼の精神が破壊されてしまう。

雫は意を決した。「ヒカリトホシノアリカ!」

足元に光る半円の紋様が浮かび上がり、そこから現れた槍を地面に突き刺す。彼の両方の瞳が水色と赤色に分かれ、輝きを放った。雫は、暴走する律の力の「座標」を正確に把握し、その力の源を封じ込めるように、空間を再構築する。

激しい光が収まった後、律は地面にへたり込み、荒い息を吐いていた。「お前……」律は、呆然とした表情で雫を見つめる。雫の能力は、単に物事を探し当てるだけでなく、暴走した能力を制御する力も持っていたのだ。それは、律が知るどんな能力者よりも、強力で、そして優しい力だった。

「俺らの能力は、ただの道具じゃない」

雫の言葉に、律は何も言い返せなかった。彼は、自身の野心のために力を使いすぎて、危うく自滅するところだったのだ。雫の力によって救われた律は、初めて自分の能力の使い方を深く見つめ直すことになる。

そして、二人はその絵画が、何十年も前に同じような能力を持っていた生徒が残したものだと知る。その生徒は、自分の能力を制御できずに暴走し、悲劇的な事件を引き起こしていた。二人は、事件の真相と、その悲劇の歴史を辿っていくうちに、自分たちの能力が持つ「運命」の重さを知ることになる。

「この絵画は、俺らの先達が残した警告なのかもな」

律の言葉に、雫は静かに頷いた。


第三章:交錯する思惑


絵画が示す過去の警告。それは、二人の能力者が過去に辿った悲劇の軌跡であり、未来を暗示する「運命の座標」でもあった。雫と律は、学校で起こる奇妙な事件の裏に、ただの盗難ではない、より深い闇が潜んでいることを確信する。彼らは、過去の能力者が残した手がかりを追って、学校の隠された場所や、忘れ去られた歴史を調べ始めた。

律は、これまでの野心的な能力の使い方を改め、雫と協力することで、自身の能力の新たな可能性に気づき始めていた。彼の空間把握はより鋭敏になり、雫の制御された読心術と組み合わせることで、事件の背後にある微細な「歪み」をより正確に捉えることができるようになった。二人は、協力することで、互いの能力が増幅されることを知る。

しかし、彼らが真相に近づくにつれて、第三の力が姿を現し始めた。それは、雫の能力が明るみに出たことで、彼に接触してきた謎の人物だった。その人物は、雫の能力を「危険な異物」とみなし、能力を完全に封じることを要求する。彼らは、過去の能力者の悲劇を知っており、雫が同じ道を辿ることを恐れているのか、それとも別の目的があるのか。その思惑は、不透明だった。

律は、この第三の勢力を排除しようと、再び能力を強引に使おうとする。だが、雫は彼を制した。「力でねじ伏せるだけじゃ、何も解決しない。俺らは、あの悲劇を繰り返すわけにはいかない」。

二人は、それぞれの価値観と能力の使い方をぶつけ合いながらも、次第に深い絆で結ばれていく。それは、孤独な能力者同士だからこそ分かり合える、特別な友情だった。彼らは、第三の勢力の追跡をかわしながら、過去の能力者が残した絵画の謎を解き明かし、現在の事件へと繋がる決定的な手がかりを見つける。



第四章:運命の最終座標


事件の真相は、学校の創立に関わる、ある人物の隠された過去に行き着いた。その人物もまた能力者であり、自分の能力を悪用した結果、取り返しのつかない過ちを犯していたのだ。そして、彼が事件の裏で暗躍し、自分の過去を隠蔽しようとしていたことが明らかになる。

最終局面で、雫と律は、その人物と直接対峙することになる。相手の能力は、空間を完全に操作し、人の心を支配するほど強力だった。雫は「ヒカリトホシノアリカ」と唱え、半円の紋様と制御の槍、そして二色の瞳でその強大な力に立ち向かう。律もまた、雫と共闘することで、彼の能力はかつてないほど研ぎ澄まされていた。

激しい攻防の中、律の心が、相手の支配能力によって操られそうになる。彼の脳裏には、かつての野心が再び燃え上がる幻影が見えた。しかし、その時、雫の瞳から放たれる水色と赤色の光が、律の意識を貫く。雫は、律の心に寄り添い、彼が本当は何を望んでいるのかを理解しようとする。それは、かつて律が雫を嘲笑したように、自分の欲望のために力を使うことではなかった。

「律……君の力は、野心のためじゃない」

雫の言葉が、律の心を揺さぶる。律は、自らの意思で相手の支配を打ち破り、雫と共に最後の力を振り絞る。二人の能力が完全に同調したその時、光る半円が巨大なアークを描き、相手の能力を打ち破った。



最終章:明日へ繋ぐアーク


事件は解決し、学校には平穏が戻った。雫の能力のことは、ごく一部の人間しか知らない秘密となり、彼は再びクールな日常を送る。しかし、彼の内面は大きく変化していた。能力を隠すのではなく、大切な人を守るために使うという、新たな覚悟が芽生えていたのだ。

律もまた、その変化は大きかった。彼は野心的な行動を慎むようになり、自分の能力を人助けのために使う喜びを知る。雫とは、互いの能力を理解し合う唯一無二の親友となり、時折、二人で人知れず起こる小さな事件を解決するようになる。彼らの間には、言葉以上の強い絆が結ばれていた。

過去の能力者の悲劇を乗り越え、自分たちの「運命の座標」を自らの手で選び取った二人。彼らは、能力を持つ者としての重責を背負いながらも、青春の輝きを失うことはなかった。

「デスティニー・アーク」。それは、二つの異なる運命の弧が交差し、未来へと続く道を切り拓く、始まりの物語だった。彼らの描く半円は、これからも世界を照らし、新たな運命の座標を示し続けるだろう。


最後まで読んでいただきありがとうございました。

この物語が、読者の皆様の心に何かを届けられることを願っています。 雪代深波

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