テラフォーミング
ここは、地球から遠く離れた惑星《ミーレス-7》
この星へ派遣されたアンドロイドたちは、この地を人類の理想郷へ作り変える職務を担っていた。
空気をつくり、水を流し、海を広げ、緑を増やし、動物を生み出して。
そして最後には、たくさんの人が暮らせる都市まで完成させる。
それは全て「移民船が到着までに、地球と同じ星を用意しておいてほしい」
という、たったひとつの命令のためだった。
しかし、その命令は途中で変わることになる。
数十年が経過した後、次の指示がこの星に届いたからだ。
「人類は、活動を停止しました。再起動まで、現状を維持してください」
それが、地球から届いた最後の通信。
そして。
それから1000年が経過した。
惑星の中心にある都市。
その一番高い場所にある制御塔で、少女の姿をしたアンドロイド《リルシア》は空を見上げていた。
「今日も平常。空気良好、気温安定、移民受け入れ可能」
無表情に確認するその様子はまるで本物の人間のようではあるが、心臓はないし、呼吸もしていない。
彼女は、自分を人間に近づけるための“肌”をわざわざ装着していた。
必要のない機能だったはずだ。
だが、長い長い時間がアンドロイドたちの価値観を変化させていた。
まるで人間を装うように。
そんなある日。
空から通信が届く。
地球からの移民船が、ついにやって来るというのだ。
アンドロイドたちは何の迷いもなく、空港に集まった。
皆、整列し、静かに船を待つ。
空にぽっかりと浮かんだ軌道ステーションから、一隻の船が降りてくる。
それは、予定されていた通りの船。
緊張が走る。
扉がゆっくりと開いて。
誰も、出てこなかった。
到着を示す通信もない。
しばらく沈黙が続いた。
誰も動かない。
誰も言葉を発さない。
そんな中で、ひときわ小柄なリルシアが、静かに一歩を踏み出した。
「確認に行きます」
副官が慌てて止めようとするが、彼女は首を振った。
「もし、人間がいるのなら。ちゃんと迎えに行かないといけません」
そう言って、少女の姿をしたアンドロイドは、ひとり船の中へと歩いていく。
暗くて広い船内。ひんやりとした空気が肌を撫でる。
「……誰か、いますか?」
返事はない。静寂だけがそこにあった。
リルシアはそっと、照明スイッチに手を伸ばす。
光がともり、船の中が明るくなる。
そこには誰もいなかった。