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乙女要素のある死にゲーに転移してしまった件〜帰還エンドのはずが、様子がおかしい〜  作者: 勿夏七
16章

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97.酔い

 ルーパルドの方が力は強く、ロクはズルズルと引っ張られていった。

 ロクを椅子に座らせ、まるで尋問するかのようにルーパルドが前の席に座る。


「それで? なんで渡者は救世主さまに迫っていたんだ?」

「酒を飲む前に服用すると、酔いにくくなる薬の作り方の対価をもらうために」


 照れる様子もなく、ロクは堂々とそう言った。ルーパルドは顎に指を添え、納得するように頷いた。

 

「なるほど。ヤラシイ対価を貰おうと思ってたってことか」

「おっさんみたいなこと言うな」

「実践しようとしてた奴が何言ってんだよ」


 やれやれと口に出しながら、ルーパルドは私へと歩み寄って来た。ポケットから何かを取り出し私にそれを握らせる。


「これがあれば十分ですよ。わざわざ渡者に聞く必要もありません」


 ルーパルドが私にくれたのは四角い小さなケース。中には緑色の丸薬が数個入っていた。

 ルーパルドが言うには、ロクが知っている薬はかなりの量を飲まされた場合でも意識を保てるものらしい。度数の高い酒が樽に並々入っているものを全て飲んでも問題ないほどの効力なのだとか。なお、副作用があり後日1〜3日は吐き気が凄まじいのだとか。……それ、ただ酒を吐き出しているだけなのでは。

 

 確かに私がそこまで酒を飲まされることもないだろうしルーパルドのくれたもので十分だろう。


「これは作ったやつ?」

「市販で売ってるやつですよ。効果はしっかりあるんでその点は安心してください」


 この薬に副作用はないらしい。アルコールを分解する力があり、酔う前でも酔った後でも効き目があるそうだ。

 酒に弱い貴族が薬屋に大金を渡して作らせたのが発端なのだとか。最初こそ自分のために作らせていたものだったが、需要があることがわかり今は大量生産をしているらしい。


「さて、疲れてるでしょうしそろそろ寝ましょう。もう明日になってしまいますよ」


 壁にかかっている時計を指差しながら、ルーパルドは言う。あと数十分で日付を超えそうだ。


「うん。ルーパルドありがとう。おやすみ2人とも」

「はい、おやすみなさい。渡者は俺が責任持って部屋まで送りますし、夜這いの心配はありませんよ」

「必要ない」


 笑顔を私に向けるルーパルド。そしてルーパルドに首根っこを掴まれている鬱陶しそうなロク。

 そんな2人に見送られながら廊下を歩き、階段を上る。

 廊下を歩いているとその場に立っている人の姿が見えた。メイドだろうかと思ったが、背丈は高くメイド服のシルエットではない。

 それならばセヴァスチャンや他の執事だろうかと思ったがそうでもない。もう少し近づいてみると、見慣れた男がそこに立っていた。


「イナト?」

「救世主様……? これは夢の中でしょうか」

 

 まだ酒に酔っているようだ。かなり酒臭い。そして表情が緩み切っている。いつもはキリッとしているし、笑顔も爽やか王子の微笑みという慎ましやかな雰囲気だと言うのに。こんなのデボラが見たら気絶してしまうかもしれない。


「夢じゃないよ。……それで、なんで廊下に立ってるの?」

「自然と足が向いてしまったんです。不思議ですね」


 ここは客間がある廊下。イナトの部屋はここから逆方向で、そこそこ距離があるはず。それなのにここまで来てしまったのか。


「イナトは私に会いたくなったのかな」

「そうかもしれませんね」


 さらっと言ったな……。

 イナトは私の手を握った。そのままどこに行くのか歩き出す。酒に酔っているはずだが、イナトはふらつくことなくまっすぐ歩いている。

 泥酔というわけではないようだが、正気とも思えない。握られている手で腕を引っ張ってみれば、イナトはバランスを崩すことなくこちらに振り返り笑うだけ。


「救世主様の手、冷たくて気持ちが良いですね」

「……イナト、大丈夫?」


 うとうと始めたイナトにそう声をかけたが、イナトはただ頷くだけ。どう見ても寝てしまいそうだが、部屋まで歩けるのだろうか。そんな矢先、イナトは電池が切れたおもちゃのように倒れ掛かる。


「イナト!? ええ、どうしようイナト担げる気がしないんだけど」


 なんとか支えたが重くて動けそうもない。私が必死に支え、どうするか悩んでいるというのに、耳元ではイナトの寝息が聞こえてくる。

 誰でもいいから来てくれないかと願うが、誰も来る様子はない。そもそも、大体の人間が寝ている時間だ。こんな何もない場を歩く人なんているわけもない。

 諦めてイナトの足を引き摺りながら、イナトの部屋を目指すかと方向転換。

 いや、そもそもイナトの部屋に入ったことはない。うっすら場所を知っているだけだ。そうなるとイナトを私の部屋に寝かせるのが1番手っ取り早い。


「おい、救世主」

「わっ! びっくりした」

「様子を見に行ったが、いなかったから探した」


 突然背後から声をかけられたかと思ったら、そこにはロクらしき姿が。正直暗すぎて顔が全然見えていないのだが。


「日課だって言ってたもんね。……じゃ、私はイナトを運ぶから気にせず部屋に戻っていいからね。おやすみ」

「俺にそいつを部屋に連れてけって命令すればいいだろ。なぜ自分で運ぼうとする?」


 イナトを引っ張り始めた私を止め、ロクは不思議そうな声で言う。


「普通、お酒臭さってすぐに取れないよね?」

「何が言いたい?」


 ロクの姿をしたそれは、訝しげに私に問いかけた。

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