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乙女要素のある死にゲーに転移してしまった件〜帰還エンドのはずが、様子がおかしい〜  作者: 勿夏七
15章

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92.兄妹

 私を助けてくれたのはゼヴリンだった。必死に走ってきたのか、髪は乱れ額に汗をかいている。しかし無表情。心配そうな顔はせず、私を目を細め睨むかのように見つめている。

 ……お色気たっぷりなんて言ったら流石に怒られるだろうか。


「ありがとうございます」

「とんでもございません。間に合ってよかったです」


 抱きかかえていたゼヴリンは後から追ってきた執事に何か言い渡し、誰もいない休憩室へと私を運び柔らかいソファへと降ろした。その後、乱れた髪を整え息をひとつ吐く。

 その後、ゼヴリンは怪我をしていないか、喉は乾いていないかなど心配の言葉を投げかけてくれる。無表情だが。

 その間、その場にある道具へ手をぶつけたり机を蹴ってしまったり。慌てた様子は一切感じられないが、ぶつける様子を見て私は思わず質問した。


「ゼヴリン男爵、もしかして目が悪かったりします?」

「……何故わかったのですか?」


 いや、誰でもわかるだろ。とも思ったが、きっと誰も指摘できなかったのだろう。

 

「かなり色々なところにぶつかってるので……自分用にメガネは作っていないのですか?」


 ガラス細工を生業にしており、メガネの開発者。自身が身につけて宣伝したっていいのに、なぜそうしないのだろう。

 ゼヴリンは眉間の皺をさらに濃く刻む。

 

「私は……メガネが似合わないのです」

「え? 似合いそうですけどね」

 

 デボラにでも言われたのか、顔色ひとつ変えずにゼヴリンはそう口にした。だが、絶対嘘だと私は思っている。デボラが兄にこれ以上モテてほしくないと思っているのではと考えてしまう。

 気になった私は箱からチュートリアルでもらったメガネを取り出す。今まであることすら忘れていた代物だ。

 シンプルな作りでかける相手に合わせてサイズが変わるメガネなのでゼヴリンも問題なくつけられるはず。


「このメガネが合うかはわかりませんが、かけてみませんか? 絶対かっこいいと思うんですよね」

「かっこいい、ですか……」


 少し動揺の色を見せたゼヴリンだったが、おずおずと私からメガネを受け取り、かける。


「これは……似合わないと言った人の気持ちがわかるかもしれません」

「やはり似合いませんか」

「違います。逆です。似合いすぎてこの世に出してはいけない感が凄まじいのです」


 メガネ男子好きが見たら黄色い悲鳴を上げるところだ。イナトたちにもメガネをかけてみてもらいたくなる。きっとすごく似合うのでゼヴリンと同じく世には出せないだろうけれど。

 さきほどまで無表情だったゼヴリンだが、私が褒めたせいか茹蛸のように顔を真っ赤に染めた。表情自体は変わっていないが、照れているのは一目瞭然だ。

 ゼヴリンは恥ずかしくなったのかメガネを外し私に返した。


「やはり私はメガネをかけられません。代替があれば良いのですが」

「この世界にもコンタクトレンズがあればいいんだけど……」

「コンタクトレンズ、ですか? それは一体どのようなものでしょう」


 私も詳しくはよくわかってないが、知っている限りのコンタクトレンズの特徴を語ってみた。また、紙とペンを借りて汚いながら図を書いて説明もした。

 ゼヴリンは熱心にメモを取り興味深そうに頷いている。相変わらず表情は無ではあるのだが。


「こちら、私が商品化してしまっても構いませんか?」

「もちろん。ぜひ活用してください」


 私の書いた紙を見た後に顔をあげたため私との距離はとても近い。「あ」とみるみるうちに顔を赤くするゼヴリン。女性免疫がなさすぎるのではないだろうか。


「お兄様、イナト様達がお待ち――て、一体何をされてるんですの!?」


 悲鳴にも似た甲高い声でデボラがそう口にする。


「こ、これは私が――」

「ごめんなさい、デボラ嬢。お兄さんの事業に私も興味があってお手伝いをしていたんです」


 デボラに私が書いていたものを見せる。メガネの代替案と書いてあるのを見てデボラは私を睨み、私の腕を引っ張り耳元で言葉を発した。


「お兄様にメガネをかけさせたんですの?」

「はい。デボラ嬢が似合わないと言ったのでしょう? 確かにあれは世に出せませんね。死人が出ます」

「へぇ……貴女わかる側でしたのね」


 兄であるゼヴリンを褒められて嬉しかったのか、デボラは目を細め口角を上げた。


「そ、それで……わたくしにも先程、絶対に可愛いと溢しておりましたが、何の話です?」

「あー、あれですか。もし気分を害してしまったらすみません。金髪よりも地毛の方が可愛いと思ってて」

「……そこまでイナト様との仲を裂きたいとおっしゃりたいのですね?」

「違います! 人間は顔と髪色は似合う組み合わせで生まれてくるものなんですよ! そのそばかすと相まって絶対にかわい――」

「わたくし、そばかすが大嫌いなんですのよ!」

「デボラ! 落ち着きなさい」


 今にも扇子で殴られそうな勢いだった。だが、ゼヴリンが声をかけるとデボラは扇子を降ろしゼヴリンに駆け寄った。


「こんなタラシに心乱されるなんて、耐えられませんわ……!」


 顔を真っ赤にしているデボラに何に対して殴られそうになっていたのかわからなくなった。

 褒められて喜んでいるのか、それともそばかすを褒められて憎悪でいっぱいなのか。


「申し訳ありません……」

「初めてでしたのよ。そばかすを褒められたことなんて!」

「えっと、もしかして照れ隠――」

「おだまり!」


 デボラはゼヴリンの後ろに隠れてしまった。

 声色からしてご立腹といわけではなさそうなのがせめてもの救いだろうか。

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