91.一目惚れするキャラは1つの作品に1人くらいいる
パーティー会場へと入った私達。イナトやルーパルドはお嬢様方に囲まれてしまい、ロクは逃げるようにその場から姿を消した。
残された私とメイドは一緒にどこで待機してようかと話していた。そこに大股でこちらに近づいてきたのがデボラの兄であるゼヴリンだった。
眉間にずっと皺を寄せており、私の方向を向いていた。その時、目の悪い人がするような目の細め方をしていた。
メイドは慌てて私の後ろに控え口を閉ざす。目上の人間には許可をもらわないと喋ることは許されていないのだと言う。よくある話だ。
ゼヴリンは私と目があった瞬間に一気に熱を上げ顔を真っ赤にした。演技だと言われても信じられないほどの気持ちの昂りようだ。
「貴女に一目惚れしてしまいました。どうか、どうか私と結婚してください!」
少し前に会った無表情の男はどこへやら。ゼヴリンは必死の形相で私に求婚をした。
懇願するように、片膝をつき私に手を差し伸べている。今にも顔から火が出てくるのではないかと言うほどの真っ赤な顔をしているゼヴリン。私が黙ったまま見つめていたせいで、目を泳がせ差し伸べた手が小刻みに震えている。
だが、私が断りの言葉を口にしようとした途端、何かを察したゼヴリンは立ち上がり深々とお辞儀をした。
「……突然失礼いたしました。どうか少しでもいい、私のことを知って、私のことに時間を使ってほしい」
あまりにも自然に私の手を取り甲にキスを落とした。そして足早に去って行ってしまい、私は一言も言葉を発することができなかった。
呆然と立ち尽くしていると、まだ始まったばかりのパーティーとは思えないほどの疲労っぷりのルーパルドとイナトが立っていた。手には大量の手紙と贈り物。まるでアイドルのようだ。
「ちょっと俺たちが離れた隙に告白されてしまうなんて……救世主さまは隙がありすぎるんじゃないんですか?」
茶々を入れるようにルーパルドは私へと話しかけた。その隣ではイナトがデボラの視線を避けるようにルーパルドの影に隠れている。
「それはこっちのセリフだよ。2人ともそんなに貰っちゃってさ」
「もしかして嫉妬してくれてます? 俺は救世主さま一筋ですよ〜」
「そんなことないから私のことは気にせず恋愛してね」
イナトとルーパルドが合流したこともあり、その場にいた女性全員から睨まれているような気がする。特に感じるのがやはりこのパーティーの主催者であるデボラの視線だろう。今にもハンカチを噛みちぎりそうな勢いだ。
「皆さん救世主様の魅力にメロメロみたいですね」
小声で楽しそうに話すメイド。いや、どこをどう見たらそんなポジティブな発言ができるのか。いつか女性からの襲撃イベントが発生するのではないかと心配になってくるほどだ。
「当たり前だ。こんなに綺麗なのだから」
イナトに優しく微笑まれ、髪に触れられた。そのやりとりを見て卒倒してしまう令嬢や会場から泣きながら離れる令嬢が数人。それ以外は嫌悪から殺意に変わりそうなほどの視線の痛さ。
「やめて、今はほんとやめて。後で聞くからそう言うの勘弁して」
慌ててイナトから離れるがそれがまた気に食わなかったのか、ひそひそと悪口を言っていそうな雰囲気が会場を包む。もしかしてデボラは女性全員味方につけ、私を排除するつもりなのだろうか。どう見ても男性よりも女性が多いのもわざとだろう。
「すみません。救世主様が他の者と一緒にいるのが耐えられなくて……」
「だから! そう言うのはやめてって言って――」
「お楽しみのところ申し訳ありません。救世主様、人も集まってきたところですし、ぜひスピーチをお願いしたいのですが」
遠くでこちらを傍観していたはずのデボラがいつの間にか私の側まで来ていた。兄ほどではないが、少しつり目のせいで睨むと凄みがある。
成人にもまだ満たない少女。大人びた雰囲気を纏っているが、まだ10歳らしい。
第一印象は、小柄でそばかすの似合う可愛らしい少女。そばかすは悪いものと思っているのだろう、大きめの扇子で顔をほとんど隠してしまっている。
そして無理に染めた金髪。頭のてっぺんは本人の髪色だろう。兄と同じく燻んだ水色が見えている。
地毛の方がデボラの顔に合って可愛いと思うのだが、推し色に染まりたいと思うのは自然なことだろう。少し勿体無い。
「絶対可愛いのになぁ」
「!? 突然何を」
「すみません、つい……。スピーチですね。行ってきます」
デボラから逃げるように私はその場を離れ、デボラのメイドに誘導され1番高い場所まで案内された。壮観だが、高所恐怖症の人には地獄の景色になるだろう。私にとっては女性の視線が地獄な状況だ。私は視線を無視して用意されていた拡声器を持って話し始めた――。
イナトに考えてもらっていたスピーチ文を読み上げて階段を降りようとした。だが、突然物が上から降ってきてた。
これなら簡単に回避できる。そう思って様子を見ていると、「救世主様!」という声と共に誰かが私を抱きかかえられたのだった。




