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乙女要素のある死にゲーに転移してしまった件〜帰還エンドのはずが、様子がおかしい〜  作者: 勿夏七
14章

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90.無表情の男

 パーティーまであと3日。

 早朝にデボラの兄であるゼヴリンが来た。誰もが何をしに来たのかと眉を顰める。

 

 セヴァスチャンが訪問の理由を尋ねたところ、ゼヴリンはデボラが勝手に決めたパーティーに対しての謝罪に来たのだとか。だからと言ってパーティーが取りやめになったと言う話ではないようだ。まあ、何かしら正当な理由がない限り引っ込めるのは難しいらしいのでその点は仕方がないことだろう。


 特に名指しはなかったが、イナトと私2人でゼヴリンと話すことになり、今は応接間に3人。

 ゼヴリンは事前に聞いていた通り、燻んだ水色の髪でオールバック。睨まれたら恐怖で固まってしまいそうなほど鋭い目つき。グレーの瞳がミステリアスさを醸し出している。20代にしては険しい顔にやっぱり老け顔と言われるタイプだと私は内心頷いてしまった。と言ってもイケメン部類なのには間違い無いだろう。

 

 私がそんなことを考えているとはつゆ知らずゼヴリンは、出された紅茶を一口飲んだ後、頭を下げた。

 

「誠に申し訳ない。あなたたちはまだ旅の途中だと言うのに」


 表情を1つ変えないこの男。本当に申し訳ないと思っているのかも疑問に思うほどだ。ゼヴリンは執事を呼び、荷物を開けさせる。「王族に詫びとして送るのは恐縮ですが……」と言いつつ、良質なガラス細工をいくつもテーブルへと置いた。

 ゼヴリンの事業はガラス細工らしい。メガネを発明したのもこの世界ではゼヴリンなのだとか。


「綺麗ですね」

「ありがとうございます。職人冥利に尽きます」


 素直な感想を述べるが、照れることも笑顔を作ることもなくゼヴリンは頭を下げた。手応えがなさすぎてよくわからない。眉間には皺が刻まれており、本当に喜んでいるのかも不明だ。


「それと、こちらもどうぞ」


 綺麗な包装がされた箱。その場で開けて自身が何も仕込んでいないことを見せた後、どうぞと差し出された。

 きっとイナトが食べ物とわかり警戒したからだろう。


「これは、貴族でもかなり待たされる人気店のクッキーではありませんか」

「イナト知ってるんだ」

「もちろんです。一度救世主様のために並んだことがあるのですが、売り切れて買えなかったのです」


 普通であれば使用人へ買いに行かせるところをイナトが並んでいたと……。周りの反応が大変気になるところだ。


「私は店主の友人でして。無理を言って作っていただきました」

「へぇ。すごい」


 クッキーを1つ摘み齧る。しっとり系のバタークッキーだ。特に凝ったデザインではなくシンプルな作り。だが、濃厚なバターが口に広がり思わず残りのクッキーをすぐに口へ頬張った。


「すっごく美味しいです!」


 ゼヴリンがいなければ今頃もう1枚もう1枚と食べ進めていたことだろう。


「っ、それは、よかったです」


 突然はしゃいでしまい驚かせたのか、紅茶を飲んでいたゼヴリンは少し咽せた。


「驚かせてしまってごめんなさい。大丈夫ですか?」

「は、はい、問題ありません」


 咳払いをして喉の調子を整えた後、ゼヴリンは少し赤くなった顔のまま無表情で頷いた。

 そして、そろそろお暇しますとそそくさと帰って行ったのだった。


「顔は厳ついかもしれないけど、繊細で丁寧な人だったね」

「はい。ゼヴリン殿は良いんですよ。ゼヴリン殿は」


 強調するように言うイナト。デボラが尖っているだけなんだろう。きっと。


「話終わったみたいですね……て、これ綺麗ですね! 絶対高いやつでしょ!」

「お前の給料が1年分飛ぶくらいにはな」

「こっっわ。近寄らないのが1番ですね」


 触ってみようとしていたルーパルドだったが、イナトの発言ですぐさま手を引っ込めた。ルーパルドの給料がどの程度なのかは知らないが、1年分となればなかなかの額だろう。


「このクッキー、食べても良いか?」


 ロクはガラス細工に目もくれず、クッキーを見つめている。

 

「いいよ。たくさん貰ったし、今からお茶にしない?」

 


 こうして始まったお茶会。

 なぜかテラス席ですることになり、アフタヌーンティースタンドを用意。

 貰ったクッキーの他、ここの使用人が即席で用意したカップケーキやマカロンなどのお菓子と一緒に並べられることとなった。いつのまにか本格的になりすぎている。


「ゼヴリン殿、どうでした?」


 ルーパルドは紅茶を飲み、私を見た。


「表情じゃまったくわからなかったけど、悪い人ではなさそう?」

「ま、あの人は悪事を働くタイプではないのは確かですよ。ただほんとに表情筋が仕事しない、自己犠牲は厭わない男ってだけです」

「ルーパルドも知ってるの?」

「ありますよ。平民の時にですけどね」


 ルーパルドは遠目で見ていただけで話したことはなかったらしいが、噂はよく耳にしていたのだとか。

 ルーパルドが言うにはゼヴリンは賢すぎて浮いている存在だったのだとか。

 親は試しになけなしのお金で学校に通わせたところ、英才教育を受けていた貴族を差し置いて上位の成績を納めたのだとか。

 これは金の卵だと親は借金をしてまでゼヴリンへ投資し今に至ると。


「ちなみに、ゼヴリン殿のおかげで裕福になったのに、両親は何故かすべての愛情をデボラ嬢に注ぎ込んでしまいました。そのため、あのような性格になったと言われています」

「表情は元々乏しかったの?」

「そうですね。……何を与えても反応がわからずやめたと言う話もあります。反対にデボラ嬢は喜怒哀楽がはっきりしており、お世話が楽しかったという話も聞きましたね」


 反応が薄くて与えることをやめてしまった。ちょっと可哀想だが、どうせなら喜んでくれる方を選ぶのは自然なことなのかもしれない。

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