85.正装で戦うのもゲームなら気にならない
救世主誕生パーティーは1週間後。それまでにドレスを用意しなければいけない。
イナトはゲムデース城で準備をしようと国王へ連絡。明日からパーティー用の正装準備や最低限の礼儀作法の伝授をしたい旨を伝書紙に書いて送った。
すぐに返事が来て、せっかくなので泊まっていけと書いてあった。むしろすでに馬車を出したので乗れと有無も言わさない国王。
「こっちの居場所はどうやって見つけるの?」
「伝書紙は万が一に備え、位置がわかる仕様になっています」
意図的に消さない限り位置情報が組み込まれており、助けを呼ぶ時に重宝するらしい。イナトは位置をずっと伝えているのだと言う。万が一何も書いていない伝書紙が届いた場合は、救世主一行が危機に陥っている状況だとわかるように。
今まで簡単に手紙を送れて便利だとしか思っていなかったが、そんなにも有能なものだったとは。
「イナト様! お久しぶりでございます」
「セヴァスチャン、お前が迎えにくるとはな」
「わたくしが立候補いたしました。いち早く皆様にご挨拶致したく」
馬車から降り、お辞儀をするセヴァスチャンと呼ばれた男性。髪は真っ白で上品な髭を生やしている。
執事といえばセバスチャン。というのが型にハマっているが、同じでは面白くないという試みだろうか。少々呼びにくくなっただけのような気もするが。
挨拶を済ませた後、馬車へと乗り込み城へ。以前乗った馬車よりもふかふかな椅子に揺れの少ない車内。これが高級馬車か。
夜景を楽しんでいたらあっという間に城へと到着。執事やメイドが「おかえりなさいませ」とお出迎え。全員同じ角度でお辞儀をしたまま動かない。洗練されている。
気にせず歩き出すイナトについて行き城へと入る。王の間へ行く方向へとは別の階段へと進む。そこは外部の人を泊める部屋があるらしい。
長い階段を上りきると扉がずらりと並んでいる。それぞれにメイドや執事が案内してくれるようで皆と別れ案内された部屋へと入る。
そこで準備されていたワンピースへと着替えた。柔らかで薄そうな生地だが全然透けていない。淡いピンク色で可愛らしいそれは、正直マリエの方が似合いそうだ。
そう思っていたが、意外に好評だった。イナトは綺麗だと言い、ルーパルドは可愛いと言った。ロクは2人の意見にただ頷くだけで、フードを深く被り私をあまり目線を合わせてくれなかった。照れているのだとポジティブに考えておこうと思う。
そのあとダイニングルームで豪華すぎる食事をいただいた。国王と同じテーブルを囲むという恐怖。緊張して味わって食べられなかったのが惜しいところだ。
そもそもイナトも王族だろうと言われてしまいそうだが、国王とイナトではとっつきやすさが段違いなのだ。
「あのデボラが救世主誕生パーティーを開くと……。何を企んでいるのか知らんが、くれぐれも気をつけてくれ」
「国王様がやめさせてくれても良いのですけどね」
「バカ言え。救世主様のためなのに〜とかで騒ぎ立てて面倒なことになるぞ」
食後の甘めのワインを煽りながら国王は渋い顔をする。国王にまでそう言わせてしまう令嬢、一体どんな癖の強い人なのだろう。興味は湧くが、遠くで眺めるだけにしたいものだ。
似た顔をした2人が似たように苦い表情を浮かべていた。
そんな空気の中、以前も国王の側で控えていた男が耳打ちをする。
「そうだそうだ、言い忘れていた。いつも仕立てを頼んでいる者を呼んだのだ。早朝に来るから起きておいてくれ」
ゆっくりしていきたまえ。と国王は席を立ったのだった。
◇
メイドがノックをして失礼しますと言った後、カーテンを開けられて目が覚めた。「おはようございます」と言いつつ髪を梳いてくれた。他にもドレスに合わせた化粧をすると道具を準備して、いつの間にやら広い部屋へと来ていた。
待っていたのはパンツスーツの婦人。仕事ができそうな雰囲気がひしひしと感じられる。
ドレスの量に圧倒されつつ、婦人が私のサイズを測り好みを聞き、メイドと同じくらい素早く事を進めていく。
試着して何度も化粧をし直しての繰り返し。ドレス用の固定の化粧があればこんな面倒なことはしなかったらしいが、ゲーム内の私はほとんどすっぴんだ。
だが、さすがにそれは良くないらしくイメージを固めるため、というのも含まれているそうだ。
貴族って大変だ。
「これならあの男爵令嬢と被ることはないでしょう」
やりきった感のあるスッキリした笑顔でメモを取る手を止めた婦人。ドレスの被りは注意する必要があるのだそうだ。お揃いだねなんて軽く言える世界ではないのだ。ましてや相手は私を殺そうとした相手。そんな和気あいあいな態度でいられるわけもない。だからこそ細心の注意を払い、ドレスを決めなければならない。
イナト達も同様だ。特にイナトについてはデボラに目をつけられていることもあり、類似性のものは着られない。また、イナトに合わせて来る可能性も考えておく必要がある。
「神経使いますね……」
「ええ、そうですわね。ですが、唯一の仕上がりで綺麗に着飾るのが私の趣味みたいなものなので、さほど問題はございません」
ふふふと上品に笑う婦人は本当に楽しそうだった。




