81.消えた討伐目標
夢の騒動後、箱から出てゲムデースへ。
イナトがナルに通信機を作って渡し、ナルは騎士学校へ。ナルは通信機を珍しそうに眺めていたが、すぐに使い方をマスターした。
騎士学校へ入学するには、試験を受ける必要があるらしい。だが、ナルの場合は保護目的ということもあり、試験は免除となっていると。他の人よりも軽い勉強や運動をしてもらうつもりだとイナトが言っていた。また、ある程度力をつけたら街のパトロールをメインに任せようと思っているとイナトが言っていた。家がない場合は寮も提供されるらしく、それが1番適当だろうと話していた。
学校の先生にナルを預け、次の目的地へ。
だだっ広い平原へと来た私達。
イナトは地図を確認した後、進行方向へ歩き出す。
「ここから真っ直ぐ歩けば次のワープポイントです」
「このところ寄り道ばっかりだったね」
「無理もないですよ。ゲムデース国はスタート国と違って広いですから」
何かしら厄介ごとに巻き込まれるのは、ワープポイントの多さや土地の広さのせいもあるだろうとルーパルドは頷いた。
聞いたところ、イナトが最初に考えていたルートとは外れ、スケジュールも想定外のことばかりで思い通りに進んでいないと言う。
簡単なスケジュールは最初のうちに聞いていたが、すでに忘れていた私にとっては何の弊害もない。
なお、イナトはゲムデースの仕事をするよりも断然いい。ということで遅くなる分は大歓迎だと笑顔で言った。と言っても、早めに魔王を倒したい気はあるらしい。
「魔王倒した後に残りのワープポイントの解放は……ダメ?」
「エンドラストはそれでいいかもしれませんが、ゲムデースは国王様に怒られるのでダメですね」
エンドラストはいいんだ……。おそらく他国だからだろう。多分。
それにしてもゲムデースの国王は2つ返事でイナトを貸してくれたが、本当に良かったのだろうか。イナトはかなり優秀だと聞いている。また、ルーパルドだってトーナメント戦で勝ち抜いた男だ。そんな2人を私がずっと独占してしまってるのだ。
「優秀な人材を私が独占してていいのかな?」
「もちろん構いませんよ。むしろ貴女の専属になるのも悪くない」
自分で言っておきながら、イナトは照れ笑い。イナトの顔面にも慣れてきた私は首を振る。
「流石にそこまではいいよ。帰るし」
「救世主さまは頑なだなぁ」
帰ると言う言葉に残念がっているルーパルド。イナトも少し寂しそうに私を見ている。
「……神も万能じゃないよ。私が何回死んだのか知らなかったし」
「そんな奴が神を名乗ってるのか」
「ロク、言っていいことと悪いことがあるぞ。せめて口に出すな」
「フン」
ロクはイナトを一瞥し、黙る。正直私はもしかしたらイナトも心の中で悪口言ってるんじゃ? と興味が湧いてきたところだ。それに気づいたのか、ロクはまたイナトを見た。
「お前まさか、心の中では結構色んな奴の悪口言ってるのか?」
「…………なんでそうなる」
たっぷり間があったことから、イナトは悪口を言っているのは確定だろう。ロクは口角をあげ少し嬉しそうだ。
「団長は日記に全部書くタイプだ。場所までは知らないが、鍵をかけて厳重に保管してあるって噂……あ、ごめんなさい」
ルーパルドはニコニコと説明をしていたが、イナトに睨まれ口を閉ざした。噂と言っているが、これも間違いはないのだろう。
「救世主様、貴女の悪いことなど一切書いていませんのでその点は安心してください」
「日記に書いてるのは事実なんだね」
「……はい」
叱られた子のように俯き、声が小さくなるイナト。
隠し事は誰にでもあるよと軽くフォローを入れると、イナトは安堵し私に深くお辞儀をしたのだった。
◇
「えっと……この洞窟にいる魔物を倒して欲しいって話だったよね?」
「ええ。ですが、いないようですね」
国王に厄介な魔物がいるので退治して欲しいと言われていた場所。しかし魔物は1匹もおらず、洞窟内部はとても静かだ。
誰かが来ていたのか、洞窟付近には焚き火の跡があり、洞窟内部には先が燃えた木が捨てられていた。その誰かが退治したと考えるのが妥当だろう。
だが、ここにはゲムデースの騎士を派遣したことはないそうだ。派遣するにもまずワープポイントを解放してから物資が確保できるようしておきたいと話していたと言う。
「ここの魔物って誰も戦ったことがないの? 強かったのかな?」
「近くに住む村人が襲われた話を聞いただけですので、詳しくはわかりません」
確認のためか、イナトはメモしていたものを眺めつつ、私の話に首を横に振る。
それなりに魔物は強いはずだとイナトは言う。そのため、村人が倒せるわけはない。だからといって誰かが討伐しに来たとは考えにくい。ここは都心とは離れており、騎士が配属されている場とは距離がある。また、指示されてから動くためあり得ないだろうとイナトは言う。
一体誰が倒したのだろう。
「村の人に聞けばわかるかな」
「そうですね。わかるかもしれません。状況確認も兼ねて、村に行ってみましょう」




