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乙女要素のある死にゲーに転移してしまった件〜帰還エンドのはずが、様子がおかしい〜  作者: 勿夏七
14章

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80.夢の誘い

 考え事をしながら眠りに落ちたせいか、かなり眠い。重い瞼を開け、なんとかリビングにたどり着く。

 すでにイナトは準備万端で「おはようございます」と爽やかな笑顔を向けてくれた。すぐに返事をしあくびを1つ。


「眠そうですね。夜更かしでもしましたか?」

「アズミとマリエと話してたら寝るの遅くなっちゃって」


 即死方法を考えていたなんて言えるはずもなく、当たり障りのない返答をする。


「救世主様同士の仲が良さそうで安心しました」

「と言うと?」

「過去、救世主が複数人存在していました。しかし、話も合わず協力的ではなかったのです」


 詳しく聞くと、趣味が合わず思考も違う。それなのに好きな男が被って乱闘が始まってしまった。元の世界に帰りたい者と帰りたくない者にわかれてしまった。など些細……と言っていいかわからないが、喧嘩が多かったようだ。唯一残った者が魔王を倒し世界の平和をもたらしてくれたのだと。

 

 このゲーム、結構設定が濃いな。

 ……もしかしたら唯一残ったその救世主が魔王の恋人になったのかもしれない。殺して首を持ち帰ったとは一言も言ってないし。……私の想像でしかないのだが。


「さて、今日も体力作り頑張りましょう」


 毎日の日課、ジョギングだ。

 外へと出て広い草原を走る。毎日走っているため、以前より体力ゲージが伸びている。レベルを上げなくても体力が増える。ちょっと面白い仕様だ。


「大分長時間走れるようになりましたね」

「うん。……少しはね」


 まだまだ余裕そうなイナト。

 少し息が上がっているが、私もまだ余裕がある。ただ、一定のリズムを保ったままだと気を抜けば眠ってしまいそうだ。


「あっ」

「危ない!」


 眠気が襲ってきてバランスを崩した。咄嗟に私の前に手を出したイナトによって抱きしめられ、地面に叩きつけられることは免れた。だが、イナトの上に私は寝転がる形となった。


「ごめん、すぐ退くね」

「……せっかくですし、ここで寝転がってはどうでしょう?」


 イナトは私を隣に寝かし、自分もその隣で寝転がる。

 芝生が柔らかい。また、ちょうどよく木が太陽の光を遮っており眩しくない。

 そよ風が心地よくすぐにでも眠ってしまいそうだ。


「風邪をひいてしまいますから、汗を拭きましょう」


 僅かにかいた汗をイナトが拭いてくれる。優しく撫でるような拭き方のため心地が良い。


「ここの生活、良いなぁ」


 何不自由ないこの空間。正直これのためにこの世界に残りたいほどだ。


「……私と一緒にここで一生暮らしますか?」


 イナトなら真面目で優しくて、私がだらけていてもきっと正してくれるだろう。この空間でも真っ当に生活を送れる。

 優しく微笑みかけてくるイナトを見ていると自然と頷いてしまいそうだ。

 

「い……よくない。ダメだよイナト」


 眠気のせいなのか、危うく誘惑されるところだった。手の甲を抓ってなんとか目を覚ます。その様子を残念そうに見つめていたイナト。

 抓って赤くなった手の甲を優しく撫で「そうですか」とひどく心地良い声にまた瞼が重くなった。



 ◇



「救世主様、救世主様! ご無事ですか」

「え、何? 何が起きたの?」


 先ほどまで草原でイナトと寝転がってイチャイチャ? していたはずが、目を覚ますと部屋のベッドで寝ていた。

 3人が私を覗き込んでいる。驚くほど慌てた様子で。もしかしてその後私が寝過ぎたのか?


「日課のジョギングにも来ないし、朝食の時間にも起きてこない……心配したんですよ」

「あれ? うそ、夢の中でジョギングしてたってこと……?」


 夢の中だと言うのに疲労や痛みがあったような気がする。あれは本当に夢だったのだろうか。


「呪いの類ではないようだ」

「うわっ、いつからいたんですかアデルさん」


 突然現れたアデルは、紙をイナトに手渡す。


「気づかないうちに呪われた可能性を考えて、僕がここに呼びました」


 少し離れた場所にあるテーブルで調べていたらしい。テーブルの上はアデルの私物でいっぱいだ。先ほどまで気にならなかったが、薬品の臭いが充満している。

 ルーパルドは私に水の入ったコップを渡しながら、心配そうに問いかけた。


「救世主さまは目を覚ますまで苦しそうにしてたんですよ。どんな夢を見ていたんですか?」

「夢の中でイナトと日課のジョギングをして、途中からのんびりと草原で寝転がってたの。別に苦しくはなかったけどなぁ」

「なら、変わったことはなかったか?」


 ロクも珍しく興味よりも心配の色で私を見つめている。寝坊しただけかもしれないのに。


「あ、そう言えばイナトが私って言ってた」

「僕が? 私なんて一回も言ったことはないですね」


 私だって聞いたことはない。それならあれはイナトの皮を被った別の何かだったのだろうか。まぁ、夢なんておかしな部分があるものだと思うし、気にするほどではないだろう。


「ほう。それはイナトになりすまし、お前を誘おうとしていたのかもしれないな」

「いざなう? 何のために私を?」

「救世主なのだから狙われていてもおかしくないだろう。多かれ少なかれ、お前の存在を疎ましく思ってる奴はいるはずだ」


 私を誘い殺す予定だった可能性もあるとアデルは言った。どうやら夢に閉じ込めることができる魔法やアイテムが存在しているらしい。もちろん魔法はかなりの労力を要し、アイテムは希少。

 それでも私を夢の中に閉じ込め殺したい者がいることは確かなのだろう。


「夢避けの香くらいは作ってやれる。できるだけ早く持ってくる」

「アデルさん、ありがとうございます」

「お前に死なれては困るからな」


 アデルは適当にカバンへと薬品や道具をさっさと入れ込む。そして挨拶もなしにその場から消えたのだった。

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