77.死に損ない
ひたすら歩いて、ワープポイントを解放して。その繰り返しに飽き飽きしてきた私。何度も死ぬほどの強敵など出てこないし、そこそこ手強い相手がいても、パーティーメンバーが強すぎてすぐに倒せてしまう。死にゲーとしての完成度が高いと言っていたのは本当かと疑うほどだ。
道なりに歩いていると、荷馬車が前から来る。脇に外れ道を譲ると御者は会釈をして通り過ぎていく。
のどかすぎる。そう思いながら道を歩いていると、背後から爆発音と悲鳴が聞こえてきた。すぐに後ろを振り向くと先ほど道を譲った荷馬車から火が出ており、周りには盗賊らしき姿があった。
のどかすぎるとは言ったが、爆発させろとは一言も言っていない。
「荷物狙いか!」
すぐさま水をかけ鎮火。盗賊を倒して荷馬車に乗っていた人々の救助に入る。御者や他の大人達は息をしていたが、少年だけは重症。かろうじて息をしているが、手足はすでに冷たくなっている。私は回復薬を少年に飲ませた。しかし効いた様子はない。回復魔法を唱えてみても、少年の傷は治らなかった。
「なんで回復しないの?」
止血をして何度か回復魔法をかけてみるが、一向に治る様子はない。
「もうその子に何をしても無駄ですよ」
「そんな……」
側に来たルーパルドは、眉ひとつ動かさずそう言った。
回復に専念していたので気づかなかったが、すでに呼吸は止まっていた。胸に耳を当ててみても音はない。
私はナイフを取り出す。今死ねば間に合うかもしれない。
「救世主さま!? 早まらないでください」
「死なせてよ! 私が今死ねば間に合うかも!」
「何を訳のわからないことを……!」
力で敵うはずもなくナイフは奪われ、おまけに腕を拘束されてしまった。簡単に死ねたらこんなことにはならなかったのに。いや、そもそもいきなり私がナイフなんかを取り出したから乱心していると思われていても無理はない……。
「救世主の能力で、死んだらリセットされる能力があるんだよ……」
「信じられません」
盗賊を連行してもらい、荷馬車の事が片付いた後、私は仁王立ちの3人を前に正座をさせられていた。もちろんまだ腕の拘束は解いてもらえていない。
正直な話、信じさせるのは無理だ。死んで証明しようとしても、今この話をしていたことさえなかったことになる。どうしたものか。
「皆に信じてもらう方法がないよ。だって時間が巻き戻るんだから」
「仮に死んだら巻き戻るとしても、はいそうですかと見過ごせるわけないでしょう」
「確かに私も同じ場面にあったら止めそうだけどさぁ……」
でもこのゲームの仕様を知っているマリエやアズミならば、きっと納得してもらえただろう。いや、そもそも最初のチュートリアルで光る神様に聞いているはずだし、受け入れてもらえそうだ。しかしここにはマリエもアズミもいない。
「あ、そうだ。アズミを呼べばいいんだよ」
あの浮いているマルチロボでアズミを呼び出し3人に事実であることを話してもらえればいいのだ。
早速――と思ったところで拘束されていることを思い出す。イナトへアズミにマルチロボを使って来てほしいと伝えてもらった。アズミはすぐに駆けつけてくれ、私が拘束されていることに驚愕した。
「死のうとして拘束されたんだね」
「そうなの。早速だけど、救世主は死んで時間を巻き戻せる能力があるよね?」
「うん。リンの言う通りだよ。だからリンが死んでも問題ないの。心配しなくていいよ」
マルチロボは頷くように上下した。3人はそれでも信じられないと言いたげな表情を浮かべている。アズミがゲームという単語を出さず、神に教えてもらったテイで救世主が死ぬことのメリットを淡々と語ってくれる。だが、死ぬ必要があること自体が最大のデメリットだとイナトは否定。
ルーパルドやロクも同意見らしくどうにも話が進まない。
マリエに通話してもらって説明してもらう以外他に方法がない。しかし恐らくアズミの方が詳しいし、マリエをわざわざ呼び出す必要があるかと言われると難しい。
「わかった。極力死なないようにするから、ね? そろそろ縄を解いてほしいな〜……」
「絶対死なないと言わなければ解きません」
「えぇ、そんなぁ」
最終的には私が折れ、死なないと宣言。どうせ死んだら巻き戻るのだからバレずに死ねばいいと思ったからだ。嘘をつく心苦しさはあるがこればっかりは仕方がない。
「アズミ、あとで相談したいことがあるんだけどいい?」
「いいよ。ミマさんのお手伝い終えたらチャット開くね」
マルチロボは時間経過でその場から消えた。今回少年を救えなかったのは心残りだが、今死んでもきっともう事件が起きる前に戻れそうもない。今後は簡単に死ねるような毒薬なんかを忍ばせておくしか方法はなさそうだ。バレたら大目玉を食らうだろうし、アズミに知恵を借りたい。
「ねえ、死んだら巻き戻る体質って本当?」
いつからいたのか、少し離れた大木の上で銀色の髪がキラキラと輝いている。その銀髪の持ち主である美少年は座ってこちらを見ていた。
「うん。救世主の特権だね」
「ふぅん。もしかしてこれまでに3回死んだ?」
「え?」
まず死んだのが森の花毒。その次がロクからの刺殺。そして最後が魔族から逃げるための自殺……。
なぜ少年は私が3回死んだのだと知っているのだろう。神様さえも死亡回数を確認してきたというのに。




