72.貴重な素材
やっと解呪魔法を教えてもらえた。アデルの言う通り、覚える事自体は簡単だった。しかし、必要な素材の名前はウロスラと言うものらしい。アデルが絵を描いてくれたが見覚えはない。
ウロスラは丸くて黒い中に何かが入っている。サイズは手のひらサイズくらいだとアデルは言う。
どうやら必要な素材はウロコラドンという龍の鱗らしい。ただ、ウロコラドンの鱗を拾えば良いという単純な話ではない。その鱗に黒スライムの液体を垂らし固め、龍のブレスを当てる必要があるとのこと。だが、そもそも龍は希少で鱗はかなり硬く、皮膚から切り外すことさえ困難だと言う。また、黒スライムも実際はかなりの希少な魔物だ。あの洞窟に豊富にいただけだ。
「これは過去研究していた龍と友人だった者の成果でね。だから普通の人間は呪いを解くことはできないと思ってもらって良い」
要するに、解呪魔法を教えてもらったものの使う機会はほとんどないだろうと。そう考えると救世主の血や唾液で攻略対象達の呪いを解くのがこのゲームの醍醐味なのかもしれない。
「それで、君の血と唾液を定期的に採取させてほしい」
「私の血と唾液で薬でも作るんですか……?」
「安心しろ。君が嫌そうにするから成分を調べて似たものを探そうと思っている」
定期的に採取したい理由としては、成分が微量でも変化があれば何か違う効果が発揮されるかもしれないからだという。私の能力について詳しく情報を得られるのはこちらとしても願ったりだ。
アデルの実験のおかげで自身の負担が減るのであればそのくらいのことは造作もない。
「そういうことでしたら手伝います」
「ありがとう。それでは今日のところは注射器1本分の血と唾液1グラム、それと一度口に含んだ水を頼む」
「うわ、なんか嫌だなぁ」
「つべこべ言わずにさっさとしろ」
アデルに軽く叱られ私は渋々指示されたものに唾液を吐き出し、水を含み再度コップに戻す。また、腕に注射器を刺され採られていく血――。
そうしてやっと私は狭くて薄暗い部屋から解放された。
体を伸ばし解放感を味わっていると、アデルも家から出てきた。挨拶もなしに研究へ没頭すると思っていたが、そこまで非情ではないようだ。
「もしウロコラドンや黒スライムを見つけたらワタシを呼べ。すぐ行く」
ただ単に言い忘れたことを話に来ただけだった。アデルはかなりマイペースな男のようだ。
しかしワープポイントは救世主のみが使えるもの。すぐに行くとは言うものの、実際には瞬時に来ることは不可能だろう。
イナトの作った物はゲムデースへワープできる代物。イナトに聞いた話からすると、ワープポイント以外で好きな場所に好きなだけワープできる道具は存在していないはずだ。
「いやいや、流石に無理でしょ――」
「できますよ」
「わっ! 召使さん?!」
召使は何もないところから突然姿を現した。その様子を見ていたアデルは目を丸くして召使を見ていた。
アデルに召使を紹介した後、召使は挨拶もほどほどにアデルへと何かを手渡す。
「これは救世主様の元へと瞬時にワープできる優れものです。しかし時間や使用回数に制限がありますのでその点はご注意ください」
「ほう、それは便利だな」
アデルが召使に手渡されたのは、羽根の形をした緑色の宝石だった。光に照らし、じっくりと眺めていたアデル。おもむろに宝石を握りしめ、召使に問いかけた。
「割ってみても良いか?」
「や、やめてください」
アデルは呪い以外にも興味はあるようだ。
◇
「救世主様、ご無事ですか!?」
「大丈夫だよ」
誰よりも早く私に駆けつけたイナト。私の側に立っていたアデルから距離を離そうと自身の方向へと引っ張る。
アデルはイナトの行動に鼻で笑っていたが、イナトはただアデルを睨むだけだった。
「あの人に聞いてると思いますけど、発動条件が大変そうですね」
「そうだね。この中でウロコラドンを見たことある人はいる?」
ルーパルドは首を振り、ロクは本で見たことがあるだけだと言う。イナトも色々な場所に遠征へ行ったが、一度も見たことはないと申し訳なさそうに言った。
「ゲムデースやスタートにはいないのでしょうね。となると、最後の国なのかもしれません」
「ゲムデースのワープポイントが終わったら行く予定の国?」
「はい。エンドラスト国です」
とても最後の国です感がする……。
エンドラスト国は龍の国と呼ばれるほどだったらしい。とはいえ、今はかなり龍の数が減ってきてしまっている状態らしく、保護対象なのだそう。
アデルの言っていた友人も恐らくエンドラスト国の人なのだろう。
「ウロコラドンの鱗さえ安定して手に入れることができれば、解呪できそうだね」
「ま、黒スライムの場所はわかってますしね。……また俺達が呪われないか少々心配ですけど」
そう言いつつも私を見るルーパルド。素材が集まるまで私が何度も解呪しなくてはいけない可能性があるからだろう。
「やっぱり黒スライムを箱で飼ってしまえれば良いんじゃない?」
「まるで家畜みたいだな」
ロクの言う通り、私は家畜のようなものをイメージしている。
人に慣らしてしまえば呪われる必要もないし、スライムの一部を貰うだけなら許してくれるかもしれない。どのように繁殖するのかは知らないが、多くなればそれだけ採取できる量も増える。
「スライムは知能がないため懐きませんよ」
「え、ないの?」
記憶できるものが備わっていないらしく、自分と同じ見た目の者以外は敵とみなすらしい。
「せめてウロコラドンを飼えれば……」
「ウロコラドンも人に懐かないと書いてあったぞ」
ウロコラドンはサイズとしては牛くらいだと言う。飼えそうなものだが、ロクが言うには人間を嫌い姿を現すことがないらしい。もしも目が合ったり近寄ればブレスを吐いて追っ払うか、仲間を呼び殺そうとしてくるそうだ。
「どちらも家畜にするには難しそうですね」
どうやら楽して素材を集めることはできないようだ。




