67.18以上対象の血はよくてもリアルはきつい
首を切ってもすぐには死ねなかった。
じわじわと痛みと血が湧いて出る感覚に寒気がする。首を切ったのだから息が上手くできるわけもなく、ゲームの世界なのだからもっとあっさり死ねないものかと朦朧とする頭で考えてしまう。
そんな私の首を掴み、必死に止血しようとする誰か。恐らく私を連れて行こうとした魔族のものだろう。近くで必死に声をかけてくるが、最後まではっきりとした言葉は聞こえてこなかった――。
次気が付いた時には、ルーパルドがロクを連れてメカクレオンの皮を剥ぎに行く最中だった。
私は後をついていき、手伝うことは難しいが側にいたいと話し近くで待機することにした。
この暇な時間は皆から背中を向けて、箱の整理をすることにする。
「皮はできるだけ大きいサイズで剥ぎ取りたい。ルーパルドはここから、ロクはここから切り取ってくれ」
「了解です」
「わかった」
皮を切る音や肉にナイフの刺さる音が聞こえる。血の臭いや血の滴る音が嫌でも耳に入ってくる。想像してしまい少し気持ち悪い。
だが、魔族に連れ去られるくらいならこっちの方が良かったはずだ。まだ痛む首を摩りながら私は自分の選択は間違っていないと言い聞かせた。死んでも生き返れるのは私の特権だし、活用しない手はない。
神は死んだ回数が少ないことに関心はしていたが、特に死んではいけないという話はしていなかった。デメリットは特にないと思ってもいいだろう。
「救世主さま、終わりましたよ」
「うん――うわっ!」
「あー……大丈夫です?」
ルーパルドに声をかけられ振り向くと、赤い血が身体中に付着している。思わず声をあげルーパルドから距離を取ると、苦笑いを浮かべていた。
ロクも血がついているが、黒い服装のおかげかあまり目立たない。だが、顔や手についている血はよく見える。
「ルーパルド、せめて血を拭いてからにしろ。すみません、救世主様」
ルーパルドとロクにタオルを投げつけ、イナトは私の視界に血まみれの2人と、メカクレオンの死体が視界に入らないように私の前に立ってくれた。イナトは本当によくできた男だ。
「ありがとう、イナト。それでメカクレオンの皮はどこに?」
「こちらに入れております」
水魔法で血を洗い流し、風魔法で乾かし、すぐに皮は私の目につかないよう袋へ入れてくれたようだ。本当にイナトは仕事が早い。私はそれを受け取りすぐに収納した。
どこかでメカクレオンを使った服を作って見たいものだ。……あまり触りたくはないけれど。
「メカクレオンの肉は淡白だ。食べやすい」
ロクは浴びた血を拭き終わった後、メカクレオンの死体がある方向へと向き、そう言う。
確かに説明には白味魚のようなものだと書かれていたはずだ。だが、私はわざわざ珍味を食べたいとは思わない。
ルーパルドも私と同じ気持ちなのだろう。嫌そうな表情を浮かべてロクに言う。
「いや、食べないからな。救世主さまのおかげで食料に困ってないだろ」
「……! それもそうだ」
いつも好きなものを好きだけ食べていることを思い出したロクは、ルーパルドの言葉にハッとした顔をする。
ロクは私と会う前は当たり前のように珍味――虫や魔物、毒がありそうな植物やキノコでも食べていたと言う。
解毒さえできれば良いと考えていたため、解毒薬は常備していたと話してくれた。今は私やイナトが解毒薬を定期的に作っているため常備していないとも言っていた。
「俺は良い主に拾われたな」
「今更それを言うのか……」
マイペースなロクにイナトは呆れた表情を浮かべたのだった――。
メカクレオンを倒した後、宝箱が出現することなく洞窟前に戻された。メカクレオンの皮が今回の報酬だったと言うことなのかもしれない。
神が言うには、洞窟には解呪魔法がない。その上、呪術オタクが集まる村にしかないと。
ないとわかれば、洞窟探索で期待する必要もないがモチベーションは下がるものだ。どことなくメンバーの雰囲気は落ち込んでしまっている。
「解呪魔法がないってわかってからドッと疲れが出た気がします……」
ルーパルドは地面に槍を突き刺し、だらけ気味にそう言った。ロクも触発されたかのように肩の力を抜き、菓子を食べ眠そうに目を擦っている。
だが、そんな仲間の姿を見ても、イナトは背筋を伸ばし毅然とした態度だった。
「イナト、疲れない?」
「これくらい平気ですよ。まあ、2人はやる気が削がれてしまっていますし、今日のところは箱で休みましょう。あの村へ行くために準備もしておきたいですし」
あの村とは呪術だらけの村のことだろう。何を準備するつもりなのかは不明だが、イナトはもう持ち物を決めている様子。
「救世主様、お休み前に僕の部屋に来ていただけますか?」
「行っていいの?」
「そこは即断ってくださらないと……と言いたいところですが、今回は特例です」
人差し指を口に当て、2人には内緒です。と微笑むイナト。それはもう誰もが虜になるような王子様スマイルだ。
私は高鳴る胸を無視して頷いた。
まさかイナトからとんでもないお願いをされるとは知らず。




