66.透明な敵
アズミの探索能力のおかげで簡単に洞窟の最深部まで到着した。だが、時間制限があるらしく、アズミの操作していたロボットはその場で消えたのだった。
通信機で感謝の言葉を送っておき、私達はボスの間へと足を踏み入れた。しかし、そこには何もいない。
ミニマップにも敵のマークはない。おまけに宝箱のマークもない。
「隠蔽能力の高い魔物でしょうか」
「メカクレオンか?」
イナトの隠蔽能力という言葉に反応したロク。おそらくカメレオンのことだろう。
メカクレオンは自身や近くの存在を無に近い状態へできるのだと言う。
だからこそマップには写らず、気配も探知しにくい。隠蔽が解けるのはメカクレオンがこちらに攻撃をする時くらいなのだと言う。
相手の攻撃を待ってみるが、一向に攻撃をしてくる気配はない。ずっと神経を張り詰めていても無駄に疲れるだけだ。
「煙玉を投げたらシルエットがわかったりしないかな?」
「お、それはいいですね。どうせ敵は見えないんですし、使ってみてもいいのでは?」
ルーパルドや他の2人も賛成してくれたので、私はポーチから煙玉を取り出した。そして足元に投げつけて煙を放出。
すると天井に大きなシルエットが浮かび上がってきた。はっきりとした形は捉えられなかったが、カメレオンっぽいシルエットだ。
天井へと魔法や槍、投げナイフを当てメカクレオンを攻撃。悲鳴をあげ、メカクレオンは地面へと落ちる。その時に特性が切れたのか緑色のフォルムが現れた。ひっくり返ってじたばたとしているメカクレオンに容赦無く攻撃を当てていき、弱らせる。
簡単に倒せそうだと思っていると、回避の音が聞こえた。しかし私自身の反応が遅れ、背後からお腹周りを締め付けられる。すぐに短剣でお腹に巻きついているそれを切り捨てようとしたところで壁へと叩きつけられ、唾と血が口から溢れる。
「大丈夫ですか!?」
すぐにイナトが私に駆け寄ってこようとしたが、私はそれを制した。
「私のことは気にせず、倒して!」
痛む背中を無視して立ち上がり、私は魔法を唱え攻撃を再開。
最後はロクのナイフが心臓を貫き倒しきることができた。
「慢心はダメって言われた気がするよ……」
お腹に巻きついたのはメカクレオンの舌だったようだ。ベタベタとした液体が服を濡らしている。
私は回復薬を飲んだ後、メカクレオンの死体を見つめた。説明には、メカクレオンの皮を使えば透明になれる服を作れると書かれていた。
「透明になれる服が作れるらしいよ」
「それはいいですね。では皮を剥ぎ取りましょうか」
イナトは短剣を取り出した。躊躇う様子はない。正直ぶよぶよしているメカクレオンの皮を触りたくない。また、皮を剥ぐということは中身が見えてしまうと言うこと。グロテスクなものに耐性はあるつもりだったが、見たくないし剥ぎ取りたくない。
表情に出てしまっていたのか、ルーパルドは私に少し離れた大きな石がある場所まで案内してくれた。
大きな石に私が座ると、ルーパルドはポーチから以前買っていたお菓子をくれた。
「救世主さまは休んでていいですよ」
「ふ、不甲斐ない……」
「気にしないでください。俺や団長はどこでも生き延びられるようにと慣らされてるだけなんで」
「俺もリンと一緒にいる」
いつの間にか私の隣に座っていたロク。俺にもお菓子をくれと手を出して待っている。ルーパルドはロクにお菓子を渡しつつも、首根っこを捕まえてメカクレオンの死体がある方向へと連れて行く。
「お前はできるだろうが。メカクレオンでかいんだから手伝え」
ロクは舌打ちはしたものの、お菓子が貰えたのでよしとしたのか抵抗することはなかった。
意外と仲が良く見える。私が知らない間に関係が良くなったのかもしれない。
遠くから3人の話し声が聞こえる。なんと言っているのかまではわからなかったが、楽しそうな声色だ。
「グロ耐性、つけた方がいいよね」
毎回剥ぎ取る時は何もしないなんてことは忍びない。万が一1人になっても問題ないようにしておきたい。
「そんなことしなくたっていいじゃん」
「わっ、い、いつの間に?」
目の前に立っていたのは捕まっていたウルフに餌を与えていた魔族だった。魔王に私のことを話、もう一度戻ってきたようだ。
すぐに距離を取り、いつでもイナト達と合流できるように少しずつ後退する。
「あんた、あのウルフのこと助けてくれたんだろ?」
「そうだけど……」
「魔王様が喜んでたぜ。やっぱり俺の女だなって」
「人違いかと」
「あんたが覚えてなくてもしょうがねーよ。あんたは魔王様の恋人の生まれ変わりなんだから」
警戒している私を無視して魔族は私へと歩み寄ってくる。私だけで対処できればいいのだが、どう見ても相手の方が強い。
走って逃げてもきっとイナト達にたどり着く前に捕まってしまうだろう。
「近づかないで」
「おいおい、脅しかよ。俺はただ、あんたを魔王様の元へ連れて行きたいだけなんだって」
自身の首に短剣を突き立てると、魔族は困った表情を浮かべた。きっと無傷で連れて来いと言われているのだろう。
「震えてる……やっぱ怖いんじゃん? 別にとって食おうとは思ってないし、大人しくしててくんない?」
1歩前に出した瞬間、私は短剣で思いっきり自分の首を切った。




