64.見放された神殿
「あのウルフを助けるにしても、代わりは必要ですよ。そうしないと洞窟の維持が困難になってしまいますから」
イナトは洞窟の維持を優先したいようだ。もちろん次の救世主が苦しまないようにしておきたい気持ちは私もある。
1番いいのは私が救世主を生み出さなくてもいい世界にすることではあるのだが、簡単にいくとも限らない。
「そうだよね。でも、また生き物を閉じ込めるのはなぁ」
「悪さをした人間を閉じ込めるのは?」
「人の心はないのか渡者!」
「じゃあ、お前も何か案を出せ」
「そうだなぁ……魔力を作り出せる道具、とか?」
ルーパルドの真面目な回答にロクは面白くなさそうだ。だが、皆その案が1番いいと頷く。しかし、そのような道具は今のところ開発されていないらしい。あってもよさそうなものなのに。
「救世主の力で作れないかなぁ」
念のためレシピを確認するが、【???】ばかりで作れるかどうかもわからない。ちなみにレシピはレベルアップで突然覚えられたり、何度か作っていると閃く仕様となっている。
「今は洞窟攻略に集中しましょう」
「そうだね。その間に代替案を思いつくかもしれないし」
そうして洞窟の最深部を目指し私達は歩みを進めた。
特に強い魔物もおらず、すぐに最奥まで到着。洞窟のボスは花の魔物だった。見た目通り火に弱く、すぐに塵となった。ただ、置き土産に花粉をばら撒いていったため、呼吸がしづらい。
早々に立ち去ろうと宝箱を開ける。中には魔力石と土が入っていた。説明を見ると、土の上に魔力石を置くといつまでも魔力を補充・放出できるのだという。
「今求めてたものが出ることってある……?」
「この勢いで解呪魔法も出てくるといいのですけどね」
イナトは溜め息を吐き遠い目をした。呪いを唯一受けなかったイナト。このままイナトに2人の解呪方法を知られないまま魔法を取得したいものだ。
宝箱をもう一度触り、洞窟の前へ。
ウルフはまだ眠っているようだ。寝息をたてている。
私は檻の側に先ほど手に入れた土を敷き、その上に魔力石を置く。すると、すぐに効果は現れて魔力石が光る。
薄暗い部屋だったこともあり、目が痛い。皆も同じようで目を覆う。
ウルフも流石に飛び起き魔力石を凝視した。
「驚かせてごめんね。ほら、もう外に出ていいよ」
錆びれていた南京錠を破壊し扉を開ける。鎖も同じように破壊するとウルフは自分の足を動かした。
ウルフはこちらをじっと見ていたが、扉から出ておぼつかない足で歩いて行く。
私達に向いて一鳴きするとまた歩き出す。
「ついて来いと言っている」
「ロクはウルフの言葉がわかるの?」
「少しだけだ」
滝裏まで来たところで、ウルフは滝から直接水を飲み、水を浴びそのまま外へと出た。水飛沫をあげすっきりした表情をしている。ウルフは神殿から少し離れた場所にある小屋に吠え、またこちらを見た。
「あの小屋にあるものを持っていけと言っている」
その小屋は、召使が側に立っていた小屋だ。宝箱のマークはないが、そこにある何かをくれるということのようだ。
ウルフは頷いた後、別れを告げるかのように少し大きめな声で鳴き森の奥へと消えていった。
「律儀な獣もいるもんですねぇ」
ウルフが去って行った方向を眺め、ルーパルドは言う。いつもは問答無用でウルフに襲われていたこともあり、ルーパルドは違和感を覚えているようだ。
ぼんやりしてばかりではいられないと、小屋の方向に向けば、すでにロクが扉を開けていた。だが、部屋には入らず扉の前で黙ったまま。
「神官らしき男の死体がある」
ロクが言うには、神官は所々から植物が生えてると言った。いつ殺されたのかは不明だが腐臭はなく、部屋は荒らされた形跡がない。それなのに呼吸は止まっているのだと言う。
「内臓はあるか?」
「服を着ていたから見ていない」
「ならこれは憶測だが、木の魔物の仕業かもしれない。木の魔物が内臓を取り出して苗床にする場合がある」
ということは、木の魔物が近くに生息している可能性もある。もしかして魔物のせいで神殿に人がいなかったのかもしれない。
「……わざわざそれを見せたくてここに?」
私がそう聞くと、ロクは首を振った。
「いや、そう言うわけではないだろう。神官の持ち物があった」
封印を解くための鍵や聖書、魔力の作り方の本など神殿のための物が多く入っていた。
どうやら好きで神殿を捨てたわけではないようだ。
イナトは「神を見捨てたのではなく、神に見捨てられたのか」と小さく呟いている。憐んでいる表情だ。
「木の魔物を倒さない限り、神殿の復興は難しそうですね」
ルーパルドはどこにいるかもわからない木の魔物を探しながらそう言った。
「それよりも場所移すのが1番な気がするけど、流石に無理かな?」
「今のスタート国の王なら、話を聞いてくれるかもしれません。ですがお金がないでしょうし、すぐに対処は不可能かと」
一応送っておきますね。とイナトは伝書紙を送る。せめてもう少し人通りのある安全な場所に移せば、神への信仰も戻るかもしれない。そうすれば、少しは景気も良くなるかもしれない。まぁ、神頼みのようなものなので、本当に立て直せるかは不確実なことだ。
「木の魔物と洞窟攻略する?」
「寄り道にはなりますが、そうしましょうか……」
イナトは嫌そうな表情を浮かべたのだった。




