62.地下の封印
男が来た時にはすでに地下へと続く道は閉ざされており、入ることは不可能だったと言う。
男は試しに鈍器で扉を破壊しようとしたが、傷1つかなかった。特に用事もないのでそのまま放置していたとのこと。
「神殿の管理が面倒になったから放棄したのでしょうねぇ」
ルーパルドは乾いた笑いを浮かべていた。私もつられて苦笑。
神の信仰を捨てたため、天罰を食らった。ということなのだろう。だからこそスタート国は他の国より劣ることになってしまった。
「封印を解くのは難しい?」
「解けるかもしれませんが……この封印をした者に何を言われるかわかりませんので、避けたいです」
「じゃあ、他の方法を考えるしかなさそうだね」
別の場所から地下へ行くことになり、扉以外で侵入可能な経路を探す。だが、寂れていると言えど作りは頑丈。床に穴が空いていたり、崩れそうな壁はない。
意図的に壊すと後が面倒だからとイナトは破壊も許してくれなかった。
「もしかしたら……滝裏の洞穴からいける、かも」
「神殿近くにあったあの滝の……。入ったことがあるのですか?」
「一度。ただ、奥までは行てない。獣の声、したから」
男は獣の声がしたため怖くて奥まで行くことを躊躇したのだと言う。洞穴のボスなのかもしれない。もし地下に行けなくても手ぶらとはならないだろう。
「もし道がなくとも掘ればいけるかもしれない」
「渡者……どう考えてもそれは現実的じゃない」
「チッ」
睨み合っているルーパルドとロクを無視し、イナトは頷いた。
「掘る予定はないが、一度探索してみるのはありだろう。救世主専用洞窟の可能性も否めない」
「洞窟ならどこでも救世主専用洞窟の可能性があるの?」
「確率は低いですけどね」
救世主専用洞窟は出現場所が決まっておらず、ランダムなのだそう。突然何もなかった場所に洞窟ができたり、元々あった洞窟が救世主専用になったりする。
時間経過で変わってしまうのは厄介だ。
また、神殿のように洞窟を繋いでいない限り入った場所とは別の場所に出てしまう場合もあるのだとか。ランダムに出現するのだから当たり前と言えば当たり前だろう。
「じゃあ、滝裏に行きます?」
「そうしよう。これはお礼です」
イナトは男にすぐに食べられるようなパンや飴などを手渡した。
また、暖かく過ごせるよう少し厚いコートも差し出した。そのコートはロクに買ってあげていたものだ。しかし、ロクは気に入らなかったらしく一度も袖を通していない。箪笥の肥やしになるのならということなのだろう。
「あ、ありがとう……」
私達は男と別れ、滝裏へ。
なかなか大きな穴が滝裏に存在していた。
耳を澄ませても獣の声は聞こえないが、今はもういないのか、それとも鳴いていないだけなのか判断はできない。
「一度休憩しましょう。クロノダと箱の繋がりの確認も兼ねて」
イナトに言われて気づいたが、もう日が沈みそうだ。
その場で箱に入り、鍛冶場へ。確かに扉が存在している。
召使はクロノダを箱へ招待できるようにしたと言っていたが、あちら側はどこに繋がっているのだろう。
念のため扉をノックするとあちら側からも同じようにノックが返ってきた。
「クロノダさん、今……うわわ失礼しました!」
開けた扉を私はすぐさま閉じた。そこには全裸のクロノダが立っていたからだ。上半身しか見ていなかったのが不幸中の幸いだろう。
イナトは私の反応で察したのか扉を少しだけ開けてクロノダに文句を言う。
「クロノダ、女性の前で裸を晒すな!」
「なんだよ、イナト。別にいいだろ」
イナトに叱られてクロノダは服を着てから箱へと入ってきた。
まずクロノダの視界に入ったのは鍛冶場。そして飾られている武器や防具。
「おい、勇者の剣じゃねぇのかあれ」
実物を見ていないクロノダだったが、写真はルーパルドから見せてもらっていたらしい。
すぐにそれが勇者の剣だと気づき、ルーパルドを見ながら勇者の剣を指差すクロノダ。
「それ、最初から飾られてあったんですよ」
「へぇ」と言いながらクロノダは誰の了承も得ず勇者の剣を手に取り、振り回したり叩いて音を確認してみたり。
気が済んだのかクロノダは剣を元の場所に戻した。
「よくできた模造品だな。お前の家のがやっぱり1番本物に近かった」
「本物は写真見せただけなのに、よくわかりますねぇ」
勇者の剣はいくつか模造品が街で売られている。だが、どれもルーパルドの家にあったレプリカよりも劣っているのだとか。なぜクロノダは写真だけでそれが判断できるのかは知らないが、これも職人だからこそなのだろう。
「それにしても、俺の部屋がこんなとこに繋がるとはなぁ」
「クロノダさんの部屋?」
「ああ。他は弟子も出入りするからな。誰も入らない部屋は自分の部屋くらいなもんなんだよ」
誰も入れるつもりもないため、扉を設置するのはここしかないとクロノダは設置したらしい。
クロノダの部屋かぁと勝手に内装を想像していると「寂しくなったら来いよ」とクロノダに耳元で囁かれ、脱兎の如く私は距離をとった。誰も入れるつもりがないと言ったくせに、なんて男だ。
3人はクロノダから私を守るように前に立った。だが、クロノダは気にせず話を再開する。
「最近は弟子もほとんど独り立ちしたから時間が取れる。ちょくちょく邪魔させてもらうぜ」
クロノダは私を見て楽しそうに笑った。




