61.スタート国の神殿
解呪魔法取得を優先することになった私達。ゲムデースからスタート国へまた戻り、近くにワープポイントがない神殿へと徒歩で進んでいたところだ。
重要な場所には確定でワープポイントが存在していると思っていた。しかし、残念ながらスタート国は神への信仰心が薄いため規模も小さい。そのためお世辞にも立地が良い場所に建てることが叶わず辺鄙な場所にあるのだと聞いた。
辺鄙な場所でもワープポイントはある場所はある。そのため、信仰心の問題ではないかと言われている。
本当は行きたくなかったと表情に出ているイナトを労いつつ、歩みを進めていると、小さな小屋の前に召使が立っているのが見えた。
スタート国は小さい国のためマップは最初のうちに開放できていたはず。なぜこんなことろにいるのだろう。
「お久しぶりです。救世主様、お連れ様方」
「召使さん、こんにちは。なぜこんなところへ?」
「鍛治師とお会いしたかと思います。その方をいつでも箱にお招きできるようアップグレードをさせていただきたく馳せ参じました」
地図のアップグレードがあるので神出鬼没だと理解はしていたが、こんな時も出てきてくれるんだな――なら霧の森でも出会いたかった。
「ということは、アップグレードすればあの村に行く手間がなくなるってことです?」
「ルーパルド様のおっしゃる通りでございます。クロノダ様には私がすでに話を通しておりますのでご安心ください」
なんて用意周到なんだろう。この世界の人は頼もしい人ばかりだ。
感心している間に召使は箱を手に取り呪文を唱えた。箱は光を放った後、すぐにいつも見慣れている箱の姿に戻った。
「もう終わったのですか?」
「ええ。鍛冶場付近に扉を設置しておりますので、箱へ入った際にご確認を」
召使は箱を私に返し、特に雑談もなく「それでは、良い旅を」と一言だけ口にしてその場から消えた。
いつもながら退散が早い。特に気にすることもないので前に進むが、ロクは眉をひそめた。
「生気の感じられない奴だったな」
「召使さんって神出鬼没だし、もしかして幽霊?」
私がそう言えば、ルーパルドは笑って横に首を振った。
「幽霊は触れないでしょ〜」
もしかしたらこの世界の幽霊は触れるのかもしれないと考えたが、ルーパルドが触れないと言うのだからそうなのだろう。
それから、触れる幽霊がいる可能性や、ゾンビの可能性など話が盛り上がっていると、突然背中が寒くなる。
「私はちゃんと人間ですよ」
「! もう近くにいないと思ってたのに!」
誰もが予想しなかった再登場に全員が驚いて身構えた瞬間だった――。
やっと神殿付近まで到達した。しかし、暗い雰囲気の場所だ。本当にこんなところに神殿があるのか不安になる。
木々が密集しており光が遮られている。薄暗い場所にポツンと建物が見えるが、まさかあれが神殿なのだろうか。
もう少し近づいて確認すると、建物には草花のツルが巻きついている。建物の外装がわからないくらいに生い茂っており、管理されていないことは一目瞭然だ。
ツルを切り捨てて、扉を開ける。その時に不気味な音が建物内に響き、中にいた何かがカサカサと動く。足音からして虫やネズミの類だろう。
「人が居ない……?」
「うわー。こんなだからスタート国は落ちたんじゃないのか?」
「ルーパルド……。気持ちはわかるが、言葉を慎め。万が一があるだろう」
「はーい。でも、こんだけ荒れてたら人いないんじゃないんですかねぇ……」
「いや、1人いるようだ」
ロクは気配を感じ取ったようだ。どこにいるかまではわからないが、息を潜めこちらの様子を伺っているらしい。
私もミニマップを確認したが、複数緑のアイコンが表示されている。ロクが言うには1人のようだが……目くらましでもできるのだろうか。
1番近くの緑のアイコンがある場所へと行くが、そこに人はいなかった。その代わり、木彫りのようなものが落ちていた。それに触れるとミニマップに表示されていた緑アイコンは消え、他はそのまま。緑アイコンを辿れば、いつかその人に会えるのかもしれない。
「会う必要あります?」
「念のため許可は取っておきたい。不法侵入と言われたら言い訳しようがないからな」
私達は緑アイコンがある場所を片っ端から潰していった。
そして最後の緑アイコンに辿り着いた時、人が勢いよく飛び出し、何か喚きながら近場にいたロクへとナイフを持って突撃した。
イナトと最初に会った時もそうだが、襲ってくる相手でも仲間のような色合いにするのはどうかと思う。まぁ、一応敵ではないのだろうが。
ロクは男からナイフを奪い、回り込み両腕を拘束する。男は悲鳴をあげもがくが、逃れられるわけもなく抵抗をやめた。
「神殿の者ではないようですね」
イナトは男の顔や服装を見てそう口にした。イナトに離してやれと言われ、ロクは頷き男を開放する。
男が持っていたナイフは何も飾られていない本棚へと置いた。警戒するほどではないと判断したようだ。
浮浪者だろうか。汚れた服に、汚れた体。まともに食べていなさそうなガリガリ体型。
「だ、誰もいない、から、住んでる……。いきなり人来て、びっくりして」
人と話すこともなかったのだろう。男はたどたどしく言葉を並べた。
神殿に来て何年も経つが、誰も人は来ていないと話す。ここは動物や植物が多く食料に困ることがない。建物も頑丈なので雨風を凌げる。
だからこうしてずっと神殿に暮らしていると。
「なるほど。では、地下にある洞窟を勝手に入っても問題はないでしょうね」
「地下は封印、ある。簡単にはいけない」
「救世主専用の洞窟だから入れないのも当然です」
「違う。地下の扉、に封印」
男は歩き出し地下へと続く扉を指差した。
「神殿の仕業ですか……」
イナトは鬱陶しそうに顔を歪めたのだった。




