60.一夜を明けて
陽気な小鳥のさえずりが聞こえ目を覚ますと、隣に半裸の男が寝ていました――。
「!?」
飛び起きて自分の体を確認した後、辺りを見渡した。服は着ているし特に異常はなく、他に起きている人はおらず。
そもそも外で雑魚寝だなんて、平和な場所なんだなと今更ながら思う。村の周りの魔物は極端に少なく、人通りも少ない。
だからこそできるパーティーのやり方なのだろう。
私はため息を吐いた後、その場にゆっくり座り込み半裸で寝ている男――クロノダの寝顔を見つめた。
ゴリマッチョ部類といえど、乙女向けのマッチョ美形。寝顔が醜いわけがない。まつ毛は長いし肌に傷1つない。髭だって生えてない。もちろん申し分ない筋肉の仕上がりでもある。
それにしても、なぜクロノダは半裸なのだろう。私が眠る前は服を着ていたはずだ。暑くて脱いだのか私が粗相を犯したのか、それはきっとクロノダにしかわからない。
「見つめすぎだ」
「……」
クロノダは寝そべったまま私の頬を撫でた。
驚いてやるものかと私は早い鼓動を無視して無言を貫き通す。その様子をクロノダは喉で笑っている。
「なんで半裸なんですか」
「なんでだと思う?」
「私がゲロでも吐きました?」
「あははは! んだよそれ。そんなんじゃないから安心しろ。ただ俺は寝る時脱ぐ派なだけだ」
どうやら家では全裸で寝ているらしい。だが、外だし私の前だからと半裸で我慢したのだとか。助かった。
だが、クロノダは続けて「慣れてもらうためにも全裸でもよかったかもな」と零した。破棄前提でいいと言っていたはずなのに、クロノダは本気にしてもいいぞと言いたげだ。
「私、そんなに気に入る要素ありました?」
「一目惚れってわけじゃないが、話しててビビッときたわけだ」
「それを一目惚れっていうんじゃ……?」
「そうか? じゃあ、一目惚れなんだろうな。恋愛はしたことねぇからな」
クロノダは体を起こし、私の頭を優しく撫でる。クロノダを好きだった女性が見たら卒倒ものだろう。私も好きな男のこんな姿を見たらきっとそうなる。
甘い雰囲気に耐えきれなくなった私は、クロノダの手を払いのけようと手を上げた。しかし、いつから背後に立っていたのかロクが先にクロノダの手を叩いた。
「なんだよロク。叩かなくたっていいだろ」
「理由はわからないが、イラっとした」
むすっとするロクを見て、クロノダは愉快そうに笑った。邪魔されたにも関わらず、この人は怒らないなぁ。
ロクは私の左手を取り、クロノダを置いて歩き始める。どこに行くのかと聞く前に、イナトとルーパルドの姿が目に映った。
2人は村長(クロノダの曽祖父)と話していた。村長が2人に透明な液体の入ったコップを勧められているのが見える。
ロクが2人に手を振ると、ルーパルドが気づきイナトに耳打ち。イナトは話を切り上げ、村長にお辞儀をしてから私の方向へと駆け足でやってくる。
「イナト――」
「救世主様、おはようございます。さあ、この村を出ましょう」
「団長の言うとおりです。長居は迷惑になりますからね」
イナトが私の右手を取り、ルーパルドは私の背中を押す。何かから逃れたいかのような行動に私は首を傾げた。
村長に合わせたくないと言っていたが、それに関係することだろうか。
後ろを振り返ると、村長は手を大きく振っている。それはまるでまた来てねとでも言っているようだ。
村を出ても手は繋がれたまま背中を押されたままどんどんと歩かされる。
そしてやっと止まったかと思えば、3人とも一斉に息を吐いた。
「ロクが救世主様をすぐ連れて来てくれて助かった……」
どうやら村長は呪術オタクの集まる村出身らしい。
無知を利用し、私達を村の住民にしようとしていたとイナトが説明してくれた。
先ほど村長が持っていたのはただの水だが、あれを知らずに飲むと契りを結んだことになり一定期間村から出ることができなくなると。
以前、村長が好きな女と絶対に結婚するべく編み出した呪いなのだそう。
救いなのは、1日村に留めておく必要があるため、即効果を発動できるものではないことだ。
そのため、1番呪いに詳しくない私を村長へと合わせたくなかったのだという。呪いは受けてないが、すでにかなり騙されてはいるのだが……。
ルーパルドは村の方向を見つめながら、息を吐く。
「やっぱり解呪魔法は覚えておいて損はないかもしれませんね……」
「皆を助けられるのは確かにいいけど、私が呪われた場合、自分で解呪できるのかな?」
自分の血を飲んで解決ならば問題はさほどないが、元々自身に流れているものを飲んでどうにかなるものだろうか。
そんな疑問も、イナトは以前読んだ救世主関連の本に書かれていたと説明してくれる。
「救世主は呪いに耐性があると書いてありました。文献には救世主が呪いにかかった事例はありませんでしたし、そもそも呪いにかからない可能性は大いにありますね」
救世主大好きなイナトのおかげで自分で調べる必要がないのはありがたいことだ。と思いつつ、ちょっとイナトに設定を盛りすぎていないか? とも思ってしまうのだった。




