58.私のために争わないでとか言う言葉
クロノダ対イナト、ルーパルド、ロクの戦いが始まろうとしている。
どうやら殴り合いでケリをつけるらしく、武器や防具は置き皆軽装だ。
ロクは武器のない戦いは初めてだとウキウキ。その傍らで、イナトとルーパルドはその言葉に不安そうな表情を浮かべている。まぁ、不安にもなるだろう。
1番の戦力だと思っていた男がもしかしたら1番弱いかもしれないのだから。
そんなことなどつゆ知らず、村中の人間がこの戦いを見届けなければと集まり、今か今かと待っている。
そんな中、私の隣に立っていた女性は羨ましそうに私を見つめていた。
どうやらクロノダのことが好きだったらしい。だが、自分を相手にしてくれることなど一度もなかったのだと。魅了してみようとしても「何してんだ?」と不思議そうな顔をされたり、「お前に付き合う暇はない」と一蹴されたり。
どう頑張っても自分ではクロノダを振り向かせることはできないと悟った。女性は諦め、一生懸命アプローチしてくれた他の男性と結婚したのだそう。
「クロノダさんが一目惚れすることなんて、あるのね」
私のことをじっくりと眺めた後、自分が見向きもされない理由がわかったとでも言いたげに頷いた。
確かに私と女性とでは、見た目や雰囲気は違う。
だが、そうではなく、武器の扱いや作業を見ていたことが決め手だったのではないかと思っている。あとは私がこのゲームの主人公だからと言ったところか。
女性は鍛治には興味がなくこの村から出ていくことを希望していたと話す。また、武器を扱うこともないため、クロノダの作ったものを丁寧に扱ってくれるかは謎。
クロノダが良いと思ったところ全て女性は否定的だった。クロノダがこの女性に惹かれなかったのはそのせいなのだろうと思う。
とはいえ、それを私がわざわざ伝えるのも気が引けるので笑ってごまかしておいた。
戦いが始まり、殴ったり蹴ったり。と言っても双方しっかりと防御をしておりすぐには終わらない。
攻防は続き、誰もが目を離せない中、私は目を背けその場を離れたかった。
ゲームとして遊ぶのなら痛々しいのでも見られるが、こう目の前で繰り広げられる暴力はあまり得意ではないからだ。
長い攻防を続けているが、誰もクロノダに一撃を喰らわせることができていない。加えて、クロノダは余裕の笑みを浮かべている。
それに対し、イナトは腹に蹴りを入れられ、ルーパルドは足。ロクは腕を殴られている。イナトとルーパルドは肌が見えないのでわからないが、ロクの怪我はとても痛々しい。きっと2人も痣ができているのだろう。
止めに入りたいが、男の戦いに割り込んでも良いのだろうかとも考える。
「怪我が気になるようじゃの」
クロノダの曽祖父は私の様子を見に歩いて来たようだ。先ほど俊敏に動き走り回っていたのが嘘のように、よたよた歩き。
「当たり前じゃないですか。私のせいですし」
「ならば止めて見せよ。お前さんが止めればどちらにも愛情があるとして事が収まるじゃろうて」
また村特有の何かなのだろうか。モテモテの女性は大変だなと他人事でいたかったものだが、今は私がその中心にいる。もし止めても何も咎められないのであれば、ぜひそうしたい。
「ありなんですか?」
「ああ。一妻多夫もありじゃよ」
「いやいやいや、そういうこと?」
一妻多夫など希望しない。そもそも、私はこの世界で結婚する予定はない。元の世界に戻ったらゲームとして考えなくもない話ではあるのだが。
「ふふふ、冗談じゃ。さ、"私のために争わないで"と言うんじゃ」
私が読んでいた少女漫画でも見た事がない。だが、知っている。馴染み深いが元ネタを知らないその言葉。まさか私が言うことになろうとは思いもしなかった。
後から男性陣に何か言われそうな気もするが、これ以上皆が傷つくのは見たくないのも事実。まぁ、クロノダはかすり傷程度しか受けていないのだが。
クロノダの曽祖父が言うには、例の言葉を言いながら割り込めば良いと言う。しかし、勢い余って殴られたり蹴られたりする可能性もあるのがまた厄介なところだ。痛みにはまだ慣れていないし……。
だが、これ以上ここでまごついているわけにもいかない。意を決して私は走り出す。
「わ、私のために争わないで!」
殴られるつもりで間に駆け込み言葉を放つと、皆の動きがピタリと止まる……というよりも皆私から距離を置き呼吸のを整え始めた。
上手いこと避けるものだと感心したところで、私はその場で全体治癒をかける。
詠唱に時間はかかるが、1人1人に治癒をかけるよりも手間が省ける。
光が収まったところでロクの腕の痣が消えたのを確認し、これで2人の怪我も問題ないだろうとその場に座り込み休憩。
スタミナと魔力を一気に持ってかれてしまうデメリットはいつか解消したいところだ。
3人が私に駆け寄ってくるのが視界に入り、立ち上がった。
そのタイミングでなぜかクロノダに担がれてしまう。
「ま、待って何? こわいこわい!」
そのまま私はどこかに連れて行かれ、3人の様子を見る余裕はなかった。




