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乙女要素のある死にゲーに転移してしまった件〜帰還エンドのはずが、様子がおかしい〜  作者: 勿夏七
10章 カジ村

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57.譲れない戦い

「ちょ、ちょっと待ってください。私は結婚しませんけど!?」

「何を言うとる。クロノダにお主がタオルと水を渡したであろう? あれが答えじゃ」

「ええ?」


 腰の曲がった老人はじっとしていられない風で体を忙しなく揺らしている。

 クロノダは呆れ声で老人に言う。


「寝言は寝て言えよ」

「お主こそ知っているのに受け取ったのだろう? 気に入った女を手放すでないわ」

 

 クロノダから聞いたところ、この老人はクロノダの曽祖父にあたり、ずっとひ孫の結婚を夢見ているのだと言う。

 なお、この村では代々受け継がれている求婚の方法がある。それが鍛治を終えた男へ女がタオルと水を渡すこと。それを男が受け取ることで成立になるのだとか。

 わざわざ私にクロノダへ渡すよう促したのはそう言うことだったのか……。


「なぜ止めてくれなかったんですか?」

「それをやってたのは曾祖父の代までだ。俺の父親も祖父も村から出て結婚したらしいが、そんなことはやってないと言っていた。もう廃れてんだよ」

「どう考えても廃れてないでしょ! 貴方の弟子から嵌められたんですし」


 どう見積もっても弟子はクロノダより若い。弟子としては結婚して身を固めて欲しいと言う気持ちだったのかもしれないが、外から来た女に突然押し付けることではないはずだ。

 鍛治を眺めていたせいなのか、元々嵌める気満々だったのかは知らないが、このままでは初対面の男と婚姻を結ぶことになってしまう。


「こうしてはおられん! ワシは準備を手伝ってくる。クロノダ、お前は花嫁さんを逃すでないぞ!」


 腰が曲がっているのが嘘のように、走り去って行くクロノダの曽祖父。その様子に「転ぶなよ」と言うだけで見送るひ孫のクロノダ。花嫁のところを否定してほしかったが、満更でもないのだろうか。


「救世主様、ご無事ですか!」


 クロノダの曽祖父と入れ替わりで3人が駆けつけて来てくれた。これで少しは安心だ。

 イナトは私の前に出て、クロノダから隠すように立った。

 

「イナト、大変なことになっちゃったよ」

「結婚のことでしたら聞きました。もちろん断りますよね?」


 捨てられた子犬かのような表情のイナト。だが、性格を知っているせいなのか「僕がいるのにまさかあの男と結婚しませんよね」と言われている気分だ。

 不思議。

 

「そりゃそうだよ。どうすれば破棄になる? やっぱりパーティー参加拒否?」

「手っ取り早いのはそれでしょうね」

「せめて花婿予定の男の前で言うのはやめろよ」


 クロノダは落ち着いた様子でそう言う。その態度が気に食わなかったのか、イナトはクロノダを睨む。

 

「クロノダ、お前も巻き込まれた側かもしれないが、前もって話しておくべきだっただろう」

「俺の仕事を興味深そうに眺めてたし、武器の手入れも行き届いてた。ならこいつと誤って結婚してもいいと思ったからな」


 私の時と言ってること違うんですけど?

 そう口を出そうとしたが、クロノダは「じゃあ」と先に話し始める。


「俺に決闘で勝てたら諦めてやる」

「そんな無茶苦茶な!」

「いいだろう」

「団長!?」

 

 ルーパルドは勝てっこないと目で訴えている。それもそのはず。勇者は生前最強と呼ばれており、実際負けたことが一度もないらしい。そんな勇者と同等レベルだと言われている人に、イナトが勝てるとは申し訳ないが想像しづらい。

 もちろん私達の中で1番強いのはイナトなのだろう。しかし、それでもやはりゾンビに不意打ちをつかれ大怪我を負っていた人間が勝てると思えないのだ。


「イナトだけだとすぐ終わりそうだな……。ルーパルド、ロク。お前らも参加していいぞ」


 イナトの実力を知っているのか、クロノダは余裕の笑みで2人の参加を提案する。ルーパルドはあまり戦いたくない様子。だが、私がクロノダに取られるのを黙って見ていられないと参加。ロクは死合うのは好きだと二つ返事で参加を希望した。

 

「3人なら勝てそう?」

「俺と団長の動きはバレてるから、渡者頼りだと思います。正直厳しいのは間違い無いでしょうけど」

「そんなに強いのか?」


 ルーパルドの発言に、ロクは嬉しそうにしている。

 人間同士の戦いは現在禁止されていることから忘れていたが、ロクは「死合う」のが好きだ。特に魔物ではなく強い人間と戦いたいと言っていた。ロクが喜ぶのも無理はないだろう。


「じゃあ、ロクと連携……取れる?」

「問題はそこですね。ルーパルドとロクはフクロウ退治の時、息が合いませんでしたし……」


 その言葉に、イナトとルーパルドは不安そうな顔色。

 唯一、ロクだけずっと楽しみだというオーラ全開。ずっと我慢させられていた子供がやっと好きなおもちゃを買ってもらえる時のようだ。


 ロクには悪いが、決闘は避けたほうがいいのではないだろうか。

 私はクロノダに耳を借り、咄嗟に思いついた嘘を伝える。


「私にはすでに相手がいます。濃厚なキスもしました」

「だから? 俺がもっとイイやつ、教えてやるよ」

「う、嘘です!」


 流石に人のものだとわかれば諦めると思ったのに、クロノダは結構ノリノリだ。

 撤退しようとしたがすぐに引き寄せられ、耳元に息を吹きかけられてしまう。


「ひっ」


 いつも思うが、なぜこう言う時は回避の能力が機能しないのか。やはりこのゲームの仕様だろうか。

 

「ば、バカ! 何言ったのか知らないけど、救世主さまのバカ!」

「ルーパルド、救世主様になんてことを!」


 混沌とさせてしまったことは皆の元に戻ったら謝ろうと思う。

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