55.筋肉
ゲムデースのワープポイント解放の前に、一度国王へ会うことになった。たまには元気な姿を見せてほしいと言うことらしい。
イナトもルーパルドもゲムデースの人間だし、国王とイナトは兄弟。ならば心配するのも納得だ。
「お久しぶりです、兄上」
「ああ、久しいな。旅は順調か?」
「伝書紙を定期的に渡しているからご存知でしょう?」
「お前の口から聞きたかったんだがなぁ。まあ良い」
国王からお金は足りているか、装備は良いものを使っているかなどあれこれ聞かれたが、イナトは全ての問いに「問題ありません」と答えた。
にも関わらず、国王はこれ持っていけ。旅の役に立つと追加のお金や素材、どこかで使えるらしいVIPカードなど豊富に押し付けてきた。
私としてはありがたいが、イナトは眉間に皺を寄せていた。
「武器の手入れはちゃんとできているのか? 鍛治職人でも用意させようか」
「不要です。必要となれば僕がやりますので」
「何を言う。プロに任せる方がいいに決まっているだろう。俺の友人が住むカジ村にまず行くんだ。きっと驚くほど使い心地が良くなるだろう」
伝書紙を送っておこうと有無も言わさず国王は一筆したため、その場ですぐに伝書を送ってしまった。
イナトは勝手なことを……とジト目で国王を見ている。身内だからこそできる態度だろう。
結構あからさまだが、そんな態度を見てもただ笑うだけの国王。仲が良くないとできない態度だ。
「それでは、健闘を祈っている。いつ帰ってきても良いからな」
無邪気な子供が手を振るかのように、大きく左右に手を振る国王。イナトはそれを無視し、ルーパルドは会釈をしてやり過ごす。ルーパルドの真似をしてロクは会釈をし、私は小さく手を振った――。
城を出て街を出て、カジ村を目指すことになった私達。イナトは先頭に立ち、南側を指差した。
「ここからであれば、南側へ100キロメートルほど道なりに進むと、川が見えてきます。その川を渡ったすぐ側に小さな村があります」
小さな村には鍛治職人と弟子複数人。そして職人や弟子の家族くらいしか住んでいないのだと言う。かなり辺境の地であるため、人が訪れることも少ないからなのだそう。
「団長、もしかしてあの人に会いに行くんです?」
「そうだが……ルーパルドは苦手なんだったか」
「だってあの人、勇者の剣寄越せ〜しか言わないんですもん」
ルーパルドが言うにはその人は自分に会うたび、勇者の剣を触ってみたい。溶かしてみたい。実用性を確認したいなど興味津々なのだそう。
レプリカだと話しても、見てみないとわからないからとりあえず出せと言うほどらしい。
流石にご先祖様の剣を渡すわけにもいかず、できるだけルーパルドは会うのを避けていたのだと。
今はもう剣はないが、それでも取り返せだのなんだの言うらしい。
「ルーパルドは箱で待機しとく?」
「それは無理ですね。ルーパルドの武器の手入れも指示されているでしょうから」
「私が持って行こうか?」
「重いから厳しいと思いますよ」
ルーパルドは苦笑しながらも私に剣と槍を手渡してくれる。
ズンッと手にかかった重さに思わず落としそうになったがなんとか握りしめる。
ルーパルドに武器を返し私は息を吐く。
「ごめん。危なかった……」
「いえいえ、お気になさらず。重いでしょう? 救世主様ほど華奢な方には重すぎますから」
イナトもルーパルドも軽々自身の武器を振っていたので軽いものだと勝手に想像していた。私も使っている武器は軽めの片手剣――ナイフと言ってもいいほどのものを使用している。だからこそいけると舐めていた。
死にゲーでは武器に重量が設定されているし、そう考えれば妥当なのかもしれない。
「筋肉量増やせば持てるのかな」
「いやいや、救世主様は今のままでいてください」
ステータスの割り振りのことを言っていたのだが、ルーパルドが知るはずもなく慌てて止められてしまった。
ここでゲームの仕様を話すのも違う気がし、私は頷くだけに留めることにしたのだった。
◇
カジ村に到着したと同時に人に出会う。
「ようこそ〜」と陽気なマッチョが複数人、挨拶をしてくることから伝書紙が届いてから待っていたのかもしれない。
「お待ちしていました。師匠は職場を温めて待っていますよ」
1人のマッチョがイナトを見て、私達を見て笑顔でそう言った。人が来るなんて久々だ〜と他のマッチョは喜んでいる。なかなかの歓迎ムードだ。
1人のマッチョに鍛治職人の待つ家へと案内され、扉を開ける。
そこにはすでに汗をかいているかなりマッチョな男の人が、熱した何かをハンマーで叩いている姿があった。
弟子に「師匠」と声をかけられ、振り向く。
勝手にそこそこ歳のいっている人だと想像していたが、攻略対象だと言われれば納得できてしまうほどのマッチョなイケメンがそこにいた。
真っ赤な髪と切れ長の目、緑色の瞳が印象的だ。
今ここにいる誰よりもマッチョだ。乙女向けの中でのゴリマッチョと言っても過言ではないだろう。
もしかしたらマリエ好みの筋肉量かもしれない。スミスといい勝負だ。
「ああ、来たか」
見た目通りの声と言ったところか。低く心地良い声だ。師匠と呼ばれたマッチョは、顔ではなく私達の武器をじっくりと眺めてから口を開く。
「全員、そこに座れ」
なんかちょっとキレてた。




