50.合流
2人が箱に帰ってきて、まずロクの呪いの話をした。
もちろんすべて語るわけにもいかず、包丁で指を切ってしまいその血をロクが舐めたことで呪いが解けたと説明をした。
イナトはロクが私の血を舐めたことに苛立ちを見せたが、ロクが私へ必要以上にベタベタしていないことに気分がいいのか咎めることはしなかった。
「呪いは救世主様の血で解呪が可能なのですね」
「それならわざわざ魔法を取得しなくてもいいんじゃないですか?」
イナトは興味深そうに頷き、その隣ではニヤニヤとしているルーパルド。
もし次もルーパルドが呪いにかかった時、きっと血を貰うと思わせてまたキスをするつもりなのだろう。
その時はイナトに言いつけてしまおう。ルーパルドが無理矢理キスしようとしてくると。
「ダメだ。僕が許すわけないだろう?」
「ですよね〜。ま、とりあえず呪いは俺も渡者も解けましたし、残りのスタート国のワープポイント終わらせに行きません?」
「ああ、そのつもりだ。ロク、戦えるな?」
「問題ない」
イナトは胸を撫で下ろし、スタート国へと再出発。
残り少なかったワープポイントをすべて解放できた。素材も集まり、箱のアップグレードもできた。これで洞窟や森でも箱で休憩することができる。
そして、スタート国の王の元へと挨拶のため戻ることにした。
事前に伝書紙で連絡をしていたため、街に入ると歓迎ムードだ。
私の周りに人集りができ「ワープポイントの解放ありがとう」「さすが救世主様」などお褒めの言葉をたくさん頂戴した。
しかし、イナトやルーパルド、ロクには特に声はかけない。3人が居たおかげなのに、私ばかりお礼を言われても良い気はしない。
3人のおかげだと話そうとすれば、イナトは私の肩を軽く叩き、首を横に振った。私が皆を持ち上げたらそれはそれで厄介なことになるのかもしれない。きっとイナトはそう言いたいのだろうと、私は頷き愛想笑いで人々の対応を終わらせた。
「――すべてのワープポイントの解放、感謝する。それで、モノは相談なのだが……救世主、私と結婚する気はないだろうか」
「は?」
いち早く反応したのはイナトだった。低い声で言ってしまったせいもあり、王の体が強張る。
ハッとしたイナトは咳払いをし、いつも通りの声で言う。
「救世主様には先約がいるので無理ですね」
「そんなのないけど!?」
先約は僕です。と顔で訴えている。なかったことにしたはずなのに、イナトはまだ諦めていなかったようだ。その様子を王は引き攣った笑みを浮かべ「それなら仕方ない」と言い口を閉じてしまった。
その様子を隣で見ていた騎士は、慌てて次の話へと進む。
「これはお礼の品です。スタート国の特産品、バナイップルです」
バナイップルと呼ばれたそれはバナナの形をしていた。中身はパイナップルらしい。
バナナとパイナップルを融合して作ったという適当すぎる説明が記載されていた。
メッセージウインドウのおかげでわざわざ聞く手間が省けるのはありがたい。
王との話も終え私達はゲムデースにいるアズミを呼び、あの霧が立ち込める森へ入ることにした。
◇
ワープポイントを駆使し、アズミのいる村へ。
アズミは畑仕事をしていて、私を見るなり助かったと言わんばかりの笑みを浮かべていた。
村長に説明を終え、アズミはお別れの挨拶を簡単に済ませ、一緒にワープポイントを使い移動。
「これがワープポイント! わたしは使う前に旅をやめちゃったけど、サッと移動できるのってやっぱり便利だね」
「救世主以外はワープできないですけど、アズミさんもアイテムの購入はできるし活用してみてはいかがです?」
「……あ、はい。そう、します」
私を見て目を輝かせていたアズミだったが、ルーパルドに話しかけられ素っ気なく返事をした。しかもルーパルドとは頑なに目は合わせず、私とイナトしか視界に入れようとしない。
「俺あの子、苦手かも」
「あはは、しょうがないね」
素っ気ない態度にルーパルドは傷ついたのか、私に耳打ちをする。
私はただそれを笑って聞き流すしかない。
最初に会った頃からルーパルドに苦手意識があったアズミ。「陽キャは苦手」と嘆いていたこともあり、気さくに話しかけてくるルーパルドへの苦手意識がさらに加速したようだ。
だからと言って物静かなロクと相性が合うわけでもないようで、「静かすぎて居心地が悪い」と近寄らない。
「あいつ、協力する気はあるのか?」
イナトの隣でもおどおどとするアズミを見ていたロクは、眉をひそめた。
協調性がないと言われればその通りなのだが、受け答えはルーパルドとロクにも最小限できている。
それだけでも十分だと私は思っているが、あまりお気に召さないようだ。
イナトがルーパルドと話し始めてから、アズミはその場でそわそわとしていた。
「アズミ、大丈夫そう?」
「リンとイナトがいれば、なんとか。……うう、やっぱり帰ろうかな」
「もう帰りません! て豪語しちゃってたけど、大丈夫?」
「そうなんだよね……。どこかいい場所、ないかなぁ?」
村を出る時、アズミは「お世話になりました! もうこの村には帰りません」と強気な発言をしていたのだ。
「成長したなぁ」とほろりと涙をこぼす人や「頑張れよ」と鼓舞する人、それぞれかける言葉は違ったが全てポジティブな送り出しだった。
それなのに森のことが終わって早々に帰ってきたら、流石に村の人々は驚くだろう。
「箱庭はやっぱり嫌になった?」
「……空気壊しそうで怖いの」
「そっか。もちろん無理強いはしないよ。イナトにオススメの定住場所教えてもらおうね」
「う、うん! その時にはマルチ用の子作っておくから」
楽しみにしててね。と笑う姿に私はアズミの頭を思いっきり撫でたのだった。




