48.過去の話
ゲムデースに戻り、箱に入る。
イナトはロクが荒らしたキッチンを片付けるため早々にキッチンへと消えていった。
その隙にルーパルドを見ると、ルーパルドもこちらを見ていたようで目が合う。
ルーパルドと2人きりで話したいところだが、イナトから部屋に入れるなと釘を刺されている。
これでは話せないと悲観的になる必要はない。
だって私にはこれがある。
「ルーパルド、後で通信機使おう」
「その手がありましたね。寝る前にでも話しましょう」
食事や寝る支度を済ませた後、ルーパルドへ通信を送る。ルーパルドはワンコール終わる前に通信機へ出た。
「――ほんっとうに申し訳ない」
開口一番ルーパルドは私に謝る。自分が何をしたのか記憶がないと思っていたのだが、違ったのだろうか。
「何したのかわかってて謝ってる?」
「えっと、リンにキスしたような気がして――俺はそれが夢だと思ってがっついて…………あの、合ってます?」
「……そうだね、それは夢じゃなくて現実だったんだよ。それで、他に言いたいことは?」
「甘くて美味くて、もっと味わいたかったです」
「そ、そういことは聞いてないんだけど!?」
ルーパルドの反応からして、私を揶揄っているようだ。居心地が悪いからだろうが、そんな風に逸らされてしまっては困るのだ。
私はあえてルーパルドにくどくどと説教をする。ルーパルドは「はい」と律儀に何度も返事をしていた。
しかし、どんな表情でどんな体勢で説教を聞いているのか見えないため、反省しているのかもわからない。
「……本当に反省してる?」
「やっぱり説教となると面と向かってじゃないと反省の色は見えないもんな。ちょっと待って」
ガサガサと音がしたかと思いきや、通信機を切ったルーパルド。
イナトやロクの視線を掻い潜りこちらにやってくるのだろうと予想し扉を見つめる。
だが、ルーパルドは一向に現れない。
どこかで2人のどちらかに見つかったのかとベッドから降りようとしたところ、窓をコンコンと叩く音がした。
振り返ればそこにはルーパルドが笑顔で立っていた。
この家は個別にベランダが設置されているため、登れさえすれば私の部屋に来るのは容易なことだ。
それでもまさかわざわざ梯子を用意し、外から来ると思いもしなかった。
「反省してるので見つかる危険はすべて避けました」
「なんか違う気がするけど、まぁいっか」
謝罪にも来たし早々にお帰り願おうと開け放っていた窓へ追いやり閉めようと手をかける。
だが、ルーパルドは私の手を取り私を見つめた。
「以前俺がイライラしていたことがあったでしょ? それについて、話を聞いてくれませんか?」
「話したくなった?」
「そんなところ。リンには聞いてほしいなって思って」
またルーパルドを部屋へと招き入れ、ソファへと座らせる。
ルーパルドは私が隣に腰を下ろした後、一度息を吐き話し始める。
ルーパルドはスタート国出身の渡者に村を火の海にされたのだと言う。
その時ルーパルドは騎士団の寮にいて事なきを得た。だが、家族や親戚、村にいた全員皆殺し。
これは後から知ったことだったそうだが、燃え跡から勇者の剣や肖像画は見つからなかったのだそうだ。
全焼したとは考えにくく、ルーパルドは持ち去られているものと考えているのだと。
なんのためにそれらを持ち去ったのかはわかっていないが、渡者も渡者に依頼した人間も見つけることができず、調査を断念する他なかった。
「ただ、あの渡者は年齢的に参加してないと思う。無関係だろうな」
「それでも、渡者だから不快感があるってことね」
「そういうこと。あとは、単純にスタート国へ出張に行ったことがあるんだが、出会う人間の大半が団長以外には冷たい態度をとったりバカにしてきたりと幼稚だった。だから俺は今も渡者とスタート国が嫌いなんだ」
以前の王がまだ生きていた頃、スタート国はどこよりも裕福で、どこよりも地位が上だったそうだ。
だからなのだろう、ゲムデースを下に見ている者が多く、嫌がらせをしても問題ないと考えていた。
粗悪な環境下に置かれ、病気に罹ったり怪我の悪化で死にかけたり。
せめて病人怪我人だけでももう少し良い場所を提供してほしいと頼んでも拒否。
それなのに同盟国ということもあり、スタート国に魔物が出た場合は助けに行かなければならない。
自国の騎士で賄えばいいだろうという話もあったが、成り手がいないと返される。
なお、騎士を目指す者はゲムデースに移り住んでスタート国に戻るものは少ない。
それはスタート国では騎士をあまり大切に扱ってくれないからだと噂されている。
また、イナトが出張に赴いた場合は、媚を売るかのように良い部屋を用意し、いつもこのくらいしているとでも誇らしそうにしているのだ。
「イナトはそれを知っているの?」
「もちろん。だから出張に行くときは団長がいつもついてくるようになった。あと、できるだけ日帰りで済むようにと道具を用意してくれた」
その道具とはイナトが使っていたゲムデースにワープできる物だった。
イナトが率先して投資をし作られた物。今も自身のお金を使い、騎士の皆に持たせているとルーパルドは語る。
「イナトすごすぎない?」
「俺もそう思う。団長には逆らえませんよほんと……」
でも、とルーパルドは私に優しく微笑みかけた。
「リンのことは、たとえ相手が団長だとしても諦められそうもないな」
これは絶対スチルあるやつだ。と気を逸らすようなことを考えていたことは、ルーパルドには口が裂けても言えない。




