39.解呪魔法
「先ほどは大変申し訳ありませんでした」
ルーパルドから言伝を聞いたのだろう。
イナトは気まずそうな顔で私に頭を下げた。
「いいよ。むしろごめん。朝食の時に話忘れてたんだよね」
ルーパルドは呪いにかかっていること、救世主の側にいると症状が落ち着くことのみ話してくれたようだ。
ここでロクに殺されそうになった話をしていれば、今頃ロクはパーティーから追い出されていただろう。
「解呪魔法をすぐにでも取得しに行きたいんだけど……いいかな?」
「もちろん構いません。付き合ってもいない男女が抱き合うなどあってはならないことですので」
迷うことなくイナトは大きく頷いた。
かなり私情のような気もするが、いつか役に立つかもしれない。そう言うことにしておいて、まずは解呪魔法の取得をすることになった。
「その魔法ってどこで覚えるのかな? イナト、知ってる?」
「救世主のみが挑める洞窟がいくつか存在しています。恐らくその中の1つでしょうね」
イナトでもいくつ洞窟があるのかは把握していないらしい。
だが、1つ2つで済むほどではないのは確かなのだと。
「そっか。でも、そうなるとワープポイントの解放をしつつ、見つけられたら挑むのがよさそうだね」
「いいえ、そんな悠長なことは言っていられません。洞窟は神殿が管理しているはずです。ゲムデースの神殿でしたら、顔が効きます。なのでゲムデースに行きましょう」
有無も言わさず、イナトは国境を越えるためのワープポイントを確認する。
「ここにワープし、国境を越えましょう。伝書紙を送っておきます」
すぐさま紙とペンを取り出しものすごいスピードで書いていく。
そんなにロクが私にひっついているのが嫌なのか。
今もロクが私の側にいることをよく思ってなさそうだ。
「流石団長、と言いたいところですが今回ばかりはマジすぎてちょっと怖いですね」
「過剰に反応しすぎてる気がするね」
「いやいや、渡者とイチャイチャしてる姿は俺だって面白くないですよ。正直渡者は置いて行ってもいいんじゃないかと思ってますから」
ニコニコ笑顔のルーパルド。だが、雑念が山ほど入っていそうな笑顔だ。
イチャイチャしてるつもりはないが、傍から見ればそう見えるのだろう。
イナトが伝書紙を出した後、ワープポイントを使って国境近くまで移動する。
国境で見張りをしていた人々はイナトを見るなり門を開き、敬礼する。
イナトも簡単に挨拶を済ませすぐに門をくぐり、迷うことなく近くのワープポイントへの道を歩き出す。
「イナト様、気が立っておられるな」
「何をそんなに急いでいるんだろうな」
ひそひそと話す門番。
理由の知りたい門番は目の合ったルーパルドに事情を聞こうとした。だが、ルーパルドは極秘任務だと適当にあしらった。
ワープポイントに到着し、すぐに私へ次のワープ場所を指定する。手際が良すぎるのだが、頭の中で最短ルートを考えているのだろうか。
敵にこんな男いたら嫌だろうな。このゲームに裏切る男はいないと信じたいところだが。
まだ解放されていないワープポイントの近くに神殿があるらしい。
ちょうどよく近くを通っていた馬車をイナトが捕まえ、神殿まで送ってもらえるようお願いした。
男性は快く受け入れてくれた。
服装を見たところ、神殿の人のようだ。
イナトだとわかった瞬間、男性はペコペコと頭を下げていた。一瞬顔が引き攣っていたようだが、イナトは一体何をしたのだろう。伝書紙に脅しのようなことでも書いていたのかもしれない。
馬車に乗せてあった荷物を端へ寄せてもらい、私達は乗り込んだ。だが、イナトはまだ男性と話している。
イナトは不快そうな表情を見せ、神殿の人へ小言を漏らしているようだ。
私がイナトの様子を伺っているのを見て、ルーパルドは小声で私に教えてくれる。
「あの方は"救世主様の助言を授かった"とかで一度嘘で儲けたことがあるらしいですよ」
「へぇ。救世主って便利な言葉だなぁ」
「面白そうにしないでください。団長、自分が直々に処理すると言って聞かなかったんですから」
どうやら私が呑気にマリエと話している時にそのような伝書紙が届いていたようだ。その場ではかなり怒りを露わにしていたと話す。
私と合流した時はいつも通りだったため、全然気づけなかった。
「ん? ロク、寝るの?」
私の太ももに頭を乗せたロク。呪いのせいかいつもより疲れているようだ。
ルーパルドは「堂々とこんなことができるなら、俺も呪い受けたいな〜」と羨ましそうに笑っていた。
だが、イナトがこちらに近づいてきたのを察してか、口を閉じイナトが乗り込むのを待った。
イナトが馬車に乗り込み私を見てそのまま視線は足元へ。
「……。ここの道は整備されているので、揺れの心配はないかと思います」
寝そべっているロクを見なかったことにして、イナトは私とルーパルドにそう言った。
イナトはルーパルドの隣に座りアイマスクを取り出した。
「あれ、団長がアイマスクを出すなんて珍しいですね。寝るんです?」
「ああ、目を休ませておきたい」
そう言いながらアイマスクをつけたイナト。
膝枕されているロクを視界に入れたくないのではと私は考えてしまった。
ただ単にはしたないと思っているだけかもしれないが。
真実は本人にしかわからないことだ。




