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乙女要素のある死にゲーに転移してしまった件〜帰還エンドのはずが、様子がおかしい〜  作者: 勿夏七
5章 水の町

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36.本の魔法

 ミマにこれ以上時間を費やすほど暇じゃないと言い切ったイナトは、町長に別れの挨拶を済ませた。

 別れを惜しむことなく、安堵した表情を浮かべた町長。

 この様子だと、またミマと連携して流行りを作っていきそうだ。

 イナトの逆鱗に触れる物でないことを願うばかりだ。


 町を出てすぐワープポイントのある方角へと歩みを進める。

 宝石のおかげで暑さは軽減されているが、景色が景色なだけに暑い気がしてきてしまう。

 砂漠のように砂だらけで、上を向けば眩しい太陽。容赦のない日差しに目を開けることはできない。

 こまめに水分と塩分の補給、そして休憩を挟み、だだっ広い空間を歩き続けた。


「このワープポイントの開放が終わったら今日は休みましょう」

「今日は1日が長く感じたなぁ」

「何もないですからね。歩くだけじゃ時間も長く感じるはずですよ」


 ワープポイントを解放し、そこに売られている素材や装備類の確認をする。


「箱のアップグレード素材がある! でもまだアップグレードはできないね」

「箱のアップグレードには召使が必要なのか?」

「それは書いてないけど……素材がまだ足りないみたい」

「結構大変なんですね、アップグレードの素材集めって」


 ハァ……と一同大きなため息を吐いた。

 また森に入る予定もあるし、早めにアップグレードを済ませておきたいところ。

 次のワープポイントでも素材が売っていればいいのだが。


「ま、この地域のワープポイントを解放してたらきっと集まるよ」

「そうですね。ひとまず休みましょう」



 ◇


 

「ルーパルド、実際どうなの? 本、持ってるの?」


 イナトがお風呂へと入った隙に私はルーパルドへと尋ねた。

 水を飲んでいたルーパルドはむせ返り、何度も咳をする。


「ごほっ……リンまで何を言い出すんだ。ちょっと読んだだけだって」

「どんな感じだった?」

「簡単な説明だけだからな?」


 出会いから始まり、旅をしていくにつれ惹かれ合う2人。ちょっとしたハプニングやすれ違いがあった後、晴れて両想いになり大人が喜ぶシーンに突入するのだとルーパルドは教えてくれた。


 また、これはルーパルドも読んでないから人伝らしいが、イナトやルーパルド、ロク相手の小説と逆ハーレムの小説が存在しているのだそう。

 導入部分はほとんど一緒だが、それぞれ大人のシーンに明確な違いがあり、それがすごく好評なんだそうな。

 ルーパルドは自身が描かれているものを少し読んだが、自分っぽい別人に違和感が拭えずあまり読み進めなかったそうだ。

 

 ……かなり要約されていて、なにもわからない。

 私が不満そうな顔をしていたのか、ルーパルドは苦笑い。


「……初めてのキスは甘酸っぱいらしいよ。味わってみたくない?」

「え、何? 突然何を言ってるの?」


 突然そう口にしたルーパルド。私が素っ頓狂な声で返しても、ルーパルドは動じない。

 低く心地の良い声が鼓膜を揺らし、鋭い眼差しで私を見つめていた。

 ゆっくりと顔が近づいてきたところで私は恥ずかしさが勝ち目を瞑る。


「なぁんて、小説の中の俺のセリフですよ。驚い……痛って!」

「僕がいない間にルーパルドは何をしているんだろうな?」


 ルーパルドの頭にイナトの拳が降ってきた。

 頭さすりながらルーパルドはイナトを睨む。

 

「タイミングが悪すぎますよ団長」

「ごめんね、イナト。私がルーパルドに小説の内容を要約してもらってただけなんだよ」

「要約だけでなく、一部体験付き……ですか?」

「違う違う。それは俺が勝手に――」

「やはりルーパルドの悪ノリだったか」


 もう一度ルーパルドの頭にイナトの拳が降りかかる。

 避けも受け身もせず、真っ向から殴られるルーパルド。避けたりしたらさらに恐ろしいことが起こるのを知っているようだ。


「はぁ〜、これ以上頭が悪くなったら団長のせいですからね」

「知るか。お前はさっさと部屋に行ってろ」

「はいはい。わかりましたよ。では、おやすみなさい」


 さっさと部屋に行ってしまったルーパルド。

 しんと静まり返ったリビングにイナトと2人きり。


「そんなに小説の中身が気になるんですか?」


 私の隣の椅子に座り、イナトは私を見つめた。

 何故わざわざ近くに座るんだろうと思いつつ、私は答えた。

 

「……だって、皆が面白いって言ってたら気にならない?」

「ただ単に面白い物語ならよかったんですけどね。あの人に書かせると何故か皆、体験談だと思う傾向があるんです。読んだ者は口を揃えてこう言います。魔法をかけられたみたいだ、と」

「……それって大丈夫なやつ?」

「わかりません。本人は魔法を使えないと言い張りますし、実際魔力は一切ありません」

「でも、調べたほうが良くない?」

「僕もそう思ってはいるんですが、手がかりがないので探しようがないのです」

「そうなんだ……」


 万能なイナトさえ手も足も出ないのなら、私が加わったところで何も変わらないだろう。

 ミマの小説については今後話題を振らない方が良さそうだ。


「なら、ついでに調べられたらいいな程度で」

「そうしましょう。ちなみに、あの小説に登場する本人が読むと、ルーパルドのようになってしまう場合も判明していますのでお気をつけください」

「え、待って待って、今サラッと怖いこと言った!?」

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