33.勢いで書かれたものは面白い
まず町長に伝書局への立ち入りの許可をもらいに挨拶へ行く。
「こ、今度はなんですか……」
意気消沈の町長。
ルーパルドが言うには救世主を題材にした作品の販売に加担しており、儲けていたからなのだそう。
イナトに燃やすのは勘弁して欲しいと懇願もしていたようだが、あり得ないと一蹴されてしまったようだ。
「伝書局を調べさせて欲しいのです」
「伝書局……ですか?」
「はい。作者を探すための手掛かりがあるかもしれないので」
「作者まで探すのですか!?」
「ええ。作者に執筆を止めるよう言わないと、僕達がここを離れた隙に別の形で売られそうなので」
図星だったのだろう。町長は目を白黒させている。
この様子だと、町長は作者を知っているのかもしれない。だが、きっと何を言っても口を割ることはないだろう。
「な、なぜ……なぜそこまでなさるのですか」
「以前も申し上げましたが、救世主を題材にすること自体は咎めません。ですが、救世主を使って性的興奮を煽るような物は凌辱と同等、またはそれ以上の犯罪行為です」
「ただの創作物ですよ……?」
「そのただの創作物で、救世主様を侮辱した女がいたのはお話ししましたよね?」
「うう……」
今にも泣き出しそうな声を漏らす町長。まだ追い打ちをかけようとしているイナトを見て、咄嗟に腕を掴んで名前を呼ぶ。
「イナト、イナト! 落ち着いて」
「ですが……」
「私の分まで怒ってくれてありがとう。でも、しっかり線引きしてもらって、こっそり楽しむ分には許してあげてくれないかな?」
「僕にまた目を瞑れと?」
"また"と言われ、私とルーパルドはビクッとする。
咄嗟にロクを見たが、ロクは窓の外を眺めて聞いていないふりをしている。
イナトは私の肩に手を置き、少し屈み私に視線を合わせた。
「僕はリン様が心配なのです。あんな物語のせいで貴女の肩身が狭くなるのを僕は見たくないのです」
「それは、読んでみないとわからないし」
「……やはり読みたいのですか?」
「そ、そう言うわけじゃないけど! 中身も知らないのに悪だと決めつけて消し去るのは違うかなって……」
何故読みたいのかと一々聞いてくるんだ。
興味がないと言えば嘘になるが、自分の容姿をした主人公でしかも大人の女性向けのものなど恥ずかしくて読めたものではないというのに。
「まぁまぁ、そこは作者と話して決めましょうよ。大人向けのものを書かせなきゃいいだろうし」
「大人向けでなければと曖昧な了承をすれば、その隙をついてきますよ」
「ねぇ、イナト。もしかしてイナトも書かれた側だったり……」
「……思い出したくもありません」
深いため息を吐き、頭を押さえる。
イナトのそんな姿を見て、全面禁止が1番いいのかもしれないと悟った。
どれほどの女性が買い、楽しんだことやら……。
◇
なんとか伝書局への立ち入りを許可してもらい、今伝書局にある手紙の中身を確認した。
とは言っても、魔法で読まずとも確認できるため、まだマシだ。
救世主に関するものを探せと指示すれば、魔法はその関連のみを参照する。そしてまたその中から絞り込めばいいのだ。
ただ、この作業はイナトだけができる作業。
イナト、使える魔法が多すぎる。
「確認できました。救世主や僕達の絵を描いたのが王のいるゲムデース街の女。物語を作ったのはこの町にいる女ですね」
どうやら2人は文通友達のようで、いつも話の話題として絵や小説を送りあっていたようだ。
ある時、私達がゲムデース街に訪れた時に救世主の容姿を描いて送った。そこで救世主の話題で盛り上がり物語を作った。
最初こそ2人で楽しんでいたものだったが、次第に誰かに読んでもらいたいと思ってしまった。
実費で本にして近所の友達に配り、それが町長の目に留まり本格的に売り出すように。
娯楽が少ない町だったこともあり、すぐに広まり誰もが読むようになったのだと。
もちろん子供には読ませられない内容だが、ある程度の年齢の人であれば当たり前のように持っているらしい。
「凄まじい妄想力が発端かぁ……」
「それなら俺達の性格までは知らないのも無理はないな。俺はプレイボーイじゃないし」
「……え?」
「ルーパルド? まさかお前、本が手元にあるのか?」
その場の空気は凍りつき、ルーパルドは私とイナトから目を逸らし手をブンブンと振って否定した。
「い、いやいやいや! 燃やす前にちょっっっとだけ! 俺どんな風に書かれてんのかなぁと思ってほんのちょっと読んだだけですから!!」
手元に本なんてありません! と力強く言うルーパルド。
そんなルーパルドの姿を見て、ロクはほくそ笑んでいる。
「追求はしない。だが、もし持っているのだとしたら誰にも見られず処分しろ」
イナトは疲れてしまったのだろう。深いため息を吐いた。ルーパルドは助かったと言わんばかりの顔。
「何はともあれ、作者の検討はつきました。行きましょう」
伝書を伝書局の人に返し、イナトは局を出る。
迷いのない足取りで進んでいく姿は、まるで今から戦いにでもいくようだった。




