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乙女要素のある死にゲーに転移してしまった件〜帰還エンドのはずが、様子がおかしい〜  作者: 勿夏七
5章 水の町

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31.救世主の風評

 本屋でも奥まった場所で、少しピンク色が似合いそうな雰囲気。

 

 そう、ここはティーンズラブの小説や漫画が多く置いてある場所だった。

 女性が指差しているものは救世主ものの小説。

 どうやらこの町では救世主を主人公にした物語が人気らしい。

 

 救世主は女。そしてこの世界は男しか戦わないため、必然的に男が仲間となり一緒に旅に出るわけだ。

 救世主が1人で旅をしない限りではあるが。


「えーと……"救世主様と淫らな関係"、"愛され救世主は世界の男を虜にする"あとは、エッ――」

「もういいです口に出さないでください。なぜ救世主様は恥ずかしげもなく読み上げるのですか!」


 顔を真っ赤にしたイナトは私を見て首を横に振る。

 イナトは健全に育っているようだ。

 きっとまだ女の子と手を繋いだこともないタイプ。仕事が恋人タイプ。

 だが、反対にその隣では興味津々のルーパルドの姿があった。


「もしかしてアイツの彼女ってこれを読みたがってるのか!? そりゃあ、俺に頼めないわけだ」


 救世主と旅をしている男にこれを頼むのは確かに気が引けるだろう。

 そもそもイナトに見つかったら、冷ややかな眼差しを向けられるのはわかりきっているはずだ。


 ルーパルドは露出の高い男女が抱き合っている表紙の小説を1冊手に取りページをめくる。

 平気な顔をして読んでいるルーパルドをイナトは睨んでいる。だが、ルーパルドは気にせずページをめくっていく。

 挿絵も入っていたようでルーパルドは不意打ちの絵に「うおっ」と驚いた声を出す。

 なぜならルーパルドの背後で盗み見ていたロクがいるのを知っていたからだ。

 急いで閉じると同時に、イナトから本を没収される。


「ルーパルド、立ち読みはやめろ。人の趣味に口出すつもりはないが、これはダメだ」


 本を元あった場所に置き、ここまで連れてきた女性を見た。すると女性は勝ち誇ったように笑っている。

 何を見て勝ったと思っているのだろう。


「これは救世主をずっと追っている者が書いたと記されておりましたの。貴女の体験が書かれているということでしょう?」


 様々な書かれ方がされているようだが、内容は似たり寄ったりなのだそう。だからこそ誇張して書かれているだけと思い込んだり、少し面白くしようとフィクションを混ぜているのだと勘違いしているようだ。

 

「ええ? フィクションってどこかに書いてないんです?」

「書いてませんわ。だからこれはノンフィクションでしょう?」

「思考がぶっ飛んでるなぁ」

「これは完全にフィクションです。この地域は隔離されているのは理解してしますよね?」


 フィクションと書いてないだけでこうも信じてしまう人がいるのだなぁと感心している私に、何か言いたげなイナト。だが、私から目を逸らし女性に聞いた。

 女性は当たり前でしょうと言いたげに頷いた。

 

「だからこそ流行りの広まりが早いのよ」

「隔離されていると言うことは、外からの者は入れません。僕達はつい最近この地に訪れました。それなのに何故、救世主の体験談がすでに小説となって売られているのか? 何故わざわざこの隔離された町にこれらの作品を売ったのか? そもそも僕達をどう追って書いたのか? 不明点が多すぎます」

 

「それなら、きっと救世主本人が書いてるのよ。救世主が伝書紙をこの地域に送れば問題ないじゃない。誰かに代筆させてるのよ。隔離されてるから外部に漏れず、でも実態を自慢できる。そうでしょう?」

「いや、これ自慢になるの?」


 そもそもの話、性の話を自慢したいものかと言うところからだ。


「世間的に顔が整っていて地位がある者に惹かれるのは当然でしょう? 美形に迫られて困っちゃう。なんてよくある自慢ですわ」

「自慢したいからって自分でエッチな本にして世に出す?」

「貴女がそれを言うの?」


 女性の中で私はこの小説や漫画の救世主として写っているようだ。どれだけ違うと私が言っても無理に関連づけようとしてくる。

 いっそ中身を読んでしっかりと反論できた方がいいのではないかと思うほどだ。

 私は1番過激でなさそうな本を手に取ろうとした。

 だが、イナトが私の手の上に手を重ねて止めた。

 

「もういいです。救世主関連の本は全て没収いたします。犯人探しもしましょう。これは名誉毀損ですので」

「わ、わたくしの楽しみが――!」


 ちゃっかり楽しんでるのかよとその場にいた誰もが思ったことだろう。

 まぁ、こちらに難癖をつけてくる時点でしっかりと読んでいるのは確かだ。

 

 イナトは店の人に事情を説明した後、ルーパルドへ救世主に関する本を全て回収するように命じ、自分は町長に話してくると足早に本屋を出た。

 何も命じられていない私とロクは目を合わせて肩をすくめる。


「最初に大きな字でこれはフィクションですって書いとけば見逃してもらえたかもしれないのにね」

「書いてなくてもあの金髪男は許さないだろ」


 表紙の絵は私の特徴を捉えているものが多い。

 私の今の見た目に似た青寄りの黒髪。しっかりと毛先にグラデーションがかかっている。

 そしてくっついている男はイナトのような金髪碧目。まぁ、この見た目は王子様ポジションでよくいるタイプだからイナトだと決めつけるのは早計。

 他にも黒髪の男や赤茶髪の男。正直この辺の色や見た目はイナトと同じくよくある色だ。


「私のこと見て描いたかのような髪色なのが気になるなぁ」


 本当に外の人が伝書紙をここに飛ばしているのだろうか。

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