30. 流行りの娯楽小説
キラキラと輝く建物が見えてきたところで、イナトとルーパルドはそろそろ到着すると教えてくれた。
きっとあのキラキラは、光の反射で水が輝いて見えるのだろう。
「到着〜。涼しいね」
「ああ、涼しいな。それにしても、本当に水だらけだな。中央に噴水があって、所々に水路がある」
水路の水は澄んでいる。また、浅めの水路なので子供が落ちても溺れる心配はない。
むしろ喜んで水浴びのために入りたくなりそうだ。
「宝石は回収しておきますね。ここなら暑くないので」
ルーパルドは宝石を回収し、ポーチに仕舞い込む。
大切にしているところを見ると、高価なものなのだろう。私やロクがうっかり落とさないように注意しているのかもしれない。
「あら、外から人が来るなんて珍しい。ようこそおいでくださいました」
挨拶をしてくれたのは、よく日に焼けた肌を持つ女性だった。ここまで日差しが強いのだから、この町が涼しくても焼けるのは当たり前か。
「ゲムデース国から来ましたイナトです。町長は今いらっしゃいますか?」
「ああ、ゲムデースの! お話は伺っております。町長は今、執務室にいるかと」
スタート国のお城より小さいが、それと比べてもそこそこ大きな建物に案内された。
「執務室は右手側を真っ直ぐ進んでいただき、突き当たりの部屋です」
「ありがとうございます」
ここまで案内してくれた女性は、案内を終えた後お辞儀をして建物から出て行った。
早速案内された部屋へと赴き、イナトが扉をノックする。すぐに返事と共に扉が開いた。
扉を開けてくれたのは、少しぽっちゃりした体型の男性。
部屋にはその人しかいないことから、この人が町長なのだろう。
「お久しぶりです。イナト様、ルーパルド様」
私達を部屋へと招き入れ、ソファに座るよう促す。だが、ここにあるソファでは全員が座れそうもない。
イナトとルーパルドは私を座らせようとソファ近くで待機し、目で「座ってください」と訴える。
ここで断ったら2人や町長の人に悪いので私は座り、その隣にはロクが座る。
ルーパルドは「お前も座るのかよ」と言いたげな表情を浮かべている。だが、ソファから無理矢理立ロクをたせるわけにもいかずルーパルドは黙っていた。
「貴女様が救世主のリン様……でしょうか」
「はい。私が凛です」
「暑い中ご足労いただき誠にありがとうございます」
「これも救世主の役目ですので、お気になさらず」
私の返しに町長は再度「ありがとうございます」と頭を下げた。
「そして、貴方様がロク様ですね」
「……ああ」
コクリと頷き一言だけ。
町長はあまりにもあっさりとした紹介に戸惑った。だが、すぐに咳払いで誤魔化し、ワープポイントの場所を地図に記してくれた。
大方のワープポイントはイナトとルーパルドが把握しているそうだ。
しかし、やはりより正確なものがあるに越したことはない。
「これで全部です。更地ばかりの地域にまで来ていただき本当にありがとうございます。ぜひここで英気を養ってからご出立ください」
「お気遣い痛み入ります」
町長は自信満々に「ここにしかない食べ物や娯楽がありますよ」と和かに笑っていた。
本当は世に出したくて堪らないのがひしひしと伝わってくる。
別れの挨拶をして建物を出る。
ここにしかない物に興味のある私は、もちろん町をぶらりとするつもりだ。
「皆どうする? 私は町を見て回るけど、先に箱で休んでてもいいよ?」
「お供しますよ」
「俺も行きますよ。この町で流行ってるものに興味ありますし」
「俺も行く」
イナトはすかさず返事をし、続けてルーパルドとロクも頷いた。結構皆旅行感覚で楽しんでいるのかもしれない。
「じゃあ皆で行こっか」
――町を歩いていると、ひそひそと話している女性が複数。
誰も話しかけてはこないが、チラチラとこちらの様子を伺っていた。
イケメンだらけだから目立っているのだろうか。そう思っていたが、どちらかというと私が見られているような気がする。
理解できないまま近くにあったカフェに入ろうとしたところ、ドレスを纏っている女性が私を見ながら言った。
日傘を男性に持たせているためか、肌は焼けておらず白い。
「救世主だかなんだか知らないけど、男侍らせちゃって……あーやだやだ」
扇子で口元を隠しているが、笑っているのは目元で一目瞭然だった。
イナトが前に出て何か言い返そうとしたところで私は手で制した。
「この世界って女の人も戦うの?」
「いいえ、女性は戦いません。"女を戦いに出すのは恥"とされています」
イナトは即座に私の疑問に答えてくれた。
女戦士は1人もいない世界なのか……。1人くらい仲間になると思っていたんだけどな。
少し残念だ。
というのは今はまぁいいとして。
「イナト、ありがとう。……それでも貴女は私と一緒に戦ってくれるんですか?」
「その方のお話聞いてました? 戦うわけがないでしょ」
「じゃあ、男の人と一緒に旅するのは仕方ないと思うのですが」
「1人で旅をすればいいのではなくって?」
「それはそう」
「1人が嫌だなんてそんなワガママを……は? 今肯定しました?」
私が否定しなかったのに驚きを隠せない女性。
あと少しで扇子を落とすところだった。
気を取り直すようにコホンと咳払いをし、話を続ける。
「……どうせ夜もお世話になっているのでしょう? こんなに顔の綺麗な男ばかり揃えて」
夜も世話? 夜の世話はやはりあっちの話だろうか。真昼間からこの人は何を言い出すんだ。
ずっと黙って様子を見ているロクも「何言ってんだ?」みたいな顔で女性を見ている。
「先ほどから何を言っているのですか? 救世主は尊ぶべき存在ですよ?」
イナトは痺れを切らし口を出す。
「これ以上は救世主の存在を侮辱していると捉え、連行させていただきます」
「ち、違います。わたくしはこの女を救世主としてではなく、女として言っているのです」
「会ったこともない女がなぜリンの悪口を言うんだ?」
「それにはちゃんとした理由がありますわ!」
女性は本屋まで私達を連れて行き、とある本を指差した。
「こ、これは……!」




