19.便利道具は沢山欲しい
「ゆ、許してくれ! 俺たちはただ雇われただけなんだぁ」
おんおん男泣きする成人済みの男達。外傷はないようだが、何をそんなに怯えているのか。
聞いてみようとルーパルドとロクを見たが、目を逸らされて聞ける様子はない。
その中でただ1人、イナトだけスッキリした顔をしている。
男達を使って個人的なストレス発散でもしたのかと疑うレベルだ。
「イ、イナト……何したらそんなに怯えさせられるの?」
「知りたいですか? そうですね……傷を抉ってその傷を治してまた傷を抉ってと繰り返したり、夢魔の瓶を使って精神を――」
「団長!! リン様に恐ろしいこと教えないでください!」
「まだ一部なのに……」
「だから止めたんですよ! それ以上は説明しなくて良いです。ほら、団長のせいで震えてますよ」
体験した男達はいつの間にか涙を引っ込んでおり、青ざめた顔。ガタガタと身体を震わせている。
「あんな笑顔で尋問されたら怖いかもね」
「……そう言うことにしておけ」
ロクは冷ややかな目でイナトを見つつ私の言葉に頷いていた。
気を取り直して、男達の情報を聞くことにした。
全員お金がなく短期で大金を稼げる仕事を探していたとのこと。
全員面識はなく、ただ雇われた身なのだと言う。
「俺達は別に救世主が憎いわけじゃないんだ。でも、一度受けたらもう引き返せない。逆らったら殺すと言われていたんだ……」
リーダーと思われる男は脂汗をかき、震える声でそう言った。
雇い主も怖いが、今はイナトの方が上回っているのだろう。スラスラと情報を開示していく。
雇い主と出会ったのはスタート国のとある集落。
相手はフードを被っており、顔はマスクで覆われていた。声は変声機で変えており性別さえもわからないのだと言う。
唯一わかったのは、肌は青白く小枝のように痩せ細った腕だったということぐらい。
情報を吐いた男達をスタート国に引き渡そうと、イナトは伝書鳩ならぬ伝書紙を飛ばした。
紙飛行機のように飛んでいくのかと思えば、丁寧に折り畳まれた紙は空に浮いた途端姿を消した。
待つ暇もなく返事が届き「すぐ遣いを出す」と報せが届き、私達は偽物のワープポイントの近くで待機することになった。
ロクは男達を一瞥した後、コインを指で弾いて暇を潰していた。それを繰り返しながら誰に語るでもなく話し出す。
「スタート国は貧困の差が酷いからな。金を積まれると軽率に受けてしまう奴が多くいる」
「あんたもスタート国の人間なのか?」
「わからない。スタート国とゲムデース国の境目に捨てられていたらしいからな」
「捨て子、か。……まぁ、そうか。渡者は大半が捨て子だと聞くしな」
渡者は渡者を統括している人がいるらしい。
統括者自身の金儲けのためというのは勿論だが、生きる術を身につけさせてくれる。
そのため、住民からも拾われた子達からも批判は少ないのだとか。
自立するまではお金を何割か統括者に渡し、衣食住を提供してもらえる。
ちなみに、1人前になった後もずっと統括者の下で働く者もいるらしい。それだけ慕われる存在なのだろう。
「ロクは自立してるんだよね?」
「そうだ。統括者は基本自立を促している。だから残っているのは、独りが苦手なやつと後継者くらいだろうな」
渡者は自立すると主人を探すようになる。受けるのも断るのも自分次第だ。と言っても渡者の人権は低く、選択権がない場合の方が多いのだと――。
そんな話をしていたら、スタート国の騎士だろう人々が遠くから歩いてくるのが見えた。
ゲムデースとは違い軽装。鎧はあまり厚みを感じない。重い攻撃ですぐに壊れてしまいそうだ。
「お待たせしました。こちらの男達ですね?」
「はい。よろしくお願いします」
雇い主はわからないが、全員反逆罪として牢屋に入れられることになったそうだ。
雇い主が口封じのために刺客を用意する可能性も考え、人通りの多い場所に置いておくとスタート国の騎士は話す。
また、偽物のワープポイントは撤去しておくと言ってくれた。救世主以外に反応するかは分からないが、万が一もあるため安心だ。
引き渡しが済み、私達はまたワープポイントの解放へと足を進めた。
私を殺そうとした男達は全員汚れた服を着ていた。体も碌に洗えていないだろう汚れが染み付いており、痩せ細っていた。
「牢屋で食事は出る? お風呂入れたりするのかな?」
「最低限のことは可能ですけど……救世主様、まさかあの者達の心配を?」
「うん。そもそもお金があれば携わることもなかったんだしね」
お金は出ないが食べ物がもらえてお風呂にも入れる。それならきっとあの人達もゆっくり過ごせるはずだ。
しっかりと見張っているのなら殺される心配も少ないだろう。
「お金がなければ殺しをして良いわけでもないんですよ?」
「それはそうだけど、イナトのおかげでもう悪いことはしないだろうし、ね?」
イナトは私を見て大きくため息を吐いた。
その隣ではルーパルドが呆れ顔で私に言う。
「確かに悪いことはしなさそうですけど、救世主さまは人が良すぎますって。いつか後悔しますよ」
「その時はやり直すから大丈夫だよ。あと、私には頼もしい仲間が3人もいるし」
「俺もか?」
「うん、ロクもだよ。今後に期待してるからね」
「……貰った金額分は働こう」
まさか自分も含まれていると思わなかったロクは、フードを深く被り直した。照れているのかもしれない。
「日も沈んできましたし、次のワープポイントの解放が済んだら休みましょう」
イナトはランタンに火をつけた。
まだ火をつけるほどでもない気がしていたが、魔物避けの効果もあるのだと後から教えてもらった。
まだまだ私の知らない道具が沢山ありそうだ。




