17.新しい仲間
休憩を終わらせてまたワープポイントのために歩く。時々出会う魔物は弱く、あっさりと片付けてしまう。
その度落ちた素材を適当にポーチに入れる。
集めた素材で何か作れないかな〜と戦闘中でも余裕で考えていられるほどだ。
「……? なんか、視線が」
「視線、ですか?」
気付くのが遅くなったが、誰かに見られている目のマークが表示されていた。
私の発言でイナトとルーパルドが私を守るように囲んでくれる。
当たり前のように守ってくれる。なんて頼もしいのだろう。
警戒して辺りを見渡すが、誰の姿も見えない。ミニマップにも映っていないため、敵か味方かもわからない。
今は廃墟のど真ん中にいるので、誰かがここに身を潜めている可能性がある。
イナトも廃墟で倒れてたし……。
だが、ミニマップに何も表示されていないのは何故なのだろう。
静かな廃墟で突然壁に石がぶつかる音がして、跳ね返った小石がこちらに飛び散る。
それに視線を奪われている隙に、私は誰かに背後を取られた。
イナトやルーパルドは小石が私に当たらないよう前に出てくれたので、2人ではないのは確かだ。
「見つけた」
2人よりも低い声が背後から聞こえ、慌てて逃げようとしたが相手の腕が私の首に巻き付く。
抱きしめられているとポジティブに言いたいところだが、どう考えても首が締まっている。
気を失わない程度なのが救いだろうか。
「貴様、救世主様を離せ!」
「女性を人質にとるなんて卑怯だぞ!」
イナトとルーパルドは武器を構えたまま様子を伺う。
自力で抜け出せればよかったのだが、力が強く振り解くことはできそうもない。
「俺と死合え、救世主」
耳元で色気たっぷりの声でそんなことを言ってきたため、変な声を出しそうになった。
危なかった。
「た、戦いたいなら一旦離れてくれないかな!?」
「? お前が抜け出すところからでも良いだろう?」
「抜けられないから言ってるんですが!」
「……はぁ、拍子抜けだな」
そう言って少し腕の力を緩めた瞬間、私は腕を引き剥がしチュートリアルの時にもらっていた小瓶を投げつけた。
咄嗟に選んだものだったため中身は知らなかったが、痺れ薬だったようでビリビリと音を立てて男を襲った。
痛みに呻きながら地面に倒れ込んだ男。
全身真っ黒で暑そうなローブを羽織っている。
倒れた時にフードが取れたおかげで顔も良く見える。真っ黒の髪に黄色い目。
ローブを着ているが、先ほど私の首を絞める際に見えた腕の筋肉から、イナトやルーパルドよりも筋肉量が多そうだ。
……確かこの男も恋愛対象としていたはずだ。
まぁ、戦いのことを死合うと言う独特な言い回しをすることくらいしか覚えていないけれど。
「ずっとここで私達を待ってたわけ?」
「……悪いか」
ワープポイントの解放をして回っていると風の噂で聞いたらしく、私達の動向からここに来ると踏んで待っていたらしい。
私が顔を覗き込もうと近寄れば、男は目を背けバツの悪そうな声で言う。
イナトとルーパルドと比べると幼く見える顔だ。
「こらこら、さっきそいつに捕まったばっかでしょうが」
ルーパルドに手首を掴まれ強制的に距離を取らされる。
黒い男は私があまり強くないと知ってか、やる気をなくしているようだ。
「私はスピードと知恵で戦うタイプだから捕まったら終わりなんだよ」
「知るか。雑魚には違いないだろ」
「救世主様……あの男斬ってもいいですか」
「やめなよ。イナトを犯罪者にしたくないよ」
一応人間同士の戦争が起きていて、相手が敵国の人間であれば殺しても問題ないらしい。
だが、今は人間同士の戦争はなく……いやそもそも魔物退治で忙しいから、そんな暇もないだけなのかもしれないが。
「救世主の殺しの依頼でもされたのかな?」
「救世主は尊い存在ですよ!? 誰がそんな真似を……」
「頼まれた。殺したら大金がもらえると言われた」
ルーパルドにロープで縛られた男。抵抗する様子もなく、淡々と話す。
「私達と一緒に来ない? 雇い主の倍は払うし」
「よく殺そうとした奴にそんなこと言えるな」
「私が抵抗できないと分かった途端、力緩めてくれたでしょ?」
「俺は暗殺が好きじゃない。それだけだ」
「でも、私に小瓶を投げられる前にきっと殺せたでしょ」
そう言えば、一瞬目を見開いた。図星なのだろう。本当は殺したくなかった。でも、救世主とは戦ってみたかった……と言ったところだろうか。
ロープに縛られたまま男は黙った。
その後、大きなため息を吐き私を見る。
「お前らと一緒に行く」
「よかった!」
イナトとルーパルドはとても不服そうだった。
当たり前と言えば当たり前だ。
でもどうにか2人を丸め込み、新しい男がパーティーに加わったのだった。
「名前は?」
「……ロク」
18歳でこれまでずっと1人で死合いを繰り返していたらしい。
暗殺のスキルを持っていることもあり、回避スキルを持っている私でも背後を容易に取れたわけだ。
ルーパルドにお願いしてロクのロープを解いてもらった。
ロクはお礼も言わずフードを被り直す。
あまり顔を見られたくないのだろうか。
「これ、渡しとく」
「ん? 何これ」
「今は仮にはなるが、主人の証だ」
「お前、渡者だったのか」
「今の主人も証を持ってるから行ってくる」
返事も待たずにロクはワープポイントとは逆方向へと走り出す。
「ええ、行っちゃったよ……」
「依頼した奴が恐らく今の主人でしょうね。その後始末かと思います」
「物騒だなぁ……」
さぁ、行きましょうと歩き始めた2人を慌てて私は引き止める。
「待ってよ! まだ帰って来てないんだよ?」
「それを持ってる限り主人となり、主人の居場所もわかるようになってるんですよ。だから大丈夫」
渡者は帰る場所を持たず、主人を時々によって替える人のことを指すらしい。仕える人間を替える時はそれぞれの処理の仕方があるのだとか。
ルーパルドの説明に感心していた私だったが、隣で「帰ってこなくて良いのに」と言いたげなイナトの表情が気になってしょうがなかった。




