141.透明ローブ
今日はメカクレオンの素材を使って透明マントのようなものを作る予定だ。
ような――と言ったのは、実際作れるものはまだわかっていないから。
合成台の前に立ち、メニューを開く。【???】ではあるが、メカクレオンを使った素材を絞り込んでみる。
すぐに見つけられた。皮を布と縫い合わせ、作る方法だ。糸や布は好きな色で市販のもので良いみたいだ。簡単そうでよかった。
「魔法ミシンを使いましょう」
イナトに言われ、ショップを開く。そこに魔法ミシンも売っており、すぐに購入。
合成台の上へとどこからともなく現れた。便利だ。
必要な素材をミシン台に置く。そして電源スイッチを押すとひとりでに布と皮を糸で縫い合わせてくれる。
出来上がったのはフード付きの透明ローブ。布は黒にしたので、外側は黒、内側はメカクレオンの緑色だ。裏表逆にしていたらかなり目立つローブになっていただろう。
完成した透明ローブの説明欄には、フードを被ると姿を消せると書いてあった。ローブを着ただけでは消えないようだ。
鏡がある場所へと立ち、まずはローブだけ羽織る。姿は消えず、黒いローブを羽織った私が写っている。
それを確認した後、フードを被る。すると、その瞬間に鏡から私の姿が消えた。
「皆も見えてない?」
「ああ、気配はするが見えないな」
「同じく。多分これ、渡者みたいなタイプだったら感覚で刺される可能性ありません?」
「どの程度気配に敏感なのかにもよりそうですね」
試しにロクの背後に立ってみると、すぐにロクは私の頭を軽く叩いた。あまりにも自然に触ってくるので、本当に見えていないのか不安になるほどだ。
「……見えてないんだよね?」
「ああ、見えて"は"ないぞ」
私の頭を撫でるロク。イナトとルーパルドは、気配はわかるがどこにいるかまではわからないらしい。魔族もその程度しか見えないのであれば問題はなさそうだ。
「これを人数分作ればいいってことだね」
ロクの手を払い除け、私はフードを脱いだ。すぐに魔法ミシンで全員分を作り、念の為性能を確認する。
「おや? ローブを着ている者同士なら視認できるみたいですね?」
ルーパルドとロクどちらも見えている状態なのだろうか。私はローブを脱いでしまっているので誰も見えていない。
「それは便利だね! 私ももう1回着てみよ。あれ? 私は見えないんだけど」
「え――?」
よくよく調べると、私だけ別のメカクレオンの皮だったらしい。説明を読む限り、同じ皮を使っていれば見えるのだが、別となると成分が微妙に違うため見えない仕様なのだとか。
「サイズ合わせて作っちゃったから交換は難しいね」
「俺ならギリギリ入らないか?」
どう見ても肩幅が合わない。多分ロクが私用に作ったローブを着たら、肩がキツキツだろう。
丈はまあ、短くてもフードさえ被ればいいのだが。肩幅だけはどうしようもない。
「いやいや、そもそも皮まだ余ってるだろうしそれで作り直せば……」
「もう救世主様の使った皮しかないですね」
「じゃあ1人だけ私と同じ皮で作る?」
3人同時に「俺(僕)が」と言葉を重ねる。まあそうなりますよね。
私が1人決めた方がいいのだろうが、ぶっちゃけ誰でも良い。というかそもそも私だけ見えなくても弊害はあまりないように思う。
即死道具を持っているし、魔族には過去の救世主だからと笑顔で迎えてくれるかもしれない。どの程度仲が良かったのかは知らないが、敵対はしていなかったように見えた。
「まあ、私が見えなくても問題はないか……」
「なぜそのような結果に落ち着いてしまったんですか!?」
「むしろ困るのは俺達なんですよ! 救世主さまが見えないなんて、気が気じゃないんですよ!」
「そう言われてもなぁ」
ただ1人、ロクは気配でわかるので困っていなさそうだ。イナトとルーパルドの姿を見て薄く笑っている。確かにロクは私の気配で場所もある程度特定できる。それならロクは除外しても良さそうだ。
「なら、ロクは問題なさそうだから2人の中から決めようね」
「え」
「そうしましょう。お前は気配でわかるもんな」
そうルーパルドに肩を叩かれた瞬間、珍しく顔の歪むロク。実際に顔が青いわけではないが、顔を真っ青にする絵文字が似合いそうだ。
「ならこいつでいいだろ。こいつといると救世主様、救世主様うるさいんだ」
イナトを指差しそう言うロク。ルーパルドなら絶対に言えないような言い方だ。指を差されたイナトは、少々驚いた顔をしたが笑顔で言葉を返す。
「悪口のような言い方だが、推薦ありがとうロク」
「悪口だが?」
悪口じゃなかったらなんなんだ? と言いたげに眉間に皺を寄せた。ロクは怖いもの無しだな。
「ま、決まったんならさっさと作って行きましょ。決め方に納得はいきませんが、これに時間取られるのもあれですし」
ルーパルドは私の背中を軽く押し、合成台へと急かす。
「……それもそうだな。先程は救世主様にすべて作っていただきましたが、今回は僕がやりますよ」
やる気満々のイナト。それに対して私は突っ込まずにはいられなかった。
「素材置いて、スイッチ押すだけだけどね」