135.早期卒業
「ただいま戻りました」
「2人とも、お疲れ様」
疲労感たっぷりのナルを連れてイナトが帰ってきた。
イナトは特に怪我もない。むしろナルとは違い何故か生き生きとしている。
生きて帰ってきてくれただけで嬉しいと思っていたが、まさかこうも元気に帰ってくるとは思いもしなかった。
「救世主様が選んでくれた料理と道具、すごいですね。おかげで加減を間違えました」
「ん? 加減?」
ナルが疲れ切っている理由はもしかしてイナトのせいなのだろうか。
そう思いながらイナトから話を聞いたところ、魔族と鉢合わせたが圧勝。料理と道具の力で赤子の手をひねるかのようだったらしい。
ナルは魔族と合わないようにと動いていたそうだが、イナトには身体能力を底上げする料理を食べさせていた。それによりイナトは魔族を容易に見つけてしまったのだそうだ。
そのあとはナルを放って4,5人の魔族をあっさりと倒してしまうほどの力を発揮したとか。
マリエの料理、すごすぎないか。
「それはマリエの料理のおかげだね」
「そんなご謙遜を。料理の能力はもちろんですが、料理を選んでくれたのは救世主様です。道具についてもそうではありませんか」
イナトは尊敬の眼差しで私を見つめている。また、イナトは私が料理や道具を用意したのは、自身への愛情だと勘違いしているよう。かなり嬉しそうだ。
「だーんちょっ。救世主さまを見つめていたいのはわかりますけど、魔族の話をもう少し詳しく聞いても?」
私を見つめていたイナトの目の前で手を振るルーパルド。ハッとしたイナトは私から視線を外し、咳払いをする。
「……ああ、そうだな。魔族は全部で5人。ナルの存在を疎ましく思っているらしく、僕を無視してナルを殺そうとしていた。理由は聞き出せなかった」
聞き出すつもりでいたが、力加減を間違え気絶させてしまったらしい。後で話を聞くことにして、今はゲムデースの地下牢に閉じ込めていると。
もちろん魔法を使えないようにしており、壁抜けなども無効になっている牢だという。そのくらいしないときっと魔族は逃げ出してしまうだろう。
「狙われる理由、ナルは何かわかる?」
「僕が死に戻りの記憶保持できるからじゃないの? あとは別に普通の人と同じだと思うんだけど」
ナルは自分が狙われる理由はわからない。と眉を顰めた。
私の推測ではあるが、騎士学校を早期卒業できてしまうほどの腕前。魔力量も高いと聞いている。それだけ強い人物となれば、正式に救世主側に付いてしまう前に排除したいのでは? と考えてみたりした。まあ、相手がナルの実力を知っているかは定かではないのだが。
「魔族の話を聞くために、またゲムデースに戻るの?」
「いえ、当分は気絶したままかと思います。なのでワープポイントの解放を進めましょう」
どんだけやりすぎたんだ。そう思ったが、心の中で留めておくことにする。
へとへとなナルにお風呂を勧めてその間に食事の準備。
お祝いも兼ねてナルと食事をして、今日のところは箱で休むことに。
ナルは1週間ほど休んだあと、ゲムデースの巡回仕事に就く予定らしい。
ナルとしてはすぐにでも救世主の旅に加わりたいそうだ。しかし、イナトはナルを旅に連れていくつもりは毛頭ないと言う。
不服そうだったが、ナルはイナトに頭が上がらない。大人しく仕事をするようだ。
「ナルはどうしてそんなに私達と旅がしたいの?」
「同じ体質が近くにいた方が安心しない?」
「あー、わかる気がする。死に戻る前の話もわかるしね」
それじゃあ……と言いかけたところでイナトに首を横に振られ、ナルは唇を尖らせた。
「なんで頑なに連れてってくれないわけ?」
「子供を危険な旅に連れて行きたくないからだ」
「じゃああの渡者は? あいつだって僕とそんなに変わらないだろ」
「あれは特殊な訓練を受けているからだ」
渡者について知っている限りのことを話すイナト。それを納得いかない様子で聞いているナル。その姿を気にせず食事を楽しんでいるルーパルド。
面白い空間だなぁと様子を見ながらお茶を飲んでいる私。
「渡者の話なら俺がしよう」
ロクは突然ナルの側に現れた。風邪は治ったのか、顔色はよく見えた。
背後を取られたナルはギョッとした顔をしたがすぐに「驚いてない」とでも言いたげにロクを見上げた。
すでに食事を済ませているナルを連れて、自分の部屋へと連れて行こうとするロク。
だが、ナルは足を止めて抗う。
「いや、ここですればいいだろ。なんで部屋なの?」
「刺激的な内容が含まれるからな。リンには聞かせるなと言われている」
誰にと聞かずともわかる。きっと過保護なイナトだろう。ナルも察したようで、イナトを見た。
おそらくメカクレオンの時に私のグロ耐性があまりなかったことから、避けてくれているのだろう。
言葉だけなら問題ないとは思うのだが、今のロクなら私が聞く必要のない話もしそうだ。
ロクに連れて行かれたナルを見届けたあと、ルーパルドはイナトに質問する。
「……本当のところ、ナルを連れて行かない理由ってなんですか?」
「それなんだが」
イナトは少し躊躇いがちに口を開いた。




