130.勇者の剣
箱へと入りオジーは辺りをキョロキョロ。もう恒例のようなものだ。
「俺の時はこんなものなかったなぁ」
足元の草や土を触ってみたり、空をじっくりと眺めてみたり。オジーは興味深そうに眺めている。
「白い箱は召使さんにもらいましたよ」
「召使? 俺も救世主と一緒に旅をしていたが、召使を名乗る人はいなかったな」
どうやら過去は不便を強いられていたようだ。マップも紙のものしかない。
また、洞窟はオジー達が神殿へと固定してくれていたらしい。かなり大変だっただろうにありがたいことだ。
オジーは気が済んだのか、景観から目を離しルーパルドを見た。
「それで? ここにその勇者の剣を見せたい人がいるのかい?」
「呼びに行きますので鍛冶場で待っててください」
ルーパルドは足早にクロノダの部屋に通じている扉を叩き、クロノダを呼んだ。返事はあったがすぐに出て来ず。
クロノダはまだ寝ていたようで大あくびをしながら扉から現れた。
おもむろにオジーを見てクロノダは指を差し、ルーパルドに問いかけた。
「このおっさんが500年前の勇者なのか?」
「おっさんって言わないでください。オジー様って呼んでも良いレベルの人ですよ!?」
「ははは……そこまで堅苦しくしなくていいよ。それで、君が勇者の剣を見たがっていたんだね?」
「ああ、そうだが……。なるほど、確かに本物っぽいな」
触って良いか許可を貰いクロノダは早速剣をくまなく調べる。オジーはそんなクロノダを見て「職人さんって感じだね」とクロノダをじっくりと眺めている。
気が済んだクロノダは剣をオジーへと返し、すぐに飾ってあった模造品の勇者の剣を手に取った。
「勇者の剣っつっても、偽物ほど高級な素材をほとんど使ってないんだな」
模造品の方が使っている素材が高価。オジーの剣は見た目こそ上品な作りだ。高級品と並べても見劣りしない。
しかし使っているのはどこにでも売っている鉄だと言う。
とは言ったものの、真似できない素材が1つ。黒スライムが誤飲して吐き出した超高純度鉄――。
「また黒スライム!?」
スライムならなんでも体内に取り込み溶かしてしまえると思っていたのだが、そうでもないらしい。
あまりにも鉄の純度が高いと個体によっては不快に感じ、吐き出してしまうのだとか。加えてその個体もかなり低確率らしい。
「わかるよその気持ち。黒スライムは救世主の旅でよく見かけるからね。うんざりしてくるよね」
クロノダ以外はうんうんと頷いている。
「いや、そもそも黒スライム自体かなり貴重なんだが……」
「救世主専用の洞窟にいっぱいいるんですよ」
一応クロノダへ簡単に説明をすると、少し嫌そうな表情を見せた。流石に黒スライムだらけの洞窟は不気味だと思ったのだろう。
「なあ、勇者の剣を元に救世主用の剣を作っても良いか?」
「黒スライム取ってこいって?」
作りたくなってきたクロノダは、落ち着かない様子でそうオジーに問いかける。しかしイナトがすかさず素材について言及。
「それは別ので代用する。それで、勇者さんはどうだ? 真似して作ってもいいか?」
「もちろんそれは構わないよ。そもそも、すでにかなりの模造品が存在しているし今更だしね」
快諾したオジー。クロノダはそれもそうかと納得しつつ、素材の入っている箱を指差した。
「ここにある素材は使って良いんだろ?」
「はい。何を使っても良いですよ。足りなければ出来る限り集めてきます」
私がそう言えば、満足そうにクロノダは「よし」と頷く。どのようなものを作る予定なのかは知らないが、私の武器が強くなることは喜ばしいことだ。
「ん。それならリンが持ちやすいよう軽めにしよう。持ち手は後で粘土を握ってもらって確認する」
お尻ポケットに入れていたのであろう、くしゃくしゃの紙にペンを走らせるクロノダ。
書き終わったあとは準備をしてくると扉から自身の部屋へと戻っていってしまった。
それを見届けたオジーは片手で持っていた勇者の剣を腰に差し直して言う。
「さて、俺はもうお役御免かな」
「もう行ってしまうんですか?」
「うん。老いぼれの力なんて必要ないだろう?」
ルーパルドは家族を失っているからか、血縁関係のあるオジーと別れるのが少し寂しいようだ。だが、オジーは止まるつもりはない。
「俺はこれからも独り身で自由に生きていくよ」
嫁も子もいらない。これからも死ぬまで好きに生きる! とオジーは笑顔で言った。
「結婚してなかったんですね」
「そんな暇はないよ。俺はいつでも旅で忙しいんだからね」
「結婚して落ち着こうとは思わないんですか?」
「今更嫁さん探しって言ってもね〜。もう良い歳のおじさんだし」
顎髭を触りながら考えるオジーと目が合う。
「君の婿候補にでも立候補しておこうかな」
オジーは「考えておいてね〜」と軽く言った後、勇者の剣で次元を裂き箱から自ら出ていってしまった。
「すご! 今の見た? 空間裂いて出ていったよ!?」
「いや、それよりもまずあいつの告白について何かしら反応するところじゃないのか」
ロクはやっと喋ったかと思えば、私があえて触れていなかった話にツッコミを入れた。