120.1人旅はすぐ終わる
細い廊下のような場所をやっと抜け、広間に出た。とは言ってもここもずっと石で囲まれており、見栄えはしない。
見える範囲では次に進む道は見えない。
また、ミニマップには相変わらず敵も宝箱もない。ギミックさえもない。
見えないだけで壁に仕掛けでもあるのだろうか。
マップで確認したところ、場所としては無人島の石造建築物の中のようだ。ここは探索しても何もないフェイクの場所なのだろうか。それともヒスイと出会うためのイベント場所だったのだろうか。
「話し相手がいないと暇だなぁ。ゲームなら別に困らないのに」
隠し部屋を見つけられる可能性を考え、鞘に入れたまま剣で壁を叩きながら歩く。今のところヒットはない。今の自分は、子供が柵に枝をひたすらぶつけているようにも見えるのではないかと思う。
歩いて1時間くらいは経っただろうか。部屋を1周する前に壁の一部が消え、道ができた。
「やっと次に進めそう」
その道へと進むと、先ほどとは違う石で囲まれた細い道だった。レンガを綺麗に積んで作られたような感じだ。先ほどまでいた場所の石は形も不揃いだったこともあり、新鮮だ。
と言っても、また一方通行。見た目は違えど似た場所ばかりで疲れてきた。
「救世主様!」
「あ、イナト――」
私を見つけた瞬間、イナトはかなりのスピードで走ってきて私を抱きしめた。いつも落ち着いているイナトとは大違いだ。
良かった良かったと何度も言い、ずっと抱きしめているイナト。感動の再会かもしれないが、鎧が顔にめり込むので離してほしい。
「イナト、鎧が痛い」
「し、失礼しました。感動のあまり、つい」
我に返ったイナトは体を離し、照れる。少し離れていただけというのにこの男はどこまでも心配性だ。
「救世主さまが消えた瞬間、団長大慌てでしたよ。でも、救世主さまが手紙で教えてくれたから、このくらいのテンションで済んだんですよね」
私が書いた内容としては、私は無事というのと、地図を見たところ石造建築物の地下にいるっぽいと書いたのだ。それをまず見つけたのはロクだったそうだ。その時、イナトは顔を顰め「なぜロクにだけ送ったんだ」と悔しい気持ちだったらしい。ルーパルドから見たイナトが。という話ではあるのだが。
ロクは私に謝罪をしたあと、すぐに切り替えて興味津々に私へと尋ねた。
「それで、ここで何か見つけたか?」
「何もないよ。でも、ヒスイとは会った」
最初に白状しておこうと、ヒスイに毒薬を飲まされ何度か死んだことを明かした。イナトは気絶しそうな勢いで顔を真っ青にした。しかし、私があまりにもけろりとしていたおかげか、イナトはなんとか持ち堪えていた。
「毒薬飲まされて殺されたって……普通そんな軽く言えないでしょ。救世主さま、メンタル強すぎませんか?」
「毒は不味かっただけど、別に痛みも苦しみもないし、気にならなかったなぁ」
「お前は渡者の素質があるかもしれない」
「やめろ勧誘するな。……もうこの建物から出ましょう。大体の部屋は僕達が調べました。ですが、さほど良いものはありませんでしたので」
ここにはボスがいたそうだ。だが、一度戦ったことのあるメカクレオン。そのため対処はすぐでき、苦戦することはなかったのだと話す。
宝箱も数個見つけたが、埃を被った古い魔導書や毒についての本、回復薬など。本については今はどこにでも売られているような内容しか書かれていないらしく、貴重なものでもなかった。ただ、マニアには高く売れるかもしれないとロクが言ったとか。
「売る?」
「僕達には必要ありませんしね……。ネェオさんに買い取ってもらえるか聞いてみましょうか」
この場所から出られたら、イナトはゲムデースへと瞬時に帰れる道具を久々に使うようだ。それだけ一刻も早くこの島から出たいのだろう。
「ボス以外の魔物っていた?」
「いや、それが全然なんですよ。ただ、珍しく渡者が好都合だ。て言ってました」
私がどこかに行ってしまったこともあってか、責任を感じていたのだろう。自分の戦いを優先せず、私を一生懸命探していたと言われると嬉しくないわけがない。
「ありがとうね、ロク」
「いや、そもそもの話、俺がもっと注意していればよかったんだ」
「それはそうだ」
間髪入れずにイナトはロクの言葉に頷いた。ロクはちょっとだけムッとしたが、事実だからだろう。特に何もいうことはなかった。
イナトは私の隣を歩きながら、優しい声色で言う。
「外に出たらすぐに箱で休みましょうね。長時間拘束され疲れているでしょう?」
「死に戻ってるからかな? あんまり疲れてないよ」
「それでも休みましょうね。このままだと団長が倒れますよ」
ルーパルドはひそひそと私に耳打ちをした。確かにかなり慌てたとあればいつもより精神的に疲れてしまっているだろう。
「今日は私の食事当番だから、疲労回復にいい食事を考えておくよ」
イナトに向かってそう言えば、イナトは嬉しそうに「はい」と元気よく返事をしてくれた。
時々年相応というか、子供の様だというか、可愛い一面があるなぁと改めて思ったりしたのだった。