119.毒殺
数えていないので何度殺されたのかわからないが、これだけは言える。
ヒスイはナルと同じく、死に戻りを覚えている。
種族的なものなのか、ヒスイとナルが特別なのか不明だが、意外と覚えている人はいるもんだな。感心している場合ではないのは百も承知なのだけれども。
「やはり呪いでは死ねないのですね」
全く効き目のない姿を見て、ヒスイはそう口にした。小瓶に詰められている黒い霧。呪いの形も色々あるようだ。
「やばいな。このままじゃナルに死亡回数公開されちゃう」
使われた毒を数えていると、ふと思い出したのはナルがイナトに死亡回数を報告すると言っていた話。どのタイミングで報告をするのかはわからないが、早くここから出ないと何を言われるかわかったもんじゃない。まあ、私が死にたくて死んでいるわけでもないので、今回も許してもらえるとは思うのだが。
「ナル? あの少年は元気ですか?」
「答えたら逃がしてくれますか?」
「……そうですね。場所も教えていただければ考えます」
「その前に、何しに会いに行くのか聞いても?」
そう聞くと、ヒスイは「別に構いません」と言ってから語り始めた。
ナルとの出会いはネェオの店。せっせと店に貢献している姿が印象的。もちろんそれだけではない。ナルはヒスイと同じものを感じたのだと言う。
何を感じ取ったのかまでは教えてくれなかったが、今私が知っているだけの情報でいけば死に戻りを覚えていることくらいだ。
だが、それを感じ取れるものかはわからない。正直私は全然感じ取れない。
なお、ナルに会って話をして、同族であるかの確認や他にも積もる話があるのだとヒスイは言った。
ナルを傷つけたりしないことを条件に私は場所を教えた。「するわけないじゃないですか」とニコニコと笑顔で言われたが、ちょっと胡散臭い。
だが、ナルは魔法の力であれば卒業してしまえるほどの実力だと聞いた。ヒスイがどれほどの実力かは知らないが、簡単にやられることもないだろう。
「もし面会を断られたら諦めてくださいね」
「いいでしょう。そこまで私も礼を欠くことはしたくありませんしね」
ヒスイはすぐさま檻を消してくれ、私は自由になった。何度も死に戻っている身としては、助かったと言っていいのかは微妙だがあえて言おう。助かった。
苦しくない方法で殺されたこともあって、私は毒にトラウマが〜とかそういうのは一切ない。むしろその毒の入手方法や作成方法が知りたいところだ。
しかし、ヒスイは貰いものなので知りませんと言い淀むこともなく話した。その様子からして、本当に知らなさそうだった。
「救世主が解呪できるとか、呪いで死なないとかその情報はどこから?」
「あの方が教えてくれました。貰った毒についてもそうです。しかし、貴女には教えられませんよ」
ヒスイにあの方と呼ばれている人が黒幕なのかもしれない。ヒスイのように死に戻りの記憶があるのなら、私を殺して何かしら利益を得ている可能性は十分ある。
だが、同じ時間帯に頻繁に死ぬ必要はあるのだろうか。
「なんで何回も私を殺す必要があるんですか?」
「それも知らないのですね。貴女にその理由が伝わっていないのであれば、私も教えられません」
死に戻りについて、誰が1番詳しいのか。考えなくてもまず浮かび上がるのが神だ。だが、神は何度死んだか。と聞いてきただけで、死を重ねた場合については何も話してくれなかった。もし私が説明を求めたら、話してくれたのだろうか。
「貴女は本当に何も知らないのですね。まあ、私には関係ありませんが」
ヒスイはそう言ったあと、その場から姿を消してしまった。棚さえも消えてしまい、毒を持ち帰ることもできない。
痛みも苦しみもなく、眠るように死ねた毒が何個かあったはずなのに残念だ。
だが、そういう毒があることはわかった。ただ、かなり不味かった。もし手に入れたとしても、何か飲み物に混ぜるのが1番だろう。
「さて、まず通信機で――て圏外とかあるんだこれ」
無事であることを伝えようと思ったが、通話もチャットも送信できなかった。地下だからなのか、この場所が通信を阻害しているのか……。どちらにせよここから脱出する他ないだろう。
久々……いや、ほとんど初めての1人探索。ちょっとわくわくする。
◇
「壁も床も天井も全部石……」
ずっと歩いているが景色は変わらず。廊下のように細い道をひたすら歩いている。同じ場所を回っているのではないかと思うほどだ。このままではノイローゼになってしまう。
この場所自体を破壊するのが1番手っ取り早いとは思うのだが、自分が下敷きになっては意味がない。
一度その場に座り、休憩を挟むことにした。
マップを開いてイナト達がいる場所を確認する。今も動いているようで、もう1つの謎のマークの場所にいた。早く元気な姿を見せなければと思う反面、1人探索で強い敵出てこないかななんてことを考えてしまう。これでは死合いたいロクと一緒だ。
「そうだ。誰かの持ち物ポーチに手紙を私が直接入れ込めば、通信機なくてもいけたりしないかな?」
プライバシーも何もない救世主特権だ。早速手紙を書いて3人に同じ内容を送ろう。誰か1人は気づいてくれるだろう。
そう思いつつ、私は手早く手紙を書き3人のポーチに手紙を忍ばせた。