106.煽りの理由
学校の先生に断りを入れ、学校内へ。
広々とした廊下を歩き、中庭では生徒達が練習用の剣を振っていたり談笑をしていたり。
ベンチに座って本を読んでいる生徒もいる。
だが、イナトやルーパルドを見てざわつく生徒達。
無理もないだろう。なんせ2人はこの騎士学校の卒業生なのだから。
遠巻きに見ている生徒達を無視してナルのいる寮に到着。イナトが扉をノックしてナルを呼ぶ。
すると中からドタバタと音がした後、勢いよく扉が開かれた。
「ちょっと、来るなら事前に言っといてよね……!」
隙間から部屋が見える。少し散らかっているが、度を超えるものではなさそうだ。
私がイナトの後ろから覗いていたのに気付いたナルは、目を瞬かせた。
「なんでリンさんまで?」
「ネェオさんのお届けものを渡しに来たんだよ。顔見たかったし」
ナルは私とイナト以外にも人がいることに気づき、大きなため息を吐いた。
「あのオネェか……。それで、荷物って何?」
「ああ、これ。何が入ってるのかは知らないよ」
そう言いつつ紙袋を手渡すと、その場で中身の確認を始めたナル。入っていたのは財布とメガネだった。
財布にはしっかりと中身が入っているようで、ナルは眉をひそめた。
手紙も入っていたようで取り出し、封を開け手紙に目を通す。ナルは内容に嘲笑した。
「あの人、なんで僕の目が悪いことに気付いてるの?」
「そこそこ一緒にいたんだし、見てたんだろ。てか、お前目が悪かったのか?」
「メガネを掛けるほどではないけどね」
ナルはメガネをかけなくても支障がないほど。だが、時々目を細めて確認することがあったらしい。きっとその姿をネェオに見られていたのだろう。
紙袋に取り出した荷物を全て戻し「ありがとう」と一言呟いて扉を閉めようとする。しかしイナトは閉まる前に扉を掴んだ。
「……他に何か用?」
「他の生徒を煽っていると聞いたが、事実か?」
「それは、途中入学だからって僕をバカにしてきたからだよ。仕返し」
仕返ししたら悪いのかと、ナルは不機嫌そうにイナトを見た。だが、イナトもルーパルドは「へえ」とむしろ感心するかのように頷いた。
「なるほど。それなら叱らなくてもいいんじゃないですか? 舐められるよりマシですし」
「正直なところ、面と向かって煽っても良いとは言い難いが……やられっぱなしよりかは、な」
ルーパルドもイナトも仕返しには肯定的だった。
どうやらイナトもルーパルドも入学当初は舐められていたと言う。
まあ、イナトは見た目だけだと舐められやすそうな細身で、美形。第二王子ということもあり、本気で騎士を目指していると思われていなかった可能性もある。
ルーパルドに関しては、チャラそうな見た目で"騎士になったらモテる"という話を聞いて来たように見えたのだろう。
実際それで騎士学校に入学して痛い目にあった生徒もいるほどらしい。
「ただ、必要以上に煽るなよ? やりすぎるとお前が不利になるからな」
「わかったよ」
イナトにそう言われ、ナルはつまらなさそうな表情をした。煽ること自体楽しんでいたのかもしれない。
「無視すると良い。そう言う奴は構ってやると喜ぶぞ。無視すれば勝手に怒って自滅するしな」
それはそれで面白いぞ。とロクは少しだけ口角を上げた。ナルはその言葉に「なるほど」と頷き不敵な笑みを浮かべた。きっと次に試してみようと思っているのだろう。
「もういい?」
「ああ、時間を取らせた」
イナトが許可を出した途端、ナルはすぐに扉を閉めてしまった。
「コミニュケーション能力も身につけてくれるといいんだが……」
「強制でペアとか組まされる科目もありますし、どうにかなるんじゃないんですかねぇ」
「だといいんだが――」
◇
校門を出ると、クロノダが立っていた。生徒達がクロノダに鍛え方を教えてもらっていたようだが、私達を見つけクロノダは会話を終わらせた。
残念そうに見つめている生徒達を見向きもせず、クロノダはこちらに歩いて来た。
「なあ、お前らスミスに荷物を届けてほしいって頼まれてたよな?」
「そうだが……それがどうした?」
「俺も連れていってくれないか? あいつと久々に話をしたいからな」
話を聞いたところ、スミスはカジ村出身でクロノダと仲良くしていたらしい。だが、求人を見つけファースト街に引っ越したのだそう。
「それは構わないが、帰る時どうするんだ?」
ファースト街はスタート国にあり、カジ村はゲムデース国にある。
となると国を跨ぐ。そのためもし私達と別れた後にカジ村へと帰る場合、面倒な検問を受けることになるわけだ。
もちろん私達と一緒にまたゲムデースへ戻るのなら別だが。
「あまりカジ村には近づきたくないんだが……」
イナトはあの一件からカジ村の話題を避けていた。もちろんルーパルドやロクも同じでカジ村に行く用事は絶対に作らないと誓っていたくらいだ。
「それなら俺を箱に入れればいい。直接自分の部屋に帰れるしな」
「送ってもらう気満々なんですねぇ」
ルーパルドは笑いつつクロノダを見た。
クロノダはルーパルドに反応に同じように笑いつつ言う。
「そんなに長居するつもりはない。いいだろそのくらい」
確かにクロノダの部屋と箱は繋がっている。箱であればわざわざカジ村のワープポイントまで送る必要もないし、楽と言えば楽だ。
「それならまあ、いいだろう」
「楽ができていいな。今度からお前らに配達の足にでもなってもらいたいくらいだ」
「それはやめろ」
そりゃ残念。と微塵も思っていなさそうなクロノダだった。