104.美形の手がかり
店主の名前はネェオ。最近までちゃんと考えられてそうな名前だったのに、今回突然オネェじゃんと思ったが、私の心の中に留めておこう。
ネェオの店ではガラクタから貴重品までなんでも取り揃えているらしい。
かなりの量があるが、どれも綺麗に並べているからか全てが貴重品に見えてくる。
「今日は何しに来られたのかしら? もしかして勇者の剣のレプリカを見に?」
「人を探してるんです。長髪で丸メガネをかけた男性。どうやらかなりの美形らしいんですけど知りません?」
ルーパルドは剣について触れることなくネェオに問いかけた。するとネェオは理解したように頷く。
「うちに来たってことは、アタシが唸りそうなほど美形ってことね?」
「本物を見てないのでわかりませんが、多分?」
目を輝かせて言ったネェオ。そしてその様子を見て苦笑いを浮かべながら頷くルーパルド。
「それなら任せてちょうだい」とネェオは言って目を瞑った。記憶を辿っているようだ。
その間私は展示されている品を眺めることにした。何に使うのかよくわからない不思議な形をした物や、実用性は皆無に見えるがとても綺麗な日用品など。
その中でも1番私が気になったものは、星空を閉じ込めたような球体の置物だった。魔力を注げば、中に入って星を眺めることができるらしい。安ければ買ってみようかと値札を確認する。しかしそこには1億とかいう破格の値段がつけられていた。さすがに娯楽に1億は高すぎる。
「欲しいんですか?」
「いや、別に。ただ面白いのがあるなぁと思って」
イナトは貢ぎチャンスとでも言いたげな表情だ。私は即答してとりあえず他の品に目を向ける。
恋人向けと称してピンク色のハートがふんだんにあしらわれている小瓶があったり、元気もりもり! とか書いてあるちょっとふざけた精力剤があったり。
変なものばかりかと思えばゼヴリンが作っていそうな、かなり繊細なガラス細工があったり。取り扱いの幅が広すぎるのではないだろうか。
そうこうしていると、ネェオは目を開け大きな声で言った。
「1人該当者を思い出したわ! その人は濃い緑色の髪で、色のついたメガネを付けてたの。見えづらかったけど、たぶん赤い目をしていたわね」
イナトはその特徴をすかさずメモした。
「ありがとうございます。お礼と言ってはなんですが、これをください」
「高すぎて誰も買わなかったこれを!? イナト様にはいつもお世話になってるし、半額でいいわ」
「いえ、値引きは不要です」
イナトは躊躇うことなくお金を出し、何かを買っていた。ちょうど私の角度からだと何を買っているのかはわからない。だが、かなり高価なものを買ったようだ。
もしかして星空の球体……いや、まさかね――。
「邪魔するぜ。……ん? リンじゃねぇか」
「あれ、クロノダさん。お久しぶりです」
「おう」とクロノダは頷きながら、大きな袋から剣を取り出した。どれも同じ造形をしている。
「依頼のもの、持って来たぜ」
「クロノちゃん! 勇者の剣のレプリカ、持って来てくれたのね」
クロノダの持っている剣を眺めていたロクは、ネェオに質問を投げかけた。
「こんなに作ってどうするんだ?」
「アタシが勇者の剣のレプリカを作る許可をルーちゃんにもらったって話したら、欲しいって人が多く集まってね。予約制でちょくちょく作ってもらってるの」
勇者の剣を欲しがる人は多く存在する。だが、本物が手に入るわけもない。そのため代わりに本物と似たもので満足しようということらしい。
ちなみに本物と偽って売りつける者がいる可能性も考え、剣には購入者の名前を彫っているのだとか。
ネェオはクロノダから剣を1本1本受け取り包装を施していく。慣れているのだろう。どんどんと綺麗に包装されていく。それをクロノダが奥の部屋へと持っていく。ちょくちょく作ってもらっていると言っていたし、クロノダは勝手をわかっているのだろう。そちらもどんどんと運んでいく。
「……本当はお客様の情報は言っちゃいけないんだけど、長髪の丸メガネのイケメンが勇者の剣を1本予約しているの」
包装した剣の1つを指差し、ネェオは言った。そこにはヒスイという文字が書かれていた。その男の名前だろうか。
イナトはメモに追加で名前を書き、ネェオを見た。
「ということはお店に来るんですね?」
「そうなの。でも、以前店に訪れた時、従者を送るって言っていたから本人は来ないと思うわ」
「従者と会えるだけでも構いません。相手はどこにいるのかもわかりませんので」
「そう。わかったわ。勇者の剣のレプリカができたってお手紙を出すから、いつ頃来られるかも聞いておくわね」
ネェオはすぐに手紙を書いた。ただ、伝書局へと持っていくため、届くまでに数日かかると話した。
「確か救世主様はワープポイントですぐに移動できるのよね?」
別の人宛の手紙の封を閉じながら、ネェオは私を見つめた。私は「できますよ」とすぐに答えた。するとネェオは大きな袋を2つ用意して、困った表情を見せ首を傾げた。
「それじゃあ、ちょっと頼まれてくれない?」




