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102.彼女

「戻ったぞ」


 ロクは女性を抱えて帰ってきた。一瞬ざわついたが、すぐに女性の形を模した人形だとわかり、一同息を吐く。もちろん1人を除いて。


「救世主じゃなく俺だったから、話す間もなく意識が途切れた」

「……」

「お前は何か話したらどうだ?」


 人形を男性に突きつけながら、ロクは言う。男性は人形を受け取り、ため息を吐いた。


「呪いは解けない方がいい。だから僕は救世主を殺そうと思ったんだ」

「なぜ呪いは解けない方が良いのですか?」

「呪いは尊いものだ。人が触れてはいけない神秘――」


 先ほどまで抑揚のない話し方だった男性。突然饒舌となり、かなりの抑揚でペラペラと話し出した。

 話を要約すると「呪われた時の絶望顔最高」「解呪できないのをわかっていながらも救済を求める姿大好き」と言った感じだ。

 どうやらこの男性、神殿に勤めていたことがあるようだ。過去形なのは、すでに辞めさせられているから。聞いてもいないのに辞めさせられた理由もペラペラ喋る。苦しんでる相手に恍惚な表情を見せてしまい、それが何度も繰り返されていたからなのだとか。


 そこにいた全員がドン引きしているのだが、見えていないのか男性はずっと語っている。呪いには様々な種類があり、まだ見つかっていないものもあるはずだ〜となんとか。それを見る前に救世主に解呪されてしまってはたまったもんではないとまで言っている。


「ほう。うるさい男がいると思ったら、元神官サマではないか。呪いならワタシが付与してやると何度も言っているだろう」


 アデルが突然現れて、男性の前に立つ。男性は「ヒッ」と声を漏らした後、咳払いをする。

 

「誰も自分に付与して欲しいなんて言っていません! 他人の絶望顔を拝みたいのだと何度言えば――」

「うるさい。これ以上面倒ごとを起こしたらお前をジュ村追放するぞ」

「ま、待ってください。アデルさんは知りませんか? 救世主様が解呪を覚えているかどうか」

「解呪魔法か? ワタシが教えたのは事実だ。だが、それはお前も知っているあの方法だ。救世主特有のものは知らん」


 アデルは興味がなさそうにそう言った。男性はそれでも腑に落ちないのか「でも」と口を開いた。


「リンを借りるぞ。救世主の力を調べているのは事実だしな」


 聞く耳を持たず、私の手首を掴みスタスタと歩き出すアデル。ロクは私を追いかけ、イナトとルーパルドは男性について調べてから行きますと言ってまた男性へと向き直った。


「事前にあいつのことを教えておくべきだったな」

「あの人のこと、知ってるんですね」

「ああ。まあ、それなりにな」


 アデルから聞いたところ、男性は突然ジュ村に来て呪いについて調べたいと住み始めた。そこまでなら他の呪い好きと同じだが、「僕のために呪われてくれないか」と女性を中心に声をかけまくっていたのだとか。

 そして唯一それを了承したのが、あの人形の姿になっている女性らしい。

 最初こそ呪われた女性を見て興奮していたようだが、人形なのだから表情は変わらない。また、女性は呪いを解いてくれと懇願もしなかったらしい。男性は面白みに欠けると女性を放置。

 そうしていると人形になった女性は、突然「救世主の力で呪いは解ける」と紙に書いた。それを信じた男性は救世主がジュ村に来るのをずっと待っていたと。

 ちなみに顔が醜いというのはあの男性の作り話だったようだ。なぜわざわざ山奥に人形になった女性を置いていたのかはアデルも知らないらしい。


「共謀者はいるか?」

「共謀者? あいつは外で何かしでかしていたのか?」


 アデルは家へと私とロクが入ったところで鍵をかけた。窓もカーテンも開けていない部屋は薄暗い。

 

「関連があるかわかりませんが、救世主である私を殺そうとしたり、呪いを付与してくる者がいたりいるんです」

「なるほど。あるとしても女の方じゃないか? 元神官サマは友人作りが下手だからな」


 まるで自分は上手いかのように言っているが、アデルも同類だと思うのは失礼なのだろうか……。

 

「解呪についても女性から言い出したみたいですし、その可能性はあるかも」


 アデルは私とロクに紅茶を差し出した。自身も注いだ紅茶を飲み一息ついている。

 また呪いか毒が付与されているのではないかと警戒する私。私の様子を見ていたロクも私に倣って手をつけずにいた。


「毒も呪いも入れてない。安心して飲め」


 念の為説明欄を表示してみたが、ただの紅茶? と書かれていた。なぜクエスチョンマークがついているのかわからないが、毒や呪いについての記載は一切なかった。

 私が警戒しすぎているのだろうか。カップを手に取り紅茶を飲む。その途端、体を流れる魔力が活発に巡り始めた。


「これ、やっぱり何か入ってませんか?」

「ワタシの血を混ぜた。……ああ、お前の方には本当に何も入れてないから安心しろ」


 魔力量の増加や魔法強化ができるらしい。救世主に投与したことはないので実際に影響するかは謎だとアデルは言う。

 ロクは何も入ってないと言われたものの、口をつけてしまったと後悔した表情をしていた。


「ワタシは様々な薬や毒、呪いを動物や自分自身に試してきた。そのおかげか、ワタシの血には良い効果がたくさん詰まっているのだ。ほんのお裾分けだ」


 とても良いものを与えた。と満足そうに話しているが、血を飲ませること自体が特殊すぎるだろう。口にはしないが、私もロクも目を合わせ苦笑いを浮かべたのだった。


「そうだ。言い忘れるところだった。ワインを調べたが、すでにお前らの知っている情報しかなかった」


 残念だ。とアデルは言いつつも、すでに他のことを考えているようだ。上の空だった。

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