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101/102

101.違和感の正体は

「これが呪いの注入されていたワインボトルか」


 早速アデルに呪いが注入されていたワインボトルを渡した。コルクもまだ捨てられていなかったので良かった。アデルはすぐさま調べる準備に取り掛かり、綿に微妙に残っていたワインを吸わせる。


「これを使って他にわかることはあるのか?」

「かもしれないから寄越せと言ったんだ。実際にわかるかは知らん」


 イナトの言葉へ即座に返答し、アデルは調べ始める。すぐには結果は出ないからどこかに行っていろと言われ、家から追い出された私達。

 ジュ村には娯楽はない。それは全員呪いに興味があってここにいるせいもあるのだろう。

 これからどうしようかと相談しようと思った矢先、扉から顔を出したアデル。


「ジュ村から出るなよ? 特にリンにはまた唾液と血の提供をしてもらうのだからな」


 それだけ言ってまたアデルは扉を閉めた。なんと鍵をかける音もした。それだけ邪魔されたくないのだろう。


「……で、これからどうします?」


 ルーパルドは辺りを見渡しながらそう言った。皆して黙り込み考える。しかし何も案が出ないまま沈黙は続く。


「あの、救世主様って貴女ですか?」


 そんな中で沈黙を破ったのは、1人の男性だった。フードを深く被り、口元しか見えない少し怪しげな男性だ。

 

「どうかしましたか?」


 私の代わりにイナトが前に出て、質問を投げかける。そこまで過保護にならなくてもいいと思うんだけど……。


「呪われた彼女を助けて欲しいのです」


 男性は悲しげな雰囲気もなくそう言った。加えて「お礼は弾みます」と貴重な素材がたくさん入っているカゴを見せてきた。それにはアデルの作る夢避けの香に使われるものもあった。

 イナトはその素材の数々に不審げな表情を見せた。


「……その彼女はどこにいるんですか?」


 イナトの言葉に、男はジュ村から離れた山を指差した。おそらく私が徒歩で1時間かけて山の前にたどり着くレベルだろう。結構遠い。


「ジュ村の人ではないのですか?」

「元々ジュ村に住んでいました。ですが、彼女が呪いにかかってから山に移住しました」


 男性の彼女は、呪われたことで自分の顔は醜いと思い込むようになっている。思い込んでいるだけで、女性の顔は実際に醜くなっているわけではないらしい。

 だが、彼女は他の女性も自分のようになってしまえばいいと攻撃をするようになってしまっていると男性は説明した。唯一男性にだけは心を開いているため、彼女と一緒に山で暮らすようにしたと言う。


「救世主様の力で呪いが解けるというのはどこで知ったのでしょうか」

「ジュ村にいる人は皆知っていることだと思っていたのですが……」


 男性はイナトの反応に首を傾げた。

 男性はジュ村の人であれば知っていると言っていた。

 だが、アデルは他の者には話さないほうがいいと言ってくれた。アデル自身がそう言ってくれたのだから黙っているはずだ。もし漏れていた場合はきっとすぐにでも知らせてくれているはず。


「聞いてみましょうか。ルーパルド」

「はいはい。行って来ます」


 近くを通りかかっていた人を呼び止め、ルーパルドは話を聞く。不思議そうな表情をしていたが、別れる時には笑顔で頭を下げていた。

 1人では足りないからと、近くで見ていた人や離れた場所にいた人にもルーパルドは話しかけ笑顔で戻って来た。


「やっぱり誰も知らなかったですよ。もし本当に救世主さまが呪いを解けるのなら、ぜひ実験に付き合ってほしいと言ってました。もちろんそんな事実はないってことを伝えておきましたが」

 

 ルーパルドの言葉を聞いた男性は当惑の色を見せた。


「でも僕は実際にジュ村にずっと住んでいた彼女から聞いたんです。救世主様なら私を治せると」

「……彼女はなぜ救世主が呪いを解けると確信しているのでしょう?」

「それは、わかりません」


 イナトは俯く男性を見て、ため息をこぼした。イナトは私の隣に立っていたロクに視線を送った。ロクは頷き口をひらく。


「俺があの山に行って女から情報を聞き出そう。殺しはしない」

「頼む。……貴方はここで待っていてくださいね」


 逃げようと思うなよと言いそうなほどの圧を感じる。イナトは笑顔で圧力をかけるのが上手い。特にいつも爽やかな笑顔を振りまいていることもあってか、迫力がだいぶ違う。

 だが男は恐怖することなく頷き、ただその場で俯き黙った。


 ロクはさっとその場から消えた。ロクの脚力だとどの程度で帰ってこられるのだろう。


「仮に私が呪いを解けるとして、その噂を広めたらどうなると思う?」

「アデルさんに聞いた話ですが、呪いに苦しむ人は多くいるらしいですよ。もし救世主さまが解呪できるのなら、きっと大勢の人が押しかけて来ますよ」

「言われてみれば、そうですね。では彼女はどうやってそんな情報を」


 男性は何も知らない様子で、首をかしげた。

 だが、私は男性にずっと感じている違和がある。それは、抑揚はなく感情がこもっていないまま発せられる言葉。

 彼女を助けてと言いつつもまるで用意された台本をただ読み上げているような言い方。イナトに圧力をかけられても動じない姿。


 イナトに違和感を伝えようかとイナトを見ると、目が合った。しかし首を横に振り黙っているよう指を口に当てた。


「今はロクの帰りを待ちましょう」


 イナトは男性から視線を外さずそう言った。

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