推理小説新人賞を確実に受賞できるトリック ~カレンダーの汚れに気を付けて~
『新海社推理小説新人賞 二次選考通過作品』
あの日の殺人 渡辺毅
手料理に込めた殺意 太田香織
密室VS富豪探偵 伊集院姫子
沈めた死体は静かに語る カエデ
◇
「やったー! 二次選考も通った!」
山口梢はノートパソコンの画面を見て喜びの声を上げた。
カエデは梢のPNだ。
「お互いにやりますわね」
隣に座っている伊集院姫子が呟いた。
姫子は大企業の令嬢だ。
大学のミス研の同学年のメンバー。
そして梢のライバル的存在。
二次選考の結果を一緒に見ようと誘って発表時間まで残っていた。
すっかり日も暮れて部室には二人しかいない。
「底なし沼に遺体を沈めて発見までの時間を稼ぐことで化学検査の精度を落とすという梢さんの作品のトリック、この部室棟のすぐ外の沼を見て思いついたのではございませんこと?」
「うん。そうだよ」
ミス研の部室は三階だが、窓の下は沼だ。
「失礼ですけど、わたくしの考えた新人賞受賞が確実なトリックには及びませんわね」
梢はムッとした。
「姫子ちゃんの作品も見せてもらったけど、そこまで凄いトリックとは思えなかったけど」
そして自分の考えたトリックには自信がある。
「甘いですわね。おーっほっほっほ」
姫子が高笑いした。
「審査員の皆様方に袖の下をお渡しする予定ですの。それがわたくしのトリックですわ」
「小説の中じゃなくて、現実での買収がトリックって」
「富豪ゆえの裏技ですわ」
姫子が立ち上がって壁に掛けてあるカレンダーに近づいた。
「最終選考を経ての受賞者発表は来月末でしたわね。楽しみですわ」
姫子がカレンダーをめくって次の月の最終日にマジックで丸印を付けた。
そしてカレンダーをめくったまま下に視線を向けた。
足元にはビニールシートが敷かれている。
「あら? なぜビニールシート――」
言い終えることなく姫子は倒れた。
梢が隠し持っていたナイフで首の後ろを刺したからだ。
「敷いたのは私よ」
姫子を凶器や重りと一緒にシートに包むと、椅子や机を台にして、窓から底なし沼にポイ。
「甘いのは姫子。私のトリックの方が新人賞受賞は確実だと思うよ。最初からこうするつもりで考えたんだもん」
二次選考通過者はあと二人。
その二人も殺っちゃえば、消去法で私が新人賞受賞。
一次予選の結果が出たときにSNSで調べて本名なのは分かっているし、なんとかなるでしょ。
でも完全犯罪3件はちょっと大変かも。
さっそくミス発見。
危ない危ない。
姫子の血が付いちゃった、このカレンダーも処分しないとね。