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午時葵の吸血鬼  作者: うつのうつ
午時葵の吸血鬼
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秘密は明かされる

 明石と白瀬の戦いをただ茫然と見ていた。

「明石は本当に吸血鬼なんだな」

 意識を失った明石を見て、無意識に俺はそんな独り言を言っていた。

「そうですよ、明石ちゃんみたいな吸血鬼だけじゃなくて他にも狼男とか、世の中の普通の人が知らないだけで、そう言う存在は確かにいるんです」

 白瀬さんは俺の独り言に返してきた。

「最初は信じられなかったですが、流石にこんな光景を目の前で見せられたら、信じざる負えません」

「まぁ全ての吸血鬼や狼男が人間に害を及ぼすかと言うと、そう言うわけではないんですが、魔女狩りの時代や、それよりも前の時代は異端尋問や魔女狩りによって大勢命を失ったそうです。それで、明石ちゃんやそこの狼男さんは人間社会で生活しているのですが、魔女狩りの脅威から逃げ続けているんですよ。」

「それよりも和久さん! すいません、戦いに巻き込んじゃって」

 白瀬さんは血だらけの俺の元へと駆け寄った。

 俺は黙って蹲っている。

「どうしよう、和久さんが死んじゃった」

 顔色を真っ青にした白瀬が言った。

「死んでない」

「そんな顔色で言われても死んでるとしか思えないです! はやく手当てを! 救急車を!でも救急車呼べないし!」

と、焦る白瀬さん。

「大丈夫、ちょっとお腹に重い一撃受けただけだから」

 自分は大丈夫と手を振ってアピールする和久。

「それより明石と、そちらの男性が血だ、らけ、に」

 ただでさえ青白い顔の和久がさらに顔を白くする。

「そっちは任せて、心配しなくても大丈夫ですから」

 そう言うと、白瀬さんは男を持ち上げて地下室から地上の階へと移動する。

 男を地上へと連れて行ったかと思うと、また地下室に降りて来て、今度は明石を上に連れて行く。

 俺も体の痛みが引いたので白瀬さんの後を追う。

 地下室から出た俺に気づいた白瀬さんが俺に頼み事をして来た。

「和久さん、ちょっとお願いがあるんですが、明石に少しだけ血を飲ませてあげてくれないかな? 私の血を飲ませるより、和久さんの血を飲んだ方が喜ぶと思おもいます」

「そんなことを言われてもよくわからないんですが、俺の血でいいんですか?」

「お願いします」

「血ってどれぐらい飲ませたらいいんでしょうか?」

「少しで構いません、一口水を飲む程度もいらないはずです」

 白瀬さんはそう言い、俺に変わった形の刃物を渡す。

「それで手の甲を少しだけ刺してください。手首とか首筋とか切っちゃダメですよ、動脈があるんで救急車呼ばないといけなくなります」

 少し躊躇いながら、渡された刃物で手の甲を刺す。

「そのまま、明石の口に傷口を当ててください」

 俺は言われるがままに明石の口に傷口から自分の血の流れる手を当てた。

「しばらくそのままにしておいてください」

 白瀬さん、そう言いながら血だらけの男の身体を抑えている。

 手当てしている様子は全くない。

「あの、その人の手当をしないとまずいんじゃ?!」

「この人は月明かりに当てるだけで回復するから心配しなくて大丈夫です。それより、この人が完全に回復したら、また暴れ出しちゃうので程々のところで回復を中断させます」

「月明かりで回復ってそんなわけが」

 そう言いいそうになった俺の目の前で男は声を上げて体を動かそうとする。

「ここまで回復すればいいでしょう、ちょっと地下室に連れて行きますね」

 そう言い、男を地下室に連れて行こうとする白瀬さん。

 そんな彼女を引き留める。

「あの、ちょっと聞きたいんですが、なんで明石はいきなり倒れたんですか?」

「それは、この部屋の中に、吸血鬼に効く私特性の薬品を気化させて充満させておいたからです」

 白瀬さんはそう言いい、笑顔で男を担ぎ上げ地下室に連れて行った。

 残された俺は明石の口に血を送り続ける。

「いったい何が何だか」

 独り言のように呟く。

 カフェで寝ていたら目の前に白瀬さんが座っていた。

 いきなり重要な話があると言われ、連れて行かれたのはこの場所、いきなり男が現れて「なんでお前がここにっ!」と男が叫ぶと白瀬さんが現れて男をボコボコにし、流れ弾のように飛んできた白瀬さんの拳で俺が倒れ、男を血だらけにしている白瀬さんの隣でうずくまっていた俺に男の血が雨のように降りかかり。

 その後、地下室に入ってきた明石は叫び声を上げて、全力で回し蹴りを白瀬さんに叩き込もうとした。

 もちろんここに連れて来られる前に少しだけ説明は受けているし、白瀬さんに渡された薬で、少しだけ記憶は取り戻してはいる。

 でもまさかこんなことが起こるなんて。

 ガブリ

 そんなことを考えていたら、ガブリ、ガジガジと音が聞こえそうな勢いで手を噛まれていたた。手を見るとそこには美味しそうに血を吸う明石の姿があった。

「本当に吸血鬼なんだな」

 そう言うと明石は口を離し、俺と距離を取る。

「ねぇ和久くん、見た?」

「見たって何を?」

「私が血を吸っているところ」

「めちゃめちゃ美味しそうな顔してた」

 そう言うと明石は何か言いたげな顔をして下を向く。

「明石、血は足りてるか?」

「正直もっと飲みたい」

 そんなやり取りをしていると、地下室から白瀬さんがやってきた。

「和久さん、そっちはどうかな? 明石は回復しましたか?」

 そう言いながら部屋へとやってくる。

「よかった! かなり回復してますね。この調子なら明日にはなんの問題もなく日常生活に戻れるんじゃないでしょうか」

 白瀬はそんなことを言ったが、俺には明石が回復しているようには見えない。

「大丈夫、動けるようにはなったから、それより白瀬、あなたもしかして魔女狩り?」

 明石はそう聞いた。

 それに対して白瀬は答えた。

「少し違うかな? どちらかと言うとエクソシストとか専門家って言うべきかな」

 少しの間、部屋の中に沈黙が流れる。

「あぁ! 大丈夫! 心配しないで明石! 何も魔女狩りみたいに無差別に殺したりなんかしないよ、むしろ逆かな少なくとも、今のところは貴方達を処分するつもりはないよ」

 明石は疑いの目を白瀬に向ける。

「もし私が明石を殺そうとしていたのなら、とっくに明石は殺されていると思わない?」

「それもそうか」

「さあ、回復も済んだでしょ? 一旦地下室に移動しましょ? 積もる話もあるしね。特に和久さんにはまだちゃんと説明してないんだから」

 白瀬はそう言うと、俺と明石を地下室へと促す。

 地下へ降りた俺たちを待ち受けていたのは、ほとんど回復した狼男の姿だった。

「とりあえず、みんな座ろうか」

 白瀬さんに促され、俺も明石も地下室に置いてある椅子に適当に座る。

「それじゃあ話を始めようか、担当直入に聞くけど和久さん、あなたは吸血鬼や狼男、人魚やケンタウロス、ミノタウロスのような、おとぎ話や物語の中でしか出て来ないような生物存在がこの世に本当に居ると思うかな?」

「いるも何も、思うも何も目の前で明石達の姿を見せられたら、居るとしか答えられないだろう」

 俺は当たり前のことを言った。目の前で見せられたのだ。そう言うしかない。

「そう! その通り! 実際に目の前で見たら、実在するんだって実感したらそう答えるのは当たり前です。だけれど、以前の和久さんはどう? 明石が吸血鬼だと知る前、和久さんが明石に血を吸わせる前、そちらにいらっしゃる狼男が月明かりに照らされて回復する姿を見る前の和久さんはどう? そんな存在が実在するなんて思ってさえいなかったでしょう? 違いますか?」

 そう聞かれ俺は戸惑う。

「確かに知らなかったし、いるわけないと思ってた。でも実在していた。和久さんは、前に私に会った時、明石の男漁りに悩んでるって言ってましたよね? でもあれは男漁りじゃなくて、血を吸っていたんです。明石は吸血鬼ですから食事が必要なんです。人の血を吸うという食事が必要なんです。だから和久さんが悩んでいた男漁りは、実は明石の食事なんです」

 そう捲し立てるように言う白瀬さん。

 俺は驚きさえしない。

 いや何が何だかわかってさえいない。

「もう何が何だか、、、」

 白瀬さんは次に明石に対して言った。

「ねぇ明石、正直に答えて答えてもらえるかな? 重要なことだから正直に答えてね? 和久さんの血を吸ってどう思った? 他の男達の血を吸うのと和久さんの血を吸うの、どっちが嬉しくてどっちが吸いたいのか答えてもらってもいいかな?」

 白瀬さんがそう聞くと明石は目を逸らしこう言った。

「魔女狩りになんでそんなことを答えないといけないのよ! どうせ答えたところで殺すんでしょ?!」

 諦めと殺意に満ちた表情で明石はそう答えたのだ。

「あー、勘違いしないで欲しいんだけど、私は魔女狩りじゃなくて、専門家とかエクソシストって言うべきだよ。明石や狼男さんを殺したりはしない。少なくとも私はそういう立ち位置にいる」

「専門家って何よ?」

「あなた達のような吸血鬼や狼男、それ以外の異端と見なされてきた存在達の専門家でありエクソシストだよ。あなた達のような異端を保護して匿い、一般の人達からあなた達を隠し、保護し続けてきた魔女狩りとは違う存在、魔女狩りの時代にも、私の先祖はあなた達に陰ながら微力ではあるけど力を貸していたの」

 そう白瀬さんが説明すると明石は答えた。

「聞いたことない。私たちに協力してくれたのは、吸血鬼を見ても怯えないような物好きな人間達だった。いつもそうだった、好き好んで人外を匿ったり守ったりするような人間達だった」

「その物好き達の子孫の一人が私でもあります」

「どういうこと?」

「異端を排斥する者も居れば、異端とは思わず協力する物好きはいつの時代にも存在するということよ。そして昔の物好き達は異端者を匿うだけでなく、異端者に対する知識も得た。異端者を助け、微力でも援助すれば、異端者から知識を得られることもあった。そして出来上がったのが私達、エクソシストとかそんな感じで名乗ってるの」

 白瀬さんは一通り説明し終わると話を本題に戻した。

「本題に戻るんだけど、明石ちゃん! 和久さんの血を吸って嬉しかったのかな? 重要なことだからちゃんと答えてね」

 明石はそう言われ、答えづらそうに言った。

「それは、好きな男性の血を吸えるのは嬉しいかな」

 少し顔を逸らして言った。

「和久さん、明石が吸血鬼でも明石のことまだ好きでいてくれるかな? 明石と恋人関係を続けようって思ってくれるかな?」

 俺は唐突に聞かれてその質問の意味がわからなかった。

「そりゃ明石のことは好きだし、それが吸血鬼でも変わらない。ただ、吸血鬼だから他の男の血を吸うのは認める。ただ」

「ただ、なんですか?」

 俺は当たり前のことを言う。

「頭が追い付かない、、、」

 白瀬さんは何言ってんだこいつという目で俺を見た。

「何言ってるんですか和久さん。明石は今まで食事として男漁りをして好きでもない男の血を吸っていたんです。それを和久さんが明石の食事として血を飲ませてあげて下さいって言ってるんです」

「あぁ、そう言う意味だったんですか」

「それ以外に何があるんですか?」

 そう言われて話について行けていなかった自分を恥じる。

「俺の血で食事するのは構わないけど、あまり吸われると死んじゃうんじゃ?」

 素直に疑問に思ったことを聞く。

「明石ちゃん、一回の食事でどれくらいの血が必要なのかな? 教えてくれる?」

「コップいっぱい分も必要ないくらいかな。一口飲ませてもらえば十分なくらい。もちろん毎日は飲まなくても大丈夫」

 明石はそう答えた。

「和久さん、明石の吸血鬼としての食事はあなたに任せていいですか? 明石もそれでい

い??」

「血を失って死んじゃうわけじゃないんだよな? じゃあ明石の吸血鬼としての食事は俺が協力するよ」

「明石ちゃん、それでいい?」

「私は嬉しいけど本当にそれでいいの?」

 不安げに言った明石を見ながら俺は言った。

「乗りかかった船だし、明石が困ってるんだから協力するよ」

「ありがとう」

 こうして、俺と明石の恋愛は少しだけ他の人の恋愛関係と違うものになった。


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