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午時葵の吸血鬼  作者: うつのうつ
午時葵の吸血鬼
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秘密を隠す最大の方法は秘密を持たないこと2

 その瞳は段々と紅く染まっていった。

「でも、説明するよりも実際に見せた方が早いかもしれない」

 紅い瞳で俺を見つめる明石は言う。

「頭の中でイメージして、声には出さずにね」

 明石は俺の瞳を覗き込み続ける。

「今日の朝、何も食べてないでしょ?」

「それに今朝、古くなった歯ブラシを新しい歯ブラシに変えたのかな?」

 顔から汗が出る。出るのは当然だなにせ当たっているのだ。

 今日の朝のできごとなんて、明石が知っているはずがない。

「頭の中で誰でもいいから好きな人をイメージして」

 明石にそう言われて、クラスメイトの友人をイメージをする。

「井出さんをイメージしたのかな?」

 顔から出る汗の量は増える。

 俺は問いかける。

「なんでわかるんだ?」

 明石は少し笑いながら答えた。

「それが私の能力の一つだから」

「能力って言われても、正直驚いた、、、」

「いわゆる読心術のような物、でも私のは少し違う、だって能力だから」

 明石はそう言い、さらに続けて言う。彼女の目は赤くなっていた。あの時の裏路地で見た時のように紅く染まっていた。

「吸血鬼って信じる?」

「吸血鬼? 人の血を吸うファンタジー作品に出てくるあの吸血鬼か?」

「実在するとしたら? 私がそうだとしたら?」

 明石はそんなことをまじめな表情で聞いてくる。

「証拠を見せられたら信じるかも知れない」

「そう、そうよね。証拠を見せられないと信じられないのは当然よね。じゃあ、和久。眠れ」

 紅い瞳で見つめられながらそう言われ、俺は意識を失った。

 意識を失う瞬間、「あなたとはお別れになっちゃうかも」そう聞こえた気がした。

 頭がボーッとする。

 視界も少し霞んで見える。

 近くに誰かが座っているように見えるけど、よくわからない。

 そんな状態から回復するのにそう時間は掛からなかった。

 俺が目が覚めたのはベッドの上だった。上着は脱がされている。

 少し離れたところに明石が座っていることに気が付いた。

 俺はいつのまにか気を失ったんだ。

 近くに座っていた明石が俺のもとへと寄ってくる。

「目は覚めたかな?」

「あぁ、いつのまにか気を失ってた」

 そう答えると明石は言う。

「気を失う前に何があったか覚えてる?」

 気を失う前、明石の目が紅くなっていたあの時の言葉を思い出す。

「明石に連れられて学校を飛び出して、それで」

「そのあとは?」

「明石に頭の中でイメージしたことを全部言い当てられて、その後はうろ覚えなんだけとたしか、見つめられて、そのまま気を失ったような」

 俺は気を失う前の記憶を思い出しながら答えていた。

 でもなんでいきなり気を失ったんだ?

 睡眠障害というわけでもない、いきなり気を失うような病気を患っているわけでもない。

 そうだ、明石の目が紅く染まって、その後で明石が「眠れ」っと一言俺に向かって言った瞬間、俺は気を失ったんだ。

「それじゃあ説明するね、和久は人間の形をしていても人間ではない生き物がこの地球にいたとしたらどう思う?」

 いきなり何を言っているんだと言いそうになった。

 だがここ最近の出来事、明石ににた女性が裏路地で男の首筋から血を吸っていたあの時や、俺が気絶する前の明石の紅い瞳を思い出す。

「気を失う前のこと、思い出したみたいね。口で説明するよりも実際に経験してもらった方が早いと思ったの。いきなり驚かせてごめんね」

 彼女は申し訳なさそうな表情をしていた。

「じゃあ、明石が俺を眠らせたってことか? なおさら訳がわからない、睡眠薬でも仕込んだのか?」

 明石は首を横に振る。

「そんなことする必要はないよ、それより体は動く?」

 俺はベッドから起き上がる。

「少し動きにくさは感じるけど、寝起きの時とは少し違う感じがする」

「そっか、少し私の目を見てね」

 そう言い明石は俺の目を覗き込む。

「それじゃあ、説明のためにこれを用意したんだ」

 そう言う明石が取り出したのは、切り分けられたレモンだった。

「もう一回私の目を見てもらえるかな、レモンを甘くするから」

「レモンを甘くって、冗談はやめてくれよ、そんなのテレビでやってる催眠術じゃあるまいし」そう催眠術でもあるまいし普通の女子高生にそんなことができるわけがない。

「もう甘くなってるよ」

「そんなことあるわけ」

「騙されたと思って食べてみてよ」

 そう言われて俺は明石に渡されたレモンを少しだけ齧る。

「甘い」

「驚いたかな? ちなみに催眠術じゃないから」

「一体どう言うことなんだ?」

 驚いた俺は明石に問いかけた。

 明石は困ったような顔をして答えた。

「似て非なる同じようなもの」

「わけがわからない」

「それこそ説明が長くなっちゃうし、信じてもらえるかさえわからないんだけど」

 そう言い一呼吸置いて続ける。

「もう気づいてるでしょうし、さっきも言ったけれど、私は人間じゃないの」

「いや、いきなりそんなこと言われても信じる訳がないだろう。頭でも打ったのか?」

 信じるわけなんてない、そんなものは空想上の生き物だ。実在する訳がない。

「和久くんを眠らせた時、私の瞳は黒から紅ににならなかったかな? それが証拠って言ったら信じてくれる?」

 俺は気を失う前のことを思い出す。

 確かに紅く染まっていた。

 そして眠れと言われてそのまま気を失った。

「確かに紅くなってたけど、それはカラーコンタクトとか光の加減とかじゃないのか?」

 明石は少し肩を落とす。

 信じてもらえないことがもどかしいのだろう。

「じゃあ電気消すからよく見ててね」

 明石はそう言うと部屋の明かりを消した。

 そして暗い部屋の中で、明石の目は紅く輝いていた。

「それこそ何かのメイクなんじゃ?」

「目を紅く輝かせるメイクなんて聞いたことないよ、まだ疑ってるの?」

「正直、頭でも打ったのかと思ってる」

 そう言うと明石は仕方がないと言うよう中をして刃物とライターをカバンの中から取り出した。

「流石にこれを見たら信じてもらえると思う」

 そう言うと明石は自分の右手に刃物を突き立て、ライターでもう片方の手を炙った。

「何やってんだ!」

 俺は止めようとして明石に駆け寄るがもう遅い。

 ライターは火がつき明石の肌を少しの間炙ったくらいだから、大した火傷にはならないだろう。でも、刃物を突き立てたもう片方の手は血だらけになっている。

「バカ! 早く病院に!」

「行く必要はないわ、もう治りかけてるから」と、明石はそんなあり得ないことを言う。

「治るってそんなに血が出てるのに治ってるわけないだろ!」

「大きな声を出さないで、一応ここセーフハウスなんだから」

 明石は俺を嗜める。

「よく見ててね、私の傷口と火傷の跡」

 明石はそう言い、ナイフで刺した部分とライターで炙った肌を見せる。血で濡れた肌を布で拭うとそこに傷はなく、火で炙った部分も水膨れはおろか赤くさえならなかった。

「これが証拠、私が吸血鬼だって信じてもらえるかな?」

 彼女は少し困ったような笑顔で人間の俺を見た。俺はどう答えたらいいのか全くわからなくなった。

「証拠を見せられたら信じるかもしれないって、和久が気を失う前に言ってたから、証拠を見せたの。驚かせちゃってごめんね。私たちは人の影に隠れて生きているんだ。だから表に出てこない。本当ならこうやって説明することもなく、自分が人ではないとバレたら姿を消すんだけど、和久にはどうしても伝えておきたくて」

 彼女は何か決意したような顔で見つめてくる。

「それじゃあ私たち別れよう、和久にはもう私の正体バレちゃったし、それじゃさようなら」

 そう言うと明石の目は紅く光る。

 今までの説明の時よりもずっと紅く輝いていた。

 俺はまた紅い瞳に意識を奪われ眠りについた。

 悩んだけれどこれでいい。

 明石はそう思った。

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