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午時葵の吸血鬼  作者: うつのうつ
午時葵の吸血鬼
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秘密の現場

 時系列は私が白瀬と和久を置いて、そろそろ時間だと言ってカフェを立ち去るまでさかのぼる。

 私は約束の時間が近づいたことを時計で確認し。

「あの時はありがとね! そろそろ時間だから私は行くね!」

 そう言いトレーを返却口に返しに行き、もう一度、白瀬と和久の座る席へ向かい一言。

「それじゃあまたね」

 そう言い残し、その場を離れてカフェを出て約束の場所へ向かう。もう欲望が抑えられない。我慢できない。早く行かないと、そう思い先を急ぐ。私は早足で男との約束の場所へ向かう、楽しみだ。空腹を満たす至福の時間。

 約束の裏路地へ近づくと早足から歩みを緩める。息を整えて、ゆっくりとした歩幅で裏路地に入っていく。男がいた。約束より少し早めに来ているようだ。

「ごめんなさい、待たせちゃいました?」

「待ってないよ、それよりどうしますか? ホテルにでも行く?」

 いきなりそう聞かれ、私は少し考え、周りに人がいないことを確認し言った。

 ほほ笑みを浮かべ、流し目を送り、男を誘うように。首に手を廻しながら言った。

「人もいないみたいですし、ここでちょっとだけ」

 男は少し目を見開き、喜んだような顔をして、私の両手を受け入れる。男の首に口をつけ、下を這わせる。男は積極的な私に少し驚いているのか喜んでいるのか息が荒い。

 男の首筋に唾液をつけたところで小声で言った。

「いただきます」

 ガブリ、そう聞こえたような気がするほど手際良く行きよく牙を突き立てた。それと同時に男の口を布で塞ぐ。痛みはほぼ感じないはずだ。男はうめき声を布でかき消されながら、意識をだんだん失って行った。

 男の意識がなくなった後、私は自分の口と男の首筋に残った血液を拭いた。その時、ガサッという音が私のいる位置から離れた場所から聞こえてきた。

 まさか見られた? 私は後を追う。

 いくらお腹が減ってたからといっても、裏路地で血を吸うのはやめたほうがよかったか。道を曲がり大通りに出て、あたりを見渡す。人混みの中に和久と同じ服を着た男性が走っている姿が見えた。

「やっちゃった・・・」

 私は頭を抱えて、血を吸った男の記憶を消すために裏路地へと戻る。気を失った男の両目を無理やり開けて、両目を見つめる。男の瞳が鏡のように、私の赤く光る両目が移っている。男の記憶はこれで消えた。

「この後どうしよう」

 男の記憶は消したけれど、大きな悩みを抱えることになってしまった。今になって思えば迂闊だった。

 白瀬とカフェに入り、和久に後をつけられていると知ったた時点で、今日の血を吸う予定を変更すればよかった。今となっては後の祭りだ。

「うーん、仕方ない! 追いかけるか!」

 私は和久の後を追いかけることを決め、口の周りや、服に血の跡が着いていないことを手持ちの鏡を使って確認する。そして、女子高生とは思えないような速さで和久の後を追う。

 血を吸った後だから、体の調子は最高だ。これなら相手が陸上部のエースでも自動車でも追いつけるだろう。

 明石はどんどん距離を詰めていく。一旦、和久が走っている道からそれ、裏道に入る。

 回り込む作戦だ。人気の少ない裏道なら全力で走れる。我ながら女子高生とは思えない速さで走り抜け、和久の先回りをする。息を整え、和久を待ち伏せする。

「速いな、あれじゃ人間は追いつけない」

 走り去る和久の姿とそれを信じられない速さで追いかける二人を女性が呑気に眺めていた。

「さて吸血鬼の処刑には手間がかかりそうだ」

 そう言い残し、誰にも知られずに女性は静かに去っていった。

 和久は走っている。それも息を切らしながら、傍から見たら変な人だ。

 私の目の前まで和久は走ってくる。私がいることに気が付きさえせずに。

 和久は「えっ」という声を上げ、何が起こったのかわからないという顔をしている。私の目の前。ほんの二、三メートル前に来るまで気が付かないなんて、どこを見て走っていたんだろう。

 そんな和久に私は声をかける。

「どうしたのよ和久、そんなに息を切らせて」

 和久は呆然とした顔をして、何が起こっているのかわからないと言いたげだ。

「あの明石、さっきまで明石は裏路地に居たんじゃ?」

 私は何を言っているのかわからない、という顔をする。

「買い物に行こうと思ってこの辺歩いてたんだけど、どうしたの大丈夫?」

 私の答えに驚いたのか、和久はさっきまで走ってきた道をふり返える。

「そんな馬鹿な」という和久の小声が聞こえたが、聞こえなかったふりをする。

「ところで和久はこの後は予定あるの?」

「家に帰ろうかと思ってるんだけど、、、」

「そっか、じゃあ私は買い物して、その後受験勉強だから」

「それじゃあまた」

「邪魔しちゃ悪いし、私はもう買い物行くから、またね!」

 そう言い残し、私はデパートに向かおうとする。

「ちょっと待って」

 和久に止められる。何を聞かれるんだろう? 感づかれたか?

「何??」

「さっき向こうの裏路地で明石に似た女の子を見かけたんだけど、明石じゃないよね?」

 探りを入れられた。と、言うほどのものでもない。

「向こうの裏路地って、もしかして、ショッピングモールの辺りの?」

「ちがう」

「じゃあどこのこと?」

「それは、ホテル街のあたりの・・・」

「そこに私が居たっていいたいの?」

「そう、そこで明石に似た女の子がいて、男と会ってたんだけど、明石じゃないよね」

 思い切った質問をぶつけてきた。

「そんなわけないじゃない!!! どれだけ離れてると思ってるのよ」

 そう言うと和久は納得したのか。

「それもそうか、あんな所から走って来たんだから、明石の足じゃ追いつけないよな」

 どうやら納得してくれたらしい。

「それじゃ私は急ぐから、またね」

「ああ、俺も帰るよ受験勉強頑張って」

 そう言い、私と和久二人は別々の方向へ向かう。

 何とか誤魔化せた。そう思いつつ、集中して和久の声を聴こうとする。

「でも、確かにあれは明石だったような」

 後ろから、そう声が聞こえてくる。ごまかせたとは言っても、疑問に思うのは当然か。たぶんだけど和久はもう一度、あの場所に戻って、現場を確認するのだろう。

 でも、そこにはもう何もない。男もとっくにいなくなっている。

 明石の誤算は一連のできごとを見ていたのは明石と血を吸われた男と和久だけでは無かったことだった。

 帰宅した私はシャワーを浴び、ベッドに横たわる。

「危なかったーー。流石に和久に今バレるのはマズ過ぎる。何とか誤魔化せたかなー。誤魔化せてたらいいなー」

 私は何年も生きている吸血鬼だ。もちろん恋愛も何度もやったし、私が人ではないとバレて、その当時の恋人が魔女狩りの団体に報告して火炙りにされそうになったことだってあった。もちろん、今生きているのは逃げることには成功したから、だけれど、それでも冷や冷やした。

 もっと楽に血を吸えたらいいんだけど、とそんな悩みを抱えている。

「他の私の同胞ってどうやって血液確保してるんだろう?」

 そんな疑問が脳裏によぎる。

 でもそんな疑問は、日本のこの場所にいる限り、答えは出ない。

 何せ同胞の多くは日本国外にいるのだから、彼ら海外の吸血鬼がどうやって血液を採取しているのかは気にはなるが、参考になったとしても、日本で実践するのは難しいだろう。

 風の噂では、宗教団体が協力して血液を採取して、同胞に提供してくれていたりもするらしいが、魔女狩りの歴史もあるので、私はあまり信用はしていない。

 今日の吸血でしばらくは持ちそうだし、明日からも体調も良いはずだ。

「さぁ、明日は学校に行って受験勉強か」

 そう思い、私は床に就く。


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