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午時葵の吸血鬼  作者: うつのうつ
午時葵の八咫烏
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パートナー契約

 会費が安い、友達ができる、先輩から講義でわからないところを教えてもらえる。という意外にメリットだらけのこの謎のサークルに入会することになった俺は今、サークル活動と称して大学の教室を一室丸々許可なく勝手に使っている。


 講義が終わった後に講堂を使うことはないので勝手に使わせてもらっているのが現状だ。

 さてそんな中、謎の怪異物の小説を読む会員、魔術関連の本らしき物を読む会員、会談話を始める会員、大学の教科書を熱心に読んでいる明石さん。という構造だ。


 俺は何をしよう。


 そう思ってると突然、話しかけられた。明石さんだ。


「ねぇ今度、あなたの家に遊びに行ってもいいかしら?」


「暇なときであればいつでもどうぞ」


 適当な返事をしておいた。どうせ来ることなんてないだろう。


 俺は、大学の課題でもやっておこう。

 

 その週の休日の昼下がり。大学で出された課題を午前中に何とか切りのいいところまで終わらせた俺は一息ついていた。


 スーパーで買った安物の紅茶のティーバッグをマグカップに入れてお湯を注ぐ。


 金のない大学生にとって、安物の紅茶のティーバッグは強い味方だ。何より飲み物に味がある。


 何とか提出には間に合いそうだけれど、一息入れたらまた課題に取り掛かろう。

 

 スマホにメッセージが来た。


 そこに書かれていたのは。


 『ねぇ、今時間空いてる? 前に約束したでしょう。遊びに行っていいって暇だったら今から遊びに行っていい?』

 明石さんからのメッセージであった。


 そう言えばそんな会話したな。約束は約束だ。時間も空いている。


 『今、大学の課題がひと段落したところです。来てもいいですよ』


 返信した俺は少し後悔した。何せ相手は吸血鬼、食べられるんじゃないか?


 そんな心配をよそに明石さんは今から行くと家の住所を聞いてきた。


 教えていいのかこれ。


 


 十数分後。


 明石さんは俺の家のドアの前に立っていた。


「立ち話もなんですし中にどうぞ」


「そうさせてもらうわ。それとはいこれ、飲み物とお菓子」


「ありがとうございます」


 できる女は手土産を欠かさないということか。


「座ってもいいかしら」


「どうぞ。何もない部屋に遊びに来て何か楽しいんですか?」


 男の一人暮らしの家に楽しいものなんてないだろう。


「楽しいこと? そうねぇ、あるわね。あなた私のこと気が付いているでしょう?」


 いきなり単刀直入に聞かれた。誤魔化しは、通用しなさそうだ。なにせ眼が紅い。読まれてる。


「何についての話のかわからないんですが、、、」


「私を見てもらえないかしら」


 紅く染まった明石さんの瞳が俺を覗いている。


「やっぱり気が付いてたのね。なんで私を退治しないの?」


「敵う気がしない」


 事実だ。最上クラスの怪異に人間が勝てるとは思えない。到底無理だ。思考は読まれ。行動は操られ。血は吸われ。肉は食べられる。


 捕食者と食料の関係というやつだ。


「本当にそう? あなた、私に初めて会った時に私のことに気が付いているでしょう? それもすれ違っただけで」


「テニスサークルの見学に行った時のことですか?」


「そう? 何かがあったら対処しようって考えてたでしょ?」


「そんな前のことはあんまり覚えてないですが。明石さんがそういうんだったらそういう状況だったんでしょう」


「吸血鬼相手に対処策考える様な人なんて専門家の中でもかなりの腕の持ち主よ。どんな人生送ってきたの?


「家系的にそういう怪異とかに詳しい家系なんです。ただ、僕自身が専門家というのはちょっと違うかもしれません」


 事実、専門家ではない。かつて専門家だった人物を先祖に持つただの人。それが僕だ。


「専門知識はあるけど専門家じゃない。それにしては私のこと怖がらないのね」


「まぁ、どういう存在なのかは知っているし。人を食するということも知っています。もちろん吸血鬼にもよるけれど無差別に食べるわけじゃない吸血鬼もいる。そうでしょう?」


 そう聞くと明石さんはいたずらっぽい笑いを浮かべて聞いてきた。


 笑っている口の中から人体の骨の全てを嚙み砕いて飲み込み、喉から胃袋に人肉を流し込みそうな尖った牙が見える。


「じゃあ、私があなたを食べに今日ここに来たって言ったらどうする?」


「今の発言が冗談だということを心の底から祈ることにします」


 明石さんは体を乗り出して前かがみになって俺に近寄ってくる。


「もしも私が本気で言ってるとしたら」


 そんなものは決まっている。例え勝てぬ戦いであったとしても、やらざるおえない。


「全力で対処します」


「そう。そりゃそうよね」


 そう言い少し考える明石さん。


「ねぇ阿部君、あなた恋人いないでしょ? 取引しない? 私に阿部君の血を吸わせる代わりに私は阿部君と体の関係になるっていう取引。いい取引だと思うんだけれど」


 随分思い切った取引内容を提示してきたな。慣れているのだろうか?


「その内容は納得できないのでお断りします。ただ聞きたいことが、血を吸う機会がなくて困ってるって感じですか?」


「そんな感じね。手っ取り早く血が吸えて私のことを知っていて身近にいる人間がいてくれると助かるの」


「取引内容を変えましょう。僕の血は吸ってもいいです。ただし、僕の体や精神に害のない範囲でです」


「もちろんよ」


「血を吸わせる代わりにもしこの街で何か怪異が出現して問題が起こったり、問題が起こる前に対処に協力してもらいます」


「それは退治するということ?」


「時と場合によっては退治、時と場合によっては共存方法を模索するということです」


「さすが専門家の一族ね。下手な専門家だったら退治一択よ。その若さでよく臨機応変に対応しようとする姿勢、驚いたわ。その内容で不満はないわ。ただ、私も学生だからそっちに使える時間は限られてくるかもしれないけど」


「念のために吸血鬼を味方につけといたら心強いってだけです。それにこっちから変に介入する気はあまりないですし。害になりそうな状況を見つけたら対処するってだけです」


「へぇ、そうなんだ。ますます気に入った」


「それより一つ言いたいんですけど、常に目を紅くして話しかけてくるのやめてもらえません? 思考を覗かれているのが怖いんです」


「それは失礼。でもあなたがどういう人なのか知りたかったの。許してもらえないかしら」


「そういうことなら、何も言いません。ただ私、面白い人間じゃないですよ」


「それは私が決めることよ。契約成立ってことでいいのね?」


「そうなりますね」

 こうして俺は明石葵と吸血鬼である彼女とパートナー契約を結ぶことになった。


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