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午時葵の吸血鬼  作者: うつのうつ
午時葵の八咫烏
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眼福のサークル見学3

「ねえ、ラーメン食べに行きましょう」

 眼福にならなかった見学の後、明石さんから誘われ俺たちはラーメン屋に向かう。

「随分ヘンテコな元カノさんね」

 ねぇ? 恋人いるの? どんな人と付き合ってたの? と女性らしい質問をしてきた明石さんに見せた俺の高校生時代の恋人の画像を見せた。

 人の青春真っ盛りの高校生時代の恋人の画像を見て文句を言うのは知り合ったばかりの女友達未満の明石さんである。

「そりゃどうも、とごがヘンテコなのかご高説を賜りたいところではあんるだけれど」

 彼女は年齢的には先輩にあたる人物だが家庭の事情やなんやらかんらやで浪人したらしい。

 今は俺と同じ大学に入学を果たし、晴れて女子大生になっている。

「あら、言い返したいことでもあるのかしら私に見惚れていた阿部くん」

「少なくとも見とれてはいない」

「嘘わよくないわよ? ずっとあなたから視線を感じるもの」

 視線には敏感なようだ。

 女性は人から特に男性の視線に敏感なのだろうか?

「視線なんて送っていない!!!」

「あら、女の直感を舐めないほうがいいわよ」

「そりゃ怖い」

「メンヘラちゃんの直感は当たらないけど、私の直感は当たるから」

「明石先輩はなんでそんなに自分の直感に自信ありげなんだ?」

「先輩なんて呼ばなくていいわ。浪人して今は大学の同回生なんだし、明石さんでいいわよ」

 そう、俺と明石さんは同じ大学に通う同回生。高校が同じだったらしいけれど、彼女は俺のことを高校生時代は知らなかったらしい。

 俺は知っていたが、ずっと窓際に座ってる女性って話だった。

「明石さんは大学入学するまでどんな高校生生を送ってたんですか?」

「何の変哲もない普通の女子高生生活よ、、、命の危険を経験したわけでもなかったし、、、恋人を欲しがってるただのの女子大生ね」

 命の危険を感じる高校生活なんてアニメの中ぐらいだろうとツッコミを入れたくもなるが、それより気になることは。

 女性から面と向かって恋人欲しがってるって言われたぞ!

 これはあれか、世の大学生達が言うワンチャンあるって言うやつか?

 もはや色恋沙汰と縁のない俺、正直に言って何せ俺の学部学科は生徒の8割と9割男性の理系学科、正直恋愛とは程遠い生活を送ることになると入学早々に青春生活とはおさらばだとばかり諦めていた。

 彼女は会費の安い大学非公認のサークルに入ることにしたらしい。

 非公認サークルのデメリットは大学から予算がもらえないこと、非公認サークルだから活動内容は自由なこと。

 そして彼女の入会したサークルの名前は世界怪異研究会。

 一体何を研究するんだ?

 明石葵でも研究するのだろうか? これほど身近に研究対象がいるにもかかわらず、そのサークル会員達は研究対象の存在にさえ気が付いていないのだろう。

 友人を作る目的、会費が安い、非公認だから出席の義務などの大学公認の部活動に特有の規則がないことが入会の決めた理由と明石さんは言っていたが。

 もしかしたら、俺もこの怪異怪奇研究会に参加することで、会費安くて友達作れて理系の男しかいない空間から女性が居る癒しの空間に移動する資格を手に入れることができるかもしれない。

「そう言えばお昼ご飯どうする?」

 どこで昼ごはんを食べるのか決めずに俺たちは大学内から外へ出る。

「大学の近くの店で食べよう」

「そうしましょう」

「どこの店にする?」

「それはもちろん、私の所属するサークルらしく、私の大好物の人の血液滴る人骨ラーメン店にしましょう」

 どんな店に連れて行く気だよ、とツッコみたくなる。

「そんなもん売ってる店ないですよ」

「冗談よ、、、」

 そりゃそうだ。あるわけない。そんな店があったのなら、それは法に触れることになるだろう。もはやカニバリズムである。

 だが彼女に人間の常識は通用はしない。

「それにしても勝手に大学の教室の中でサークル活動なんてやってていいんですか?」

「他のサークルも似たようなもんよ。講義が終わったら教室は使うことはないし、許可をとりに行くのも面倒だから勝手に集まってるって感じらしいわ」

 まぁ活動するのに必要な場所が普段講義で使ってる講堂ってのも大学ならではなのかと思いながら昼ごはんを食べに向かう俺は明石さんと移動する。

「明石さんはなんで医学部に入ったんですか? 無茶苦茶頭いいじゃないですか?」

「チャレンジしてみたかったからよ」

「チャレンジャー精神旺盛なんですね。俺は成り行きで情報系です」

「it系はやめときなさい。精神病になるわよ。精神病にかかって数年間入院する人もいれば、命を捨てる人もいる」

「まるで見てきたかのような言い方ですね」

「it企業の中を見てはいないけど、そう言う患者さんを見たこともないけど、、、そう言う業界研究みたいな感じで調べたりはしたわ、、、」

 業界研究でしらべたか確かにただの大学生がその業界の職業ならではの病気を知る機会なんてそれくらいだろう。

 そして、それが俺もその業界に行くのを躊躇っている理由でもある。

 転学部か転学科しようかなとも思いもしているくらいだ。

 彼女が嘘をついているのかどうか少なくとも判別する能力は僕にはない。

 見てきたのなら見てきたような言い方も納得だ。そして彼女の能力を考えれば、見てきた可能性も捨てきれない。

 そんなことを考えて歩いていると明石さんは言い始めた。

「今日のお昼ご飯はここね!」

「葵さんはここがいいんですか?」

「えぇ、所属しているサークルがサークルだし。それっぽい話でもしましょうか。実のことを言うとこのラーメン屋不思議な噂があるの」

 明石さんはもうサークルに所属しているのか。どんな人達の集まるサークルなのかは後で聞こう。それより不思議な噂とはなんなのだろう。

「不思議な噂とは?」

「ここのラーメン屋、1回目に来た時は二度と来るかこんなクソまずいラーメン屋っ! 脂濃すぎるだろ! って言って客が離れていき。二度目にそのお客が来るとこう言うの、あれ? 1回目に食べた時と感想が全く違う違う! そして3回目にこのお店でラーメンを食べるとこう言うの。俺がラーメンに求めていたものはこれだ!」

「どんなラーメンなんですか?」

「きっと何かの妖術でも使っているに決まってるわ。 調査よ!!!」

「要するにここのラーメンが食べたいだけだと言うことですね」

「そう言うこと」

 食券を買い2人でカウンター席に座る俺と明石さん。

「あいよ! 脂濃いめ、味濃いめ、麺硬め一つ! 脂薄め、味薄め、麺普通一つ入ります」

 店員さんは注文を受け、厨房に入りラーメンを作り始めた。

「ちなみに阿部くんはこのお店に来るの何回目なの?」

「初めてです」

「そう、じゃあ3回は来ないといけないわね」

「3回来ないと良さのわからないラーメン屋なんて初めて聞きましたよ」

 店員さんが完成したラーメンを持って来てくれた。

 こ、これは・・・

 胃もたれするんじゃないかと思うほどの脂の乗ったスープ。スープに脂の膜ができがってる。

 薄めにしといてよかった。

「いただきます」

 胃もたれするのではないかと思えるラーメンを美味しそうに食べる明石さんは心なしか目が紅く輝いてるように見える。

 そんなにうまいのか?

「いただきます」

 俺もラーメンに手をつける。

 ・・・・・・。

「ご馳走様でした」

 俺と明石さんは店の外にでる。

「明石さん、あのラーメン屋二度と行かないです」

「あのラーメン屋の新しい常連客予備軍が生まれたわね。だから言ってるじゃない2回目に行ったら感想が変わるって」

「絶対に変わらない自信があります」

「その自信を持っていられるのも今のうちよ。さぁ、行きましょうか」

「そうしましょう」

「ねぇ、連絡先教えてくれない? うちのサークルも見に来てほしいの」

 できれば吸血鬼に関わりたくはない。

「お断りします」

「そうそれは残念、私が妖怪のコスプレでもしてたら来てくれるのかしら?」

「コスプレには興味ないですが、、、行ってみましょう」

 こうして俺は未来有望な何かの専門家予備軍達の勇姿を見に行くことになった。


 サークルに活動と言っても何か特別な活動をしているかと言うとそう言うわけでもないようだ。

 ただ単に怪しいオカルト系の本を読んでいる連中や、期末試験に向けて勉強している連中、講義で出された課題を着々と先輩のアドバイスを貰いながら解いていく会員。


 人は悩む。

 仕事で悩む、人間関係で悩む、大学の先輩後輩の関係で悩む。極端な話、人間の悩みの正体は欲と人間の認識だ。

 それにしても、あのラーメン屋は不味かった。

 ラーメンついでに少しだけ思ったことがある。 

 文明の否定とは存在の否定である。

 少なくとも俺はそう思う。

 文明に始まりはある、終わりもある。

 人間の寿命に始まりはある、終わりもある。

 物語に始まりはある、終わりもある。

 怪異に終わりがあるのか始まりがあるのかは知らない。

 

 文明の否定とは存在の否定である。

 例えばラーメン屋専門店にラーメンより美味いカレーが売られていたとして、もし有名なラーメン評論家や権力者がラーメン屋専門店にカレーなんてあるわけがないと言えばそれはなかったかことになる。

 例えラーメン屋専門店にラーメンより美味いカレーが存在していたとしてもだ。

 ラーメン専門店なのにラーメンより美味いカレーが売られているといえばあり得ないと批判されるだろう。

 もっとわかりやすく言えば村八分にされると言えばいいのだろう。

 権力のある人間がラーメン専門店にカレーはないと言えば、そうなってしまう。

 それが世界だ。

 それが間違いであったとしても。

 

 でももしも、この世界に権力者の言うことが信用できないという状況が作り出されたのたのなら、発信力のある動画配信者達がラーメン屋にラーメンより美味いカレーが売られていると確固たる証拠を持って動画配信などを行なったのならどうなる。

 きっとそのカレーは権力者が何を言おうと民衆に認知される。

 民衆からは権力者が何を言おうと信用してもらえなくなる。

 

 ではこう考えてはどうだろうか?

 この世に怪異は存在する。

 そんなことを言えばこの世の中の人間はきっとこう言う。

 権力者もこう言う。

 怪異など存在しないと。

 でもラーメン屋にラーメンより美味いカレーが売られていたとして、それがラーメンなく人間だったとして、それがカレーではなく怪異だったとしたら。

 きっと人は怪異を認知せざるおえなくなるのだろう。

 なぜ俺がこんなことを言い始めるのか?

 それは謎サークルに入ることになったからだ。

 それにしても、眼福にはならなかった!!!


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