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午時葵の吸血鬼  作者: うつのうつ
午時葵の吸血鬼
26/37

午時葵7

 次の日。


 俺と柊さんは二人で外を歩いている最中だ。


 あなたの荷物も持って来て、と言われたので白瀬さんに渡された荷物も持って行くことになった。


 今は二人で横に並んで歩いている。


「聞きたいんですけど、お願いは一つじゃないって言ってましたけど、まさか一番大きなお願いがこの散歩なわけないですよね?」


「当たり前じゃない。他のお願いがメインよ。このお願いはついでよ」


「メインのお願いを聞かせていただかないとこちらとしては何もできないんですが」


「メインのお願いは散歩が終わった後にでも言うことにする。それと、あなたが大切そうに持っていた御守りは持って来てるわよね?」


 白瀬さんに渡された御守りのことを言っているのだろう。確かに白瀬さんが言うにはこれがあると帰って来れるらしい。そりゃ大切に肌身離さず持っている。


「えぇ、もちろん持ってます」


「そう、ならよかった。ちゃんと持っておいてね。それがないとお願いは叶えてもらえなさそうだし」


「これがないとお願いを叶えられないってどういう意味ですか? この御守りは僕の高校の知り合いから貰ったものなんですが」


「それじゃあ私は、その御守りをあなたにあげた人に御礼を言わないといけないわね。その御守りのおかげで、私のお願い聞いてもらえたわけだし」


「ん? 聞いてもらえたって? あぁ、花火とか散歩のことですか。でも柊さんって変わってますよね。高校生相手に花火に付き合えとか散歩に付き合えとか。まぁ、高校生なんで叶えられるお願いなんてたかが知れてますけど」


「そうかしら、私は一番重要なお願いを叶えてもらったけど」


「え? まだ、花火と散歩しか叶えてないですが」


「あら、本当にそうかしら? さあ、行きましょう。目的地はもう少しよ」


 そう言って、柊さんは先を歩く。


「あの、目的地ってもしかして」


 俺は柊さんに拾われる前に白瀬さんと別れた神社の近くまで来ていた。


「あそこの神社よ」


「散歩で神社って何するんですか」


「少し自然の多いところに来たかっただけよ。仕事はストレスが溜まるものなの、ストレス発散よストレス発散」


「そんなもんなんですか」


「そうよ」


 そんな会話をしながら俺と柊さんは神社に向かって階段を登る。


「それにしても、ここの神社って結構ボロボロですよね。そのうち建て替えとか、改修工事とかやるんでしょうかね?」


 まぁ、将来的に改修工事が行われることは知っているが適当な世間話の話題としてはいいだろう。


「さぁ、どうでしょうね? あなたはどう思う? 将来的に改修工事とかされると思う?」


「されないんじゃないですか、、、行政だって神社の改修より他のところにお金使ったほうがいいでしょ?」


「じゃあ私は将来的に改修工事されることに賭けるわ。鳥居が見えて来たわね」


 そう言った柊さんは歩みを止めた。


「どうしたんですか? いきなり立ち止まって」


 俺はそう聞いたら、柊さんは振り返り俺を見る。


 この人に見られるのはあまり慣れない。


 何だか見透かされている気がする。


「ねぇ、もし仮に将来的に改修工事されてたら、賭けに勝ったってことで、私のお願いをさらに一つ聞いてくれないかしら」


「その賭けはお断りします。第一賭けるようなことじゃないでしょ」


「それは残念ね。この賭けには勝てると思ったのに。ところで御守りは持って来てるわよね? 出してもらえる?」


「持って来てますけど、なんでそんなものを」


 俺はリュックの中から御守りを取り出した。


「ちょっと目を瞑って、その場所で待っててもらえるかしら」


「いいですけど、何するんですか?」


「あなたには何もしないわよ。ほら、早く目を瞑って」


 そう言われて俺は目を瞑る。


「そのままちょっと待っててね」


 鳥居のすぐ手前の階段で目を瞑って待っている。


 柊さんの歩く足音が聞こえる。


 柊さんが階段を登って鳥居の向こう側へと歩いている気配を感じる。


「目を開けていいわよ」


 目を開けると彼女はやはり鳥居の向こうにいた。


「こっちに来てもらえるかしら」


「それはかまわないんですが、鳥居を潜ったらどこか別の世界にいたりしないですよね?」


「何言ってるの、そんなお伽話やファンタジーものの作品みたいなことが起こるとでも思ってるの、、、?」


「一応聞くんですが、鳥居を潜るのって僕のためになることなんですよね?」


「もちろんよ」


 俺は覚悟を決めて鳥居を潜ることにした。


「鳥居を潜るのは構わないんですが、また会えますよね?」


「何言ってるの? 潜っただけで何かが起こるわけないでしょ、、、」


「・・・そうですか、じゃあ潜ります」


 そう言って、俺は鳥居の向こうに居る柊さんに向かって歩き始める。


 一歩二歩三歩と俺は足を進めた。


 後一歩で鳥居を潜れる位置にまで来た。


 少し覚悟がいる。何せ白瀬さんにも同じことをされた。


「一つ聞きたいんですが、また会えますよね?」


「もちろんよ。お願いを叶えてもらわないといけないしね」


「そうですか、それじゃあ潜りますね」


「ええお願い」


 俺は最後の一歩を踏み出して鳥居を潜る。


 その先には柊さんは居無くなっていた。


 代わりにあったのは改修工事が行われた後の神社だった。


「和久」


 真後ろから名前を呼ばれた俺は真後ろを見る。たった今潜った鳥居の方向だ。


 そこに立っていたのは柊さんではなく。


「私のお願い叶えてくれるのよね?」


 明石葵だった。


「さぁ行きましょう」


 そう促され葵は神社の階段を降りて行こうとする。


「ちょっと待って」


「どうしたの?」


 階段を降りて行こうとする葵を呼び止め、純粋に疑問に思ったことを聞く。


「この鳥居、潜ったら別の世界に行ってるなんてことないよね?」


「何言ってるの? そんなことあるわけないじゃない」


「なら潜る」


 そう言って鳥居を潜って階段を降りて行く俺と葵。


「この後、時間空いてる? お願いなんだけどこの後少し散歩するから付き合ってもらえるかしら?」


「散歩しながらいろいろ聞きたいことがあるけど、話してくれるんですよね?」


「気が向いたらね」


 二人でそんなやりとりをしながら階段を降りていく。


「ところで葵、今度一緒に花火やらない?」


「もちろんいいわよ」


 俺は階段を降りて行く後ろ姿の葵に話しかける。


「なぁ葵、花火の締めは線香花火にしよう」


「締めの線香花火ってどんな文化よ?」


「昔、お世話になった女性に教えてもらった超マイナー文化だよ」


「へぇ、きっと魅力的な女性なんでしょう?」


「あぁすごく」


「そう、私の恋人が魅力的な女性って言うのだから、どんな女性か洗いざらい吐いてもらわないといけないわね」


「魅力的ではあるけど謎めいてる人だよ。そこが魅力」


「へぇ、そうなんだ。妬けるわね、、、」


 お願いは一つじゃないってらしい、次は一体何をお願いされるのだろうか、そんなことを思いながら俺は葵と散歩という名のデートに向かう。


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