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午時葵の吸血鬼  作者: うつのうつ
午時葵の吸血鬼
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悩みも秘密もより深く

 俺は帰り道の途中、ネットで検索する。今度、大型の本屋にでも寄ろう。親に頼めば本くらい買ってくれるだろう。図書館でもいい。明石にアドバイスされた通り、教科書以外の本も読んでみよう。何冊か教えてもらった本はAMASONでも検索した。

 白瀬から連絡が来たのはそんな時だった。明石のことで話をする約束をしていた。

 スマホを見るとそこには、約束した私とのデートはいつにしますか。と可愛いスタンプ付きでメッセージが送られてきていた。

 デートの約束はしてないはずです。と返信すると。

 「明石の件についてです。」帰ってきたメッセージにはそう書かれてあった。

 確か明石に関して伝えることがあるって話だった。

 どんな話なのか、電話やチャットじゃダメなのか?と送ると、実際に会ったほうが説明しやすいので直接じゃなきゃダメです。

「仕方ない予定を開けるか」

 俺は週末に白瀬と会う約束をした。「デートなので気合い入れて来てください」

 メッセージに書かれてあったが白瀬さんは何を言っているんだ。

 数日連続で明石と会い、そして週末になった。待ち合わせ場所は駅前だ。二日前に連絡したら、お昼ご飯で気になるお店を見つけたからそこに行くと言っていた。

 ちなみに白瀬さんの奢りらしい。

 気になるラーメン屋でも見つけたのか、明石が言うには白瀬さんは食に目がないらしい。いつも、稼いだお金で飲食店を渡り歩いているらしい、本人の前では言えないが太らないのかだろうか?待ち合わせ時間の少し前に白瀬さんがやってきた。

「和久さんおはようございます」

「おはよう白瀬さん」

 明石と初めてデートした時もそうだったけど、高校の制服姿しか見ていないから、私服姿を見た時のドキドキは半端じゃない。

「どうかしましたか? 和久さん」

「いや、可愛い服だなぁと」

「もしかして口説いてます? 葵に怒られますよ」

「口説いてはないです。いつも制服姿だからちょっと驚いて」

「あぁ、たしかに制服でしか会ったことないですね、でもなんで私服で驚くんですか?」

 白瀬さんは不思議そうに疑問をぶつけてきた。

「いつも制服姿しか見てないから、私服を見ると驚くと言うかなんと言うか」

 答えると白瀬さんはニヤッと笑みを浮かべて言った。

「へーときめいたんですか私に? ときめいちゃったんですか私に? 私服にときめいて恋の始まりですか? 葵に恨まれますよ?」

「揶揄わないでください。俺には明石がいるんでときめきません」

「あら残念」

 悪ふざけをしているうちに気がついた。

「そう言えばさっきから、明石のこと葵って呼んでませんか? 元から葵って呼んでたんですか?」

「ああ、あのできごと、和久さんが明石の秘密を知った後、二人で連絡してたらそれなりに仲良くなっちゃいまして、それで葵って呼ぶようになったんです」

「そうなのか? もともと仲が良かったんじゃないのか?」

「もともと普通のクラスメイトでしたし仲は良かったんですけど、名前では呼んでなかったんです。あのできごとで、私も職業が明石に知られて、明石も私が明石に害を加える気がないって知ったので、それでさらに仲が良くなって、それで名前で呼ぶようになったんです」

「そうなのか」

 俺でさえ、明石のことを名前で呼ばせてもらえないのに、と少しばかり羨ましい。

「そう言えば、明石が言ってましたよ。そろそろ名前で呼ばせてもいいかなーって」

「そうなんですか? 前は苗字で呼んでって言ってたんだけど、明石が言うには最初は苗字で呼んで、だんだん名前で呼ぶようになっていくような徐々に進んでいく、そういう恋愛関係が楽しみたいらしいんですよ」

 そう、それが原因で俺は明石から未だに名前で呼ばせてもらえていない。まるでお預けされてる犬みたいな扱いだ。

「お預けされてる犬じゃないですか」

「それは俺が思っていることです」

「思ってたんですか? 実は葵が言ってたんですよ、お預けしてるって」

「明石の中でも俺は犬扱いなのか」

「高校生男子なんて性欲盛んな犬と同よって葵が言ってました」

「ほんとに犬扱いじゃないか」

 明石に犬扱いされていることに少しばかりショックを受ける。

 そしてそんなやりとりをしながら駅に入りホームへと向かっていく。電車が来て扉が開く。

 俺と白瀬さんとともにホームから人が乗り込んでくる。

「ちなみに聞きたいんですが、お預け期間とかって言ってませんでしたか?」

 何がどれだけお預けされるのか、お預けの期間はの短縮はあるのだろうか?

「あと五年はお預けしないとって言ってました」

 名前を呼ぶだけで五年ですか!

「その他の行為のお預け期間は言ってませんでしたか?」

「その他の行為? ああ、その他はー」

 ごくりと生唾を飲む。

「十年くらいはお預けしないとって言ってました」

 干からびちまうよ。と俺は心の中で叫び声をあげながら聞く。

「十年は流石に冗談ですよね?」

「割と本気での顔でしたよ」

 俺は白瀬さんと顔を見合わせる。

 ガタンゴトンガタンゴコンと音を立てて電車は次の日停車駅で止まり、扉が開き、乗客が乗り込んできて、扉が閉まり、電車はまた走り始めた。

「冗談が上手いですね白瀬さん」

「だから、本気の顔してましたって」

 お預け期間の話は割と本気で明石は言っているらしい。

「吸血鬼ってガード難いんだなー」

「そこら辺は明石の価値観だと思います」

「そうなんですか?」

 電車が駅に到着し、新たに乗客が乗り込んで来る。

「明石と付き合い始めてから、恋人らしいことってあんまりやっていないようなきがしますし」

「そんなわけないでしょう?」

「いや、一緒に図書館や学校に残って受験勉強や期末テストの勉強やってるって感じてはあるけど、手を繋ぐのも一年以上時間かかったんだから」

「そうなんですか? 手を繋ぐに一年ですか、ちなみに名前で呼ばれるようになったのはいつからなんですか?」

「それは付き合う前だったとおもいますけど、先輩後輩みたいな関係だった頃」

 そう答えると白瀬さんは少し考えるようなそぶりを見せた。

 そうしている間に電車は終点に到着した。少し離れた地方の田舎から街中の駅のホームに到着した。 乗客は一斉に降り、俺と白瀬さんが中に取り残された。

「そのお預けも、もしかしたら明石が吸血鬼だということに関係しているかも知れません」

 白瀬さんはそんなことを言い始めた。

 たしかに明石は血を吸う吸血鬼だ、でも貞操観念や恋愛観にまで影響するのか?

「一旦電車を降りましょう」

 俺は外に出て空気を吸う。

 白瀬さんは多分、何か思い当たることでもあるのだろう。

「さあ、予約しているお店に行きましょうか」

「えっ?」

 店を予約していると言った白瀬さんはツカツカと歩いていく。予約までしてくれているとは思ってもいなかった。俺はそれについていくしかない、後を追う。

「店を予約してるって、どんな店を?」

「前から行ってみたかったお店です」

「そうなのか」

 とついていった先は俺たち高校生には高そうな店だった。たとえバイトで稼いでいてもだ。

「確か奢りって言ってましたよね?」

「そうです私の奢りです」

 いつもの会話のように、何気ない感じで言われた。

「ご案内いたします」

 女性店員さんに案内され個室へと通される。

「こちらで少々お待ちください」

 そう言われて個室の扉が閉められる。俺と白瀬さんは椅子に座る。

「他の席が空いてるのにわざわざ個室を用意してくれたのはありがたいな、明石について話すわけだし」

「個室で予約したんです」

「そうなのか、まあ人前で明石の事について話すのもなんか変な目で見られそうだしな」

「それもあるんですが、やっぱり前から気になってたお店なのでゆっくり食べたいじゃないですか」

 そう言っているが、普通の客席もそれなりの広さのお店だ。普通の客席でもゆっくり楽しめそうではある。

「ていうかほんとに奢りでいいのか?」

「ええ、仕事で結構稼いでいるので」

 エクソシストはそんなに稼ぎがいいのか、まあ高校生のできるバイトの最高値くらいだろう。

 そうしているうちに料理が運ばれてきた。うわぁ美味しそう。という顔をしている白瀬さん。食べるの大好き系女子って雰囲気だ。

「いただきます」

 と、白瀬は言って、俺もいただきますと言い料理に手をつける。

 美味い。一言で言うと、美味い。 食べた事ないくらい美味い。白瀬さんはよくこんな店を見つけたな。

「食べながらでいいんで、明石の話をしましょうか」

「そうだな」

「実は葵なんですが人間ではないことはもう知ってると思うんですが、年齢も和久さんより年上なんです」

 あっさりと何を言ってるのかわからないことを言い始めた。

「えっ?」

「だから、年上なんです」

 何を言っているのかわからない。そんなわけがない。

「明石って、高校受験で浪人とかしてないはずだけど!?」

「そうではなくですね、理由は吸血鬼だからです」

「吸血鬼って人より早く歳をとるのか?」

「それも違います」

 白瀬さんは説明を続けた。

 吸血鬼、人の血を吸う生き物。それは生まれた時からそう生まれるのではないそうだ。

 人が生まれ、育って人生を送る上で、人が吸血鬼に襲われるのだと。

 襲われた人はどうなるのか、襲った吸血鬼はどうなるのか、それについて俺は今まで説明されていなかった。いや、説明するタイミングがなかった。

 明石葵という人間は人間として生まれた。

 人間として産まれて、人間として育てられた。

 だが明石葵には生まれながらに病気を抱えていた。

 明石の両親はそう長く生きられないと医師から伝えられていた。

 事実そうだった。

 明石葵は長く生きられなかった。

 物心つく前にはもうこの世から去っていた。

 そのはずだった。

 そして事実そうなった。

 人間、明石葵は物心つくという年齢よりも早くにこの世をさった。

 そして死の間際、もしくは同時に襲われた。

 何に?

 今、明石葵を名乗る存在にだ。

 人間、明石葵は病院で息を引き取った。

 そこに看護師として紛れ込んでいた吸血鬼に襲われた。

 今の明石葵に襲われた。

 人間の明石葵の体を乗っ取った吸血鬼、明石葵はその後、明石家の子として育てられた。

 奇跡的に生き延び、明石家の子として成長した。

 何も知らない人たちからはそう見えた。

 それが実際に過去に起こったできごと。

 吸血鬼は血を吸う以外にも人の体を乗っ取る能力を持つ。

 白瀬は俺にそう説明した。

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