9話 『勝ち誇ったような笑み』
「別れたいって……何の冗談ですか?」
「急でごめん、俺と別れてほしい」
「……嫌です」
「ごめん」
「……ま、待ってください! 先輩!」
言い捨てるように立ち去ろうとした礼二の腕を掴んで、胡桃は引き止めた。
「急に別れたい、って……いくらなんでも勝手すぎます」
「……勝手なのは胡桃ちゃんでしょ」
「……え?」
「他の子と付き合ってるのに、俺と付き合ったんでしょ?」
「そ、そうですけど……それは前に許してくれる、って」
礼二が胡桃と恭太の交際を知ったのは、つい最近だった。
胡桃が浮気したというニュースが校内中を巡ったとき、学年の壁を超えて礼二の耳にも届いた。
同じく浮気をしてる礼二からすればどうでもいい話なのだが、胡桃目線、必死に謝罪して礼二に許してもらっていた。
「……でも、やっぱり浮気してた子とは上手くやっていける気がしないというか、一度浮気した人って何度もするって聞くし……だからごめん」
「絶対しません! 私、先輩のことが大好きなんです!」
「……ごめん」
「……私、先輩がいなくなったら……もう」
「ごめん」
胡桃の必死の説得は虚しく、礼二は謝罪を残して立ち去った。
(……どうして)
放課後、いきなり呼び出されたかと思ったら別れを告げられた。
一度は浮気を許してくれた礼二だったが、急にどうしたのかと胡桃は頭が真っ白になった。
(……まさか)
そのまさかだった。
別れた礼二が向かった先、そこは家ではなく近所にある公園。
「言われた通りに言ってきたよ……」
「ありがとうございます」
恭太が勝ち誇ったような笑みを浮かべて待っていた。
× × ×
遡ること数時間。
材料を集め終えた恭太は、ついに礼二本人に接触を試みた。
「頼む……胡桃ちゃんとは別れるから、言わないでくれ!」
やはり恭太の思った通り、礼二と胡桃を繋ぐ鎖は脆かった。恭太が学校中に浮気を広めると脅したら、礼二はすぐに別れると誓ってくれた。
今までの準備が無駄に思えるくらいに、礼二はあっさりと胡桃を切り捨てた。
「じゃあ、今から俺の言うことをそのまま、胡桃に伝えてください」
「そのまま? ちゃんと別れるから、言い方くらい自由に……」
「月島さんにも言いますよ?」
「ゆ、由香に……!? なんで君が彼女のことを……わ、分かった。言う通りにする」
月島さんの名を出すと礼二は面食らったような顔をした。どうやら下の名は由香というらしい。
礼二は大人しく頷いて受け入れてくれた。
「……じゃあ、行ってくるよ」
× × ×
「ありがとうございます」
任務を終えた礼二に恭太は礼を告げた。
これで学校での居場所はなくなり、礼二という拠り所も潰えた胡桃は終わり。
復讐のゴールが見え思わず笑みが溢れそうになった恭太に、礼二が恐る恐るといった様子で聞いた。
「これで俺の浮気の件は……言わないでくれるんだよね?」
「ごめんなさい、それは無理です」
「…………は?」